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「高子と彼」5

2019年04月09日 | T.B.2002年
「久しぶり」

呼びかけられ
湶は足を止める。

「ああ」

南一族の村。
畑の間にあるあぜ道は細く、
お互いゆずり合おうとして
2人は笑う。

「西一族の村に戻っているとばかり」
「こっちには、父さんと母さんが居るから」
「そうね、たまには
 顔を見せてあげなきゃ」

少し、時間あるかしら、と
南一族の彼女は問いかける。

「それじゃあ、あそこの木陰で」

2人は少し距離を置き、
腰掛ける。

季節の変わり目で
日差しが暖かい。
熱くもなく、寒くもなく。

良い天気、と彼女は腕をうーんと伸ばす。

「弟さんとはどう?」

長い時間離れていたから
会いに行くのを楽しみにしている。
そう話していたのを覚えているんだな、と
湶は懐かしく思う。

「うーん、
 まだ他人行儀なところはあるな」
「あら、湶を前にして
 結構強敵ね」
「そうかな」
「人たらしな所あるじゃない、あなた」

ええ~、と湶は焦る。

「そう、かな」
「そうよ」

ふふ、と彼女もどこか懐かしそうに笑う。

「元気してた?」

湶は彼女に問いかける。

「そうね~。
 まあ、ぼちぼちよ」
「これから、家の畑を手伝うのか?」

今、南一族の村は
特産の豆を収穫するのに忙しい。

「そりゃあもう、毎日よ。
 誰かさんが手伝ってくれたら良いのにな~」

なんてね、と彼女は笑い、立ち上がる。

「でも今日は違うの。
 引っ越しするから、必要な物の買い出し」
「引っ越し?」
「そう!!
 毎日それでバタバタ。
 収穫の時期とずらせば良かった」

引っ越し?と
驚いている湶に彼女は言う。

「村を出る訳じゃ無いの。
 私ね、結婚するんだ」

「…………」

そうか、と湶は頷く。

「結婚か。そうか」

彼女が湶と別れてから
もう一年以上の時が経つ。

「おめでとう、お祝いしなきゃな」
「たっぷりよろしくね」

そろそろ行かないと、と
彼女はまだ座っている湶に
手を振る。

「こんな事、言うのは変だけど」

良く笑い
人なつっこい彼女だった。
湶の都合で別れた、人。

「幸せに、な」

うん、と
屈託無く笑う所も前と同じ。
またね、とそう言って彼女は歩いてく。

「湶も、早く幸せになってね」

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