TOBA-BLOG 別館

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オリジナル水辺ノ世界の作品を掲載

「高子と彼」4

2019年04月02日 | T.B.2002年

久々の休日に、
高子は家の中を片付ける。
溜まっていた洗濯物を
片付けて
一息つきながら棚の整理を始める。

「あぁ、これ」

他一族の村から取り寄せた医療書。

「まだ、読んでいなかったわね」

他の本を机の上に広げたまま
医療書を片手にソファへ移動する。

「………」

ぱらり、ぱらり、と
ページを捲る。

「………ふうん」

これ、同じ様な症例が
違う一族の本にも載っていた。

「どこだったかしら」

ええっと。

ドン、と
大きくはないが音が響き、
高子は思わず肩を震わせる。

「配達、ですけど」

ドアを叩く音。

「………もう、そんな時間?
 今出るわ」

玄関に向かい扉を開ける。

「よう、高子」
「ごくろうさま。尚(しょう)。
 ここにお願いできる?」

あまり休みの取れない職場。
そのため
生活必需品は買い溜めて配達してもらう。

荷物を運び終えた尚は
もう一つ紙袋を差し出す。

「これはウチのから」

沢山買ってくれたおまけ、と
その中には茶葉が入っている。

「ありがとう。
 倫子にはお礼を言っておいて。
「北一族の村で買ったものだと」
「いい香り。
 珍しい物ね」
「沢山買ってくるんだよあいつは」
「見て回るのが楽しいのよ。
 色々言わないであげて」
「高子もそう言うの好きなのか」
「そうね、物珍しい物を
 眺めるのは好きよ」

いつもの品を決まったように買うのではなく、
あれもこれも
どれにしよう、と見るのは楽しいだろう。

「それなら今度、ウチのと
 一緒に出掛けたらどうだ?」

なんとなしに、
顔なじみである尚が
軽く誘ってくれた言葉。

「ええ」

そうね、と言って
高子は視線を自分の足に落とす。

「……いつか
 倫子が良ければ誘って欲しいわ」

とは言っても
口約束だけの話しだろうけれど。

「高子」

尚がため息を付く。

「お前とは昔なじみだから
 言っておくが」

家が近くだったので
尚は高子の幼い頃からの顔なじみだ。

「足のことはどうにかなるだろ。
 もっと周りを頼ってみたらどうだ?」
「そうね。ありがとう」

尚が帰り、
届けてもらった品を片付けながら
高子はふと思う。

遠出すると小まめに休まないといけないので
周りに迷惑が掛かってしまう。
足のことは昔からだから
今、これと言って気になることは無い。

ただ、
確かに村の外に出ることは少ない、と思う。

なんとなく、
村で医師をして過ごし、
家と病院を往復して、
そうやって毎日過ごして行くのだろう。

外の村をと行き来する人には
そんな自分は
つまらなく見えるのだろうか。

部屋に戻り
読みかけていた医療書を棚に戻す。

「続きは、
 次の休みにでも見ようかしら」

そう言えば以前北一族の村に出掛けたのも
医師の研修としてだった。

「出掛けるのが嫌いなわけではないのだけど」

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