TOBA-BLOG 別館

TOBA作品のための別館
オリジナル水辺ノ世界の作品を掲載

「山一族と海一族」54

2018年06月08日 | T.B.1998年

 マユリは鳥たちの世話をする。
 その横で、カオリも手伝う。

 賢い、山一族の鳥。

 先日の山火事で
 鳥たちは過敏になっているのだ。

 マユリはより丁寧に、鳥たちに接する。

「カオリ」
「何?」
「無理はしないで」

 カオリは首を振る。

「無理はしていないわ」
「大丈夫?」
「ええ、もちろん」

 カオリは空を見る。

「そろそろかしら?」
「え?」

 そう返して、
 ああ、と、マユリは気付く。

「そうね。そろそろね」
「兄様たちが海一族の村に着くころ」

「行きたかった?」

 マユリは訊く。

「うーん」

 カオリの返事は歯切れが悪い。

「一緒に行けばよかったのに」
「足手まといになっちゃう」

 カオリは小声で云う。

 マユリは、カオリを見る。

 よく判らないが、
 命の恩人である、あの海一族に会いたかったのだろうか。

「大丈夫よ」

 マユリが云う。

「ほら。ヨシノ作の猛毒エキス入り小瓶を渡したし」

「どう云うこと!?」


 そして


 舞台は、海への使者へ。


 ああ。ここが。

 山一族のひとりが呟く。

 暮らし慣れた山とは違う。

 その山を下り
 さらにその先へと進んだところ。

 見慣れない景色。
 潮の香り。

「違うな」
「ああ」
「何もかも、違う」

 数人の山一族は、その景色を見る。

 はじめて見る世界。

「こんなところで、よく・・・」
「向こうも同じように思うところだ」

 その山一族のひとり。
 アキラが口を挟む。

 誰しも
 違う世界で生きていくことに、抵抗がある。

 けれども、

 そこで当たり前に
 生きる者たちがいる、と云うこと。

「お前もよく、海一族の村に入ったものだ」
「そうだな」

 海一族の村の入り口に着く。
 そこからは、海一族の者の先導で進む。

 しばらく村の中を歩き

 やがて

 開けたところへと出る。

 広場なのだろう。

 大勢の海一族が集まっている。
 広場の中央には、海一族の上の者たち。

 山一族は立ち止まる。

 アキラは、肩にいる鳥をなでる。
 落ち着かせる。

 海一族の
 上の者たちの中から、ひとりが前へと出る。

「よく来た。山一族の使いの者たちよ」

 そう、海一族の長が云う。

 山一族も、ひとりが前へと出る。
 海一族の長とあいさつを交わす。

 これから、

 あの日に起こったことについて
 そして
 今後のことについて

 話し合いが行われるのだ。

 長い時間をかけて。

 ふと

 アキラは顔を上げ、横を見る。

 大勢いる海一族の中に、見知った顔がのぞく。

 ああ。知っている。

「久しぶりだな、トーマ」

 そう、口元を動かす。
 目が合う。

 その先で、トーマも頷く。



NEXT

最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。