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「悟と行子」2

2014年09月12日 | T.B.2002年

 部屋の中にいた……彼女、を、彼は見る。

 彼女も、目を大きく見開いて、彼を見ている。
 その髪は、白い。

 なぜ、黒髪の一族である東一族の村に、白色系の髪の彼女がいるのか。
 まさか、彼女は、……西一族、なのか。

「なぜ、ここにいる?」

 彼は再度訊く。

 彼女は、目を丸くしたまま、彼を見ている。
 その質問に、答える。

「なぜって……、ここから外に出ないように、云われているからです」

 ああ。
 つまり

「東一族なのに、生まれつき白色系の髪だからか」

 彼がそう云うと、彼女はうつむく。

 ごくまれに、東一族でも、黒髪以外で生まれることがあると云う。

 白色系の髪。

 その者は
 隠されるように、ひっそりと育てられ、
 誰にも知られることなく、死んでいく。

 この部屋の彼女も、そうなのだろう。

 彼は立ったまま、
 部屋の中に坐っている彼女の姿を、よく見る。

「西一族が、捕えられているのかと、思った」

 その彼の言葉に、彼女は顔を上げる。
 彼に云う。
「あなたも、私と同じ、髪色なのですね」
 さらに
「私、同じ髪色の方に会ったのは、はじめてです」

「ああ。俺は」

 彼は、彼女に近付く。

「西一族なんだ。白色系の髪で、当たり前」

「西一族……?」

 西一族の彼は、この、東一族の彼女に素性を明かしても、大丈夫だろうと思った。

 この部屋に、閉じ込められている彼女は
 おそらく、西一族と東一族の対立を、よく知らない。

 東一族の村に、西一族が入り込んでいるということが
 大きな問題であることに、きっと、気付かない。

 彼女は、首を傾げる。

「あなたは、誰?」
「だから、西一族だよ」
 彼が云う。
「西一族を知らない?」

 彼女は、再度、首を傾げる。

「西、一族だと、この髪色が当たり前なのですか」
「そうだよ」
「外へ、自由に行けるのですか?」

 彼は、彼女を見る。

「あんた、生まれたところが悪かったな」

「生まれたところ……」
「西一族に生まれていたら、その姿でも、胸を張って生きられただろうよ」

 彼女は何も云わない。
 ただ、彼を見る。

「まあ。生かしてもらってるだけ、仕合わせ、か」

 彼女が訊く。

「西一族は、どこにいるのですか」
「え?」
「近くにいるのですか?」
「おいおい」

 彼は、彼女に手を向ける。
 息を吐く。

「俺の話はいいだろ。……それより」

 彼が云う。

「俺は、あんたの話が聞きたい」



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