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Ⅳ号戦車の転輪ボギーについて

2013-02-27 23:17:14 | スケッチ

● Ⅳ号戦車系の転輪ボギーの図面

Photo_2

 PANZER誌に掲載された当時の図面をトレースしたものです。

(トレースが不正確なのでご注意下さい。)

 今回は、この図面から読み取れるⅣ号戦車の性能について、解説してみます。

 1944年という記述を信じる限り、この図面はⅣ号H型の左最後方の物のようです。

図面向かって左が前方になり、車体右側面の転輪は反対の形状の物が取り付けられます。

1944年の6月からJ型の生産が開始されますが、J型では赤い矢印のボルト二ヶ所が省略

され前後のストッパーの形状も省略されたものになっているので、J型のものではないと言う

ことがわかります。

 この図面は書式からエルンスト・レーア教授の振動の研究の1ページなのかもしれません。

そうだとすると資料の記述からも当時の量産型Ⅳ号であるH型の図面ということになります。

 H型はⅣ号戦車シリーズの中でも装甲強化が進んでおり、車重が各型中最も重くなって

いるので、サスペンションのスプリングも最も強いものになっているはずです。

図面の数字からは厚さ9mm幅90mmのリーフスプリングが14枚重ねになっている事が

読み取れます。おそらくこれがⅣ号駆逐戦車などの自走砲車台にも使われているはずです。

 前後のスィング・アームの長さは異なっており、前方のアームの、支点から車軸中心

への長さが転輪の半径と等しくなっているようです。(つまり転輪直径は480mm)

 二つの転輪のホイールベースは500mmとなっており両輪の間が20mmと狭めになって

いることがわかります。ドイツ戦車はキャタピラに対する転輪の重量分布を均一にするために

オーバーラップ式の転輪を広範囲に使用しましたが、小径の転輪を間を詰めて多数並べる

事でも同じ効果が出せます。ただし、小径の転輪では速度性能に限界があり、Ⅳ号戦車では

スィングアームの短さもあって地形追従能力も良くありません。

Ⅳ号戦車の路上最高速度は約時速40km、不整地では約15kmとなっています。不整地

での速度低下は、キャタピラの幅が38cm(後に40cm)と狭い上に、車体の最低地上高

が40cmと低いため底面が容易に接地してしまう事が影響しているようです。

 ● 軟弱地での沈み込み

Photo

 車体の底面が地面に擦れて抵抗になれば、ギアやエンジンへの負荷も大きくなって、

故障を起こすリスクを伴うので、スピードを上げる事が難しくなるわけです。最低地上高を

50cmにせよと言う勧告はそういう点からもなされたはずです。

 ソ連やアメリカの戦車ではこの部分を妥協しているものの、さして悪い評価があるわけでも

なく、ドイツ戦車はメカに凝りすぎな印象を受けます。その後、直径の大きな転輪片側6輪に

Ⅳ号を改造しようとした案も生産性の点から見て妥当な考え方であったと思えます。

 ●ポーポイズ運動

Photo_3

 ただ、このサスペンションは乗り心地がよくない代わりに車体の動揺が少ないという特徴

があり、それは射撃に際して照準をつけやすいという利点がありました。サスペンションが

緩やかで最低地上高が高いと、車体の前後の揺れがなかなか収まらないという弊害が

あります。これはポーポイズ運動(イルカが海面から出たり入ったりする様子に似ている

ためにこの名前があります。)と呼ばれ、戦車の設計では避けなくてはならないものです。

これを避けるため、Ⅲ号戦車の第一と第六転輪には油気圧ダンパーが設置されています。

 ソ連のT-34戦車は不整地を踏破する性能が高かったものの、スピードが低いうちから揺れ

が発生し、走行中の射撃はもちろん停止直後の照準が困難でした。

 Ⅳ号戦車はローテクであったがために、射撃という点ではアドバンテージがあったのです。

一方、研究の成果を取り入れて作られたパンターは全ての速度領域で前後振動が少なく

他の追従をゆるさない射撃が可能でした。トーションバー式のサスペンションは仕掛けが

大掛かりであった代わりに戦車にとって理想的であることがパンターによって証明された

のです。

 パンターについてはまた別の機会に書きましょう。

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