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「海一族と山一族」48

2018年05月22日 | T.B.1998年

海一族と山一族。
今まで必要最低限の接触で過ごしていた
二つの一族が揃っている。

「こんなことは、
 今までには無いだろうな」

「トーマ!!」
「ミツナ!!?」

駆け寄ったミツナは
トーマを上から下まで眺める。

「いや~、無事でよかった。
 ケガは、まぁ、そこそこあるな。
 生きてるなら何より」
「なんとか、な」
「カンナや、ミナトも心配していた」
「……そうか」

彼は司祭見習いでもある。
つまり、ミツナの師は司祭。

「……ミツナ、実は」
「司祭様の事?」
「知っているのか」
「いいや」

だが、と
ミツナは何とも言えない表情を浮かべる。

「まぁ、裏一族が紛れ込んでいた事と
 あの場に姿を表さなかった事で
 皆、何となくは察している」

「そうか」

トーマは、コズエとミツグを引き連れている
長と目が会う。

「………」

うむ、と長が頷いて、声を上げる。

「さて、皆!!
 共にケガ人がいるようだ。
 まずは、彼らの治療から行おう」

そして、と長は言う。

「その後に、
 これまでの話しを聴かせてもらおうか、トーマ、それに山一族」

4人はそれぞれに応急処置を受ける。
それが少し落ち着いた頃、
トーマとアキラは共に語り出す。

全ては裏一族が仕組んだ事。
それぞれの一族に巧妙に潜り込み
元からあった別の儀式を
生け贄が必要なものだと改変していった事。
最近起きていた異変も
すべて裏一族の手によるものだったこと。

つまり、

「もう、生け贄は必要ないんだ」

アキラの言葉に続けてトーマが言う。

「犠牲者はもう出ることはない」

「なんだって」
「生け贄が、必要無い?」
「しかし、そんな事があるのか?」
「だが、確かに裏一族は潜んでいたし」

「俺達は、裏一族に
 裏一族のために利用されていたんだ」

両一族のざわめきは続く。

今まで、続いていた伝統の儀式が
もう必要無い、と
皆が受け入れるにはまだ時間が掛かる。

まだ、混乱している者も多いだろう。

「まあ、でも」

トーマとアキラは顔を合わせる。

次の儀式は
早くても十年以上先。
それまでには、皆が結論を出すだろう。

「それについては
 また改めて、正式な場を取り持つとしよう」
「では、フタミ様にそう伝えます」

その場にいる者の中で
ある程度の立場にいるのであろう、山一族の女性が答える。

よし、と海一族の長が手をあげる。
引き返すという事だ。

「もちろん、トーマもだ」
「え、でも、長」

「早く戻って、手当をせねば」

トーマの手のケガは
決して浅い物では無い。

「ほら、山一族も、皆戻るわよ」

山一族側も同じ様に動く。
事態は落ち着いたとは言え
それぞれの村の事もある。

「姉様、」

カオリが山一族を誘導していた女性を引き留め
トーマを見る。

「まだ、お礼もしてない」
「きっとフタミ様から礼状がいくはずよ」
「でも」

トーマも、アキラとカオリを見る。

ここに、これ以上残る理由はない、が

だがここで

「突然にお別れも」
「淋しいよな」

海一族と山一族、
本来であれば相容れない一族同士。

また今度、とは言えない。

「お別れ?」

海一族の長が振り返る。

「お別れ、とは?」

いえ、とトーマは答える。

「敵対する一族だけど、
 それなりに協力した仲だから」
「トーマよ、そんな事を言うようになったか」
「すみません」

トーマの苦笑いに、
長は息を吐く。

「………山一族よ」

長が、アキラを見る。

「これからも、トーマの事をよろしく頼む」
「………?」

「長!?」

驚いているお付きの者に
良いのだ、と告げる。

「しかるべき通知を出せば、
 海一族への入村を許可しよう」


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