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「山一族と海一族」20

2017年01月20日 | T.B.1998年

「生け贄の日を早めると云うのはどうだ?」

 ヒロノとメグミは村の中を歩く。
 族長フタミの屋敷へと向かって。

 あたりには誰もいない。

「そんなこと出来るわけないでしょう」

 メグミは大きく息を吐く。

 ヒロノは云う。

「この生け贄は、本来選ばれた者ではない」
 だから
「早く殺してしまえば、何ごとも丸く収まる」

「あんた、本気で云ってる?」

 メグミは目を細める。

 誰が生け贄であろうと、命を失うことには変わりない。
 簡単に執り行うことではないはずだ。

「このまま、災難が続いてみろ」
「あんたがいる限り、私は災難だらけよ」
「おい。口が減らない女だ」

 ヒロノは持っている杖を鳴らす。

「海一族から、儀式の不手際を問われることになりかねない」
「どうかしらね」

「何だ」

 ヒロノは再度、杖を鳴らす。
 苛ついている。

「どう、とは、どう云うことだ」

「アキラが云っていたのよ」
「何を?」

「これは人災じゃないかって」

「人災?」

「動物たちの異変も、一族に広がる病も、毒のせいだって」
「毒?」

 ヒロノは笑う。

「毒って、いったい誰が!」
「知らないわよ」
「そうだな。確かに毒なら、……」
「なら?」

「いや、まてよ」

 ヒロノは考える。

「水辺のはるか遠くの地に、毒を使う一族がいるな」
「……ああ。知ってる」
「でも、遠くだぞ」

 ヒロノが云う。

「俺たちと接点のないその一族が、なぜ俺たちに毒を使う必要がある?」

「そうね」

 メグミが云う。

「もうひとつ、可能性があるとすれば?」

「…………」
「…………」

「裏、か」

 ヒロノは再度考える。

「お前の弟が云うなら、仕方ない」

 ヒロノは、冷笑する。

「村内の結界を外にまで広げて、侵入者でも探ってみるか」

「あら」

 メグミは鼻で笑い返す。

「やれば出来るんじゃない」



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