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「山一族と海一族」22

2017年02月03日 | T.B.1998年

 海一族の村の中。

 海一族トーマの後ろを、山一族アキラは歩く。

 何も話さない。

 あたりが少し明るくなったころ、一軒の家にたどり着く。

 と、

 トーマが振り返る。

「カオリは、帰らなくてはと何度も云っていた」
 アキラを見る。
「引き留めていたのは俺だ」

 アキラは頷く。

 トーマは家の中へと入る。
 アキラも続く。

 中の、部屋の扉を叩く。

「カオリ」
「……トーマ?」

 トーマの言葉に、中から応えがある。

 この声は。

「今朝は出かけるんじゃなかったの?」
「カオリにお客さんを連れてきた」
「お客? 私に?」

 アキラは、その扉を見る。
 中から、カオリが現れる。

「カオリ」
「兄様!」

 カオリは驚きの表情を見せる。
 アキラに近寄る。

「兄様。なぜここに?」

 云いながら、カオリの表情が緩む。

「カオリ、怪我をしたと訊いたが」
「ええ。でももう、大丈夫よ」

「よかった」

 トーマが云う。

「本当に、兄妹なんだな」
「何と礼を云ったらいいか」
「それには及ばない」

 トーマが首を振る。
 アキラを見る。

 その目は、まだ根本的解決ではないだろう、と。
 そう云っている。

「とりあえず、ここにいれば安全だ」

 トーマは部屋の中を見回す。

「適当に坐ってくれ。話すこともあるだろ」

 云うと、トーマは、別の部屋へと行く。

 カオリが云う。

「ごめんなさい、兄様」

 カオリはアキラを見る。

「私、……怖くなってしまって」

 アキラは頷く。

「逃げるつもりじゃなかったの。でも、気付いたら……」

 あの日。

 雨の降る中、
 山一族の村を出て、ひとり
 ただ、歩き
 たどり着いた川で足をすべらせ

 気付けば、海一族の村まで来ていたこと。

 カオリは、覚えていることを話す。

「カオリ」

 アキラが云う。

「山に帰るか?」
「……兄様」
「山に帰ると云うことを、選べるか?」
「…………」

 カオリは目をそらす。

 その身体は震えている。

「カオリ」

 再度、アキラは呼びかける。

「お前は、……生け贄じゃなくなったんだ」

「……え?」



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