TOBA-BLOG 別館

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「ヨツバとカイ」7

2014年09月09日 | T.B.2000年

「私の村に来てみない?」


ヨツバの言葉に
カイは驚いたような表情を見せて、急に静かになった。

「……そうだな」

市場も少し落ち着いたのか
人影も減り、
とても静かな午後だった。

カイはそれからもしばらく黙り込んで
なかなか返事をしなかった。

それはそうだろう。

敵対している相手の村に
来てみないか、
と言っているのだから。

冷戦状態の今とは言え
無事でいられる保証はない。

「西一族は狩りの一族、だから、
 狩りの腕さえあればなんとか生きていける、と思うの」

東一族と言うことを隠しても
黒髪と瞳と言うだけで
肩身の狭い思いをするだろう。

それ、でも

「あなたは、そこなら
 カイとして、生きていける」

自分の代わりに死んだ兄弟の事を思い
身代わりの様に生きていくのではなく。

カイはカイとして。

あぁ、とカイが言葉を漏らす。

「そう、だな」

うん、と暫くと、
額に手を当てながらうつむいていたが

やがて、顔を上げる。

胸の前で指を組みながら
空を見上げる仕草は

まるで
神に祈る時の姿に見えた、

「あぁ、そうだな」

カイはどこか自分に言い聞かせるように、
消え入りそうな声で答えた。


「―――そうしよう」



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