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「戒院と『成院』」13

2019年12月24日 | T.B.2002年
戻りましたと告げる『成院』に
医師は一度顔を上げ、そうか、と頷くと
カルテに視線を戻す。

初めて担当した患者。往診。

今まで見習いだった『成院』も医師になり、
医師は「大医師」や「大先生」と呼ばれる様になる。

……いや、少し違う。

自分は医師としての仕事をするために
行ったのではない。

「患者に薬は使わない、そう決まりました」

それは、と大医師は言う。

「君が決めたのか、
 それとも宗主が決めたのか?」
「患者の家族と話して」

家族、と言ってよいのか、と
『成院』は内心首を傾げる。

「俺が意見を通しました」

だから大医師である彼にも
何かお咎めがあるのかもしれない、と
『成院』は詫びる。

「迷惑を」

「構わないよ。
 おそらく、咎めも無いだろう」
「そうでしょうか?」
「そういう物なんだよ」
「うん?」

何が、と思うが
この村で長く医師をしている彼には
分かっている事なのだろう。

この村では全てを宗主が決める。

そして、
宗主に遣える者の1人として医術大師、
つまりこの大医師がいる。

「今日は疲れただろう。
 早く上がっていいよ」
「いえ」

そんな事はと断る『成院』に
いいから、と大医師は言う。

「………では、お言葉に甘えて」
「そうそう」

ところで、と
大医師は問いかける。

「それ、どうしたんだい?」

大医師は『成院』が抱える大きな包みを指差す。
ああ、と言って
『成院』はそれを抱え直す。

「使って欲しい、と」
「患者から?」
「はい」

それならそうしてあげなさいと言い
大医師は仕事に戻る。
『成院』もそれに従う。

それが彼女の希望ならば、と
大医師は1人呟く。


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