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「山一族と海一族」21

2017年01月27日 | T.B.1998年

「確認なんだが」

 海一族の彼が云う。

「カオリが今、どう云う立場にあるのか、お前は知っているのか」

 その言葉に、アキラは彼を見る。

 おそらく、生け贄の存在は
 海一族も一部の者しか知らされていないのだろう。

 山一族と海一族の生け贄であることをお前は知っているのか。

 そう、彼は云っているのだ。

 アキラは答えない。
 云う。

「カオリはどこだ」

 彼は首を振る。

「居場所は教えない」

 その言葉にアキラは目を細める。

「カオリは返してもらう」
「なぜだ」
「山一族だからだ」
「なぜ、カオリが両一族の犠牲にならなければならない」

 ああ、そう云うことか。

 アキラは息を吐く。

「生け贄にするために、連れに来たわけじゃない」
「何?」

 彼はアキラを見る。
 再度、確認するかのように。

「お前は、カオリとどう云う関係だ?」

「俺は、兄だ」

「……兄?」

 彼は驚きの表情を見せる。

「お前が?」
「そうだ」

 アキラは云う。

「山一族の状況が変わった。少なくとも、そのことはカオリに伝えたい」
「それは、……代わりの犠牲を立てたと云うことか」
「よく知っているな」

 この海一族はどう云う立場なのだろうか。
 生け贄と云う儀式についての情報を、思ったよりも知っている。

 アキラは再度問う。

「カオリはどこだ」

「ついて来い、こっちだ」

 彼は背を向け、歩き出す。

 アキラは彼に続く。

 あたりを見る。
 人気がないところを、彼は進む。

 アキラは空を見る。
 日が昇ってきている。

 急がねば。

「カオリは俺の家にいる」

 歩きながら、彼は云う。

「怪我をしていたので状態が落ち着くまで、と」

 アキラははっとする。

 そうだ。
 カオリは川に落ち、海一族の村まで流されたのだ。
 怪我をしていても不思議ではない。

 アキラは立ち止まる。

「事情はそのときに聞いている」

 と、海一族の彼が振り返る。

 アキラは云う。

「妹が世話になった」

 頭を下げる。

「あ、……ああ」

 彼は驚きつつも、云う。

「お前、名は?」
「名?」

「俺は、トーマ」

 彼が名乗る。

 アキラは彼を見る。

「アキラ」



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