T.N.T.-SHOW

メカデザイナー山本薫のBlogです~2006・11・30 お仕事募集中 sp2q6z79@polka.ocn.ne.jp

ボギー転輪について

2013-03-31 23:46:48 | スケッチ

 ● 二輪ボギー転輪

  • Photo_3

 たびたび用語の出てくるボギー転輪について解説します。

  二輪ボギー転輪は、最も原始的な懸架装置の一つです。

上図左がその概念図で非常にシンプルな事がお分かりになると思います。

この装置は二個の転輪をシーソーのようなビームで一組にしただけのもので、

スプリングの類は一切使っていません。それでもこの装置がサスペンションと言われる

ゆえんは、真ん中の図のような原理によります。

 高さaの障害物を前の転輪が乗り越えたとき、テコの原理で車体の軸は1/2aの高さだけ

上昇します。この時後ろの転輪には下側の力が加わりますが、地面が軟弱でない限り

車体を押し上げる事になります。車輪が固定されている場合よりいくらかマシである上に

構造が簡単なので初期の戦車等に装備例が見られます。

 上図右、Ⅳ号戦車の転輪はそれぞれの転輪に一本ずつアームがセットされているので、

独立懸架と言えない事もないのですが、板バネが二つの転輪にまたがっています。

前の転輪が障害物を乗り超えると板バネのしなりにともなって後ろの転輪に下向きの力が

加わり車体が持ち上げられるので、動きとしてはボギー転輪のものと似たものになります。

 弾力を持ったボギー転輪とも言えるこの懸架装置は、古い設計という評価が大勢を占め

ますが、当時的には技術的冒険のない最新の考え方に思えます。

 ● 前のアームが長い場合

  • Photo_4

 Ⅳ号戦車のボギー転輪は、前のアームが若干長くなっています。どうしてこのような

設計になっているか分からなかったのですが、上図のような理由の為ではないかと

推測できます。

 今、車体への取り付け軸の位置が二輪の車軸間の2:1の位置にあったとします。

すると、テコの原理によって車体の持ち上がる高さが前の転輪が乗り越えた高さの

1/3ですむことになります。この比率が大きくなればなるほど車体が持ち上がる見かけ上

の高さは小さくなるのです。

Photo  [余談ですが、上図を考えているとき思い浮かんだのが

チョッパー式のアメリカンバイクです。

これもただスタイル追求でできたわけではなく、実用的な

意味合いがあったんですね。]

.

 ただし、その分後ろの転輪が障害物を乗り越える時の車体の上昇が高くなるのですが

一旦持ち上がった車体には慣性が働いているので、Ⅳ号戦車のようなケースでは微妙

なバランスが取れているのではないかと考えられるのです。

 一見古い設計に思えるⅣ号戦車のサスペンションはドイツらしい凝った設計になって

いると再認識できます。これに比べるとアメリカのM-4やソ連のT-34はすごく割り切った

設計に見えてくるのです。

 ● ダブル・ボギー

  • Photo_5

 技術史にはダブル・ボギーなるものがあります。

これは二つのボギー転輪をさらにシーソーで連結したものです。

上図のように最前輪がaの高さを乗り越えた時、車体の上昇は1/2aのさらに1/2の

1/4aの高さですむという物です。

 図で見る限り非常に巧妙にできているのですが、この機構はあまり普及しませんでした。

その理由は、四つの転輪に対して車体に固定する軸が一ヶ所であるために、前後方向

に不安定になる為と思われます。

 仮に8輪のダブルボギーだとすると車体側の軸は二ヶ所になり、その位置は車体の中央

に寄って来ます。するとかえって車体の前後の上下動が増長され、複雑なメカの意味が

薄れてしまうのです。

 これの変形が日本の九七式中戦車のものと思われますが、詳しい構造が不明なので

別の機会に触れることにします。

 ● M4シャーマンのサスペンション

  • Photo_7

 アメリカのM4シャーマン戦車はその基本設計が古く、始祖は1934年のT5戦車にまで

さかのぼる事が出来ます。

構造は、上図左のようなもので、外見は二輪が一組になっていますが、それぞれの転輪

にアームとスプリングが一対づつ付いているので、実態は独立懸架であるといえます。

 ところが、1943年に更新された懸架装置は、水平ボリュートスプリングという方法で

前後の転輪が干渉するようになっています。

 これは形は違ってもⅣ号戦車の懸架装置と考え方が同じで、ボギー転輪と独立懸架の

中間の形態と言うことが出来ます。ひょっとしたらアメリカはⅣ号戦車のサスペンションを

研究・参考にしたのかもしれません。

 その後のアメリカのチャーフィー等の大戦末期の戦車はトーションバー式サスペンション

を採用していて、これもドイツが量産したⅢ号やパンターの影響があるのではないかと思える

のです。

 

