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「高子と彼」13

2019年06月04日 | T.B.2002年

湶の弟が病院を尋ねてくる。
体の弱い彼は
定期的に健診を受けている。

「最近はどう?
 少し寝不足かしら?」

あぁ、と少し宙を見つめながら
湶の弟は答える。

「うん。ちょっとね」

「1人であの子の面倒を見ているのだもの。
 休める時間を作った方がよいわ」
「いや」

彼は首を振る。

「沢子や透が気遣ってくれる。
 今日も面倒を見てもらっているし」

でも、と続ける。

「沢子の所ももうすぐ生まれるだろ。
 そうしたら、
 無理は言えないから」

1人でこなすことに慣れないと、と。

「抱え込まない方が良いわ。
 あなたが倒れたら
 誰があの子の面倒を見るの?」
「そうだな」

んん、と
まだどこか眠そうな顔で湶の弟は答える。

「もっと大変な時に
 1人であの子を見ていたんだなって」

もう居ない人の事を。

「頼れる人を増やしておきなさい。
 具体的にはどうなの?」
「夜、なかなか寝付かなくって。
 母親が恋しいのかな」

「………子守歌でも歌ってあげたら」

母親が歌っていた物を。

「あーうん。
 俺はあんまり上手じゃなくて」
「上手下手じゃないわよ」

あ、と思いついたように
湶の弟は言う。

「湶は結構上手だよ」

「そうね、」

きっと、良い声で
歌ってくれるのだろう。

「所で、高子は?」

子守歌、と問われて
高子はいやいや、と首を振る。

「全く持って自信はないわ」

えーでも、と
それまで後ろでカルテを控えていた
医師見習いの稔が突然会話に入ってくる。

「自分全然歌えないからって人ほど
 歌、上手いですよね、先生!!」
「そうなのか、高子!?」
「止めなさい、そういうフリは!!」

もう!!と
高子は後ろの稔に振り返る。

「あれ?」
「………圭、どうかした?」
「いや、」

その羽根飾り、どうしたの、と
問いかけて、止める。

誰がそれを持っていたか
ふと、思い出したから。

「落ち着くところに落ち着いてくれたら
 俺は別に良いんだけど」
「だから、何が?」
「んんー、別に」

T.B.2002
彼女と彼の話。
「高子と彼」




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