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「ヨツバとカイ」8

2014年09月16日 | T.B.2000年

飲み物売りが、ヨツバの前を歩いて行く。
温かかったお茶は半分以上残っていたが
とっくの昔に冷え切っていた。

ヨツバは中身をこぼして、カップも捨てる。

カイは来ない。

あの後、ヨツバは言った。
カイも準備があるだろうから、
また、数日後に。と。

覚悟があるならばその時にまた北一族の村で会おうと。

今日はその日。

ヨツバは分かっていた。
カイはきっと来ない。

最初に声を掛けられた時から
ずっと疑問だった。

なぜ、カイはヨツバに話しかけたのだろう、と。

多分それはヨツバと同じ。
恋人と別れるなんて言いながら
本当はそんなつもりなんてちっとも無いと言うこと。

自分でも答えが出ている事に
気付かないふりをして
誰かに背中を押して欲しかっただけ。

カイは、きっと
自分の村で生きていく決心をしたのだ。

それとも単純に
カイは西一族であるヨツバを
からかっただけかもしれない。

「……本当はカイって名前でもないかもね」

ヨツバは立ち上がる。
もう、夕暮れ時だ。

帰路につきながらもヨツバは露店に立ち寄る。

なんとなく
カイから貰った装飾品をサトルへ渡すのは
どちらにも悪い様な気がしたからだ。

サトルには別に選ぼう。

そう思うヨツバの腕には
その装飾品が揺れる

カイから貰ったその飾りは男物で
ヨツバの腕には少し大きい。
もし、カイにまた会えたのならば
長さを変えて貰おうと思った居た。

「今度、いつか会ったら、その時に」

店主が包んだサトルへの土産を抱えながら
ヨツバは北一族の村を進む。
もうすぐ、西一族の村に帰るための馬車が出る。

町はずれの橋に近づくと、見慣れた姿が見えた。


「―――サトル?」


ヨツバが名前を呼ぶと、
振り返ったサトルが、あぁ、と手をふって答えた。

「仕事は終わったの?」

「今回の仕事は疲れた。
 早く村に帰って、ゆっくりしたい」

そうねぇ、と答えながら、
ヨツバは何気なく後ろを振り返った。

そこにはただ、
夕日にてらされた二人の影が長く長く伸びていた。



T.B.2000 北一族の村で
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