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Ⅳ号戦車の転輪ボギーについて 2

2013-03-31 02:56:57 | スケッチ

 ● Ⅳ号Aのボギー転輪

  • A

 某所で写真を見る機会があったので、その記憶のみで描きました。

初期のⅣ号戦車の転輪ボギーは後期のものと比べていくつかの相違点があります。

改良の要点は、地上近くの低い所の形状を洗練させて泥等が付着しにくくしたもの

と思われます。

板バネの前面を鉄板でエンクローズして破損防止とし、二本のボルトを廃止。板バネの

固定用クサビの先端を曲げて抜け防止としていたのを止め、先端をその中に納まる

ようにしています。いずれも地上物があたって破損したりひっかかったりする事への

防止策でしょう。

 板バネの強化についてはまだ記述は見つけられませんが、ヘッツァーの記事の中に

前方が重くなったので前のリーフスプリングを7mm厚から9mm厚にしたとありますので、

Ⅳ号でも同様の方法がなされた可能性が出てきました。

 ● Ⅳ号戦車の鋼製転輪(サイレントブロック)

  • Photo_4Photo_5

 Ⅳ号戦車系列の重量増加対策の一つがスチール転輪です。

上左図はパンツァー誌の図面を若干手直ししてトレースしたものですが、細部が

実際の物と異なるようです。青い部分がゴムのパッドで振動や衝撃を吸収する

ようにしたメカです。緑の部分はベアリングですが、円筒形のコロが使用されていた

ようです。赤い棒が車軸ですがどうやって車輪を固定しているか今一つわかりません。

ハブキャップで押さえているとは考えにくいので、固定用の部品が中にあるはずです。

Youtubeに当時の整備風景を見つけたのですが、肝心の固定作業は映っていません。

 当時のニュース映像

http://www.youtube.com/watch?v=VwLunJBdy3g

 Ⅳ号系列の走行系は、小さめな転輪と簡単な機構のため整備性は極めて良好

だったと思われます。

 ● 計画戦車E-50/75の転輪

E50_3

  • E50_4

 Eシリーズという戦闘車両製造計画が大戦末期にドイツで立案されています。

E-5、E-10、E-25、E-50/75、E-100、からなる戦闘車両群は、例の

兵器局第6課の提案になる次世代の生産計画を統合するものでした。

 いくつかの設計が実際に製造され写真も残っていますが、車両として完成したもの

は一つとしてありませんでした。

 上図はそうしたものの一つで、1944年に完成した転輪サスペンションです。

タイガーⅡ戦車に実際に装着されて走行試験を行ったとされていますが、詳細は

分かっていません。

 形状的に気が付くのは、Ⅳ号戦車やフェルディナント駆逐戦車のサスペンションと

よく似ているということでしょう。ただし、二本のアームはそれぞれのスプリング・ダンパー

ユニットに接続されているので、独立懸架装置であるといえます。スプリングは独自の

板バネを重ねた構造になっていて、コイルスプリングより大きな加重に対応できそうです。

 二個の転輪がオーバーラップしていますが、タイガーなどの複雑な転輪配置から

見ればかなり簡略化されています。これで実際に問題が起きなければ、Ⅳ号戦車でも

私の案のようなオーバーラップの大径転輪が使えることになります。

 どこかに前述の実験の詳細についての資料があればよいのですが・・・。

 ● オーバーラップ転輪の配置

  • Photo_2

 オーバーラップ配置にも種類があって、ドイツはそれらをすべて製造しました。

千鳥式とはさみ込み式があり、キャタピラへの重量分布を一定にした上、捻り応力が

かかるのを極力避けようとしていたことが分かります。

 タイガー戦車の転輪は整備兵泣かせとして有名で、その教訓からか後年に簡略化が

進んでゆきます。最終的に到達したE-50/75の配置は、整備性と実用性の経験上

から導き出された回答ですので、実現する可能性は充分であったといえましょう。

 ただし、大戦後の戦車がオーバーラップ配置を全くかえりみなかったことを考えると、

技術上の特異点であったことも又事実といえます。

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