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「海一族と山一族」17

2017年01月24日 | T.B.1998年

トーマは山一族の青年に振り返る。

「お前、カオリと言ったな」

覚悟を決めなくては。
カオリの事を匿うと決めた以上
これはトーマに責任がある。

「俺は、山一族のカオリを知っている」

山一族の青年はトーマの言葉に
一瞬目を見開いた後、そうか、と呟く。

彼が立ち上がったので
トーマは少し距離を取る。

「おい、武器は無しだぞ」

なぎ倒して置いて、納得してくれるだろうか、と
トーマは両手を挙げる。
武器には手を付けず、攻撃の意図が無いと示すため。

それに、この状況では
カオリの手がかりを持つトーマの方が
優位に立っているはずだ。

「………」
「………」

しばらくの沈黙の後、
山一族も同じ様に手を広げてみせる。

「カオリはどこだ」

トーマは彼に問いかける

「確認なんだが、お前は」

問題は彼がどんな目的で
カオリを連れ戻しに来たのかという事。

「カオリが今
 どう言う立場にいるのか
 知っているのか?」

その言葉に、山一族はトーマを見る。

トーマは悟る。

彼は知っている。
カオリが生け贄になるという事を。
そして、そのための迎え。

「カオリは、どこだ?」

山一族はトーマの質問には答えず
カオリの居場所を問いかける。

トーマは首を振る。

「居場所は教えない」

教える訳にはいかない。

山一族の目が細められる。

「カオリは返してもらう」
「なぜだ」
「山一族だからだ」

当然だ、と言わんばかりに
山一族が答える。

「なぜ、カオリが両一族の犠牲にならなければならない」

言葉の応酬で思わず出た言葉に
トーマは自分で驚く。

「…………」

今までは納得していたつもりの犠牲も
知っている人になったらこの有様。
情けないと思わず口に手を当てる。

「生け贄にするために
 連れに来た訳じゃない」
「……なに?」

トーマが山一族を見つめる。

彼もまた複雑そうな表情を浮かべている。

「お前は、カオリと
 どう言う関係なんだ?」

山一族は答える。


「兄だ」


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