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メカデザイナー山本薫のBlogです~2006・11・30 お仕事募集中 sp2q6z79@polka.ocn.ne.jp

ボギー転輪について 捕捉

2013-04-29 23:19:08 | スケッチ
  •  日本戦車のサスペンションの詳しい構造が判明しましたので捕捉します。

 ● 日本戦車のサスペンションスプリング

  • Photo

 日本式のダブルボギーサスペンションは上図のバネを挟んで二組のボギー転輪

が干渉しあう構造になっていました。

 某紙の解説図によると、中央のパーツだけが車体に固定されて、スプリングとガイドは

フローティング構造になっていました。

 今、左側のボギーが起伏に差し掛かったとすると、左にガイドロッドが引っ張られ、

最初のうちは右側のバネだけが圧縮されます。それがある長さを超えると図中央の

赤い丸のパーツが左側のバネに達し、左のバネも圧縮するようになります。

このテンションは反対側のボギーに伝達され、右側のボギーが地面を押す動きと

なるのです。

 これにより全体としてテコの原理が働き、車体の持ち上がりがいくらか減免されます。

これは非常に巧妙にできた構造で、地上の起伏が小さいうちは二輪ボギーは独立して動き

起伏がある高さより大きくなると、前後のボギーが干渉しあってダブルボギーとして働く

というものです。

 これが日本の独創なのか、元となる発想が外国にあるのかは分かりませんが、日本の

戦車は戦中を通してこの機構に依存することになりました。

 ● 九七式中戦車と五式戦車のサスペンション

  • Photo_2

 九七式中戦車は戦中の日本の主力戦車です。中央のスプリングケースを挟んで

二つのボギー転輪があり、その前後を独立懸架の転輪が挟んだ6輪になっています。

一式、三式戦車もこのレイアウトを踏襲し、四式、五式戦車はその下のように

二組のダブルボギーになりました。(四式戦車は7輪)

 アメリカが日本戦車を鹵獲してテストした映像が現在も残っていて、平地での地形追従

は非常に優秀に見えます。

 ただし、この四輪ダブルボギーには構造上の欠点があり、日本戦車にもその特質

が受け継がれているようです。

 ● 登坂中のサスペンションの動き

Photo_5

  • Photo_6

 ダブルボギーサスペンションは前後のボギーが干渉しあう特徴を持っています。

左図の九五式軽戦車のような場合、車体の重量が後ろのボギーにのしかかると、その

動きが前のボギーに伝達され、ますますピッチアップが増加される傾向が生まれます。

 履帯にかかる重量が片寄り、スリップが生じやすくなり、エンジンの馬力やギアの

性能に関わらず登坂性能が何割か削がれてしまうのです。

また、大き目の起伏を乗り越える時、車体のピッチアップが大きくなって前後の動揺が

激しくなる傾向もあります。

 これを避けるには右図の五式戦車のように二組のダブルボギーを組み合わせること

で解決出来ると思われます。前と後のダブルボギーは各々独立しているので、ピッチ

アップの傾向が生まれにくくなるのです。

 あるいは履帯の幅を増してスリップしにくくする方法もありますが、やりすぎると

速度性能が阻害されてしまいます。

 こうした傾向を除いても、サスペンションのどこかが被弾や故障で動かなくなると

四輪が影響を受けてしまうという欠点もあります。

 巧妙にできてはいますが、軍用らしからぬ脆弱な面も併せ持っているのが日本戦車の

サスペンションの特徴と言えます。

  ────────────────────────────────────────────────

 余談なんですが、ちょっとした発見。

● シャドー・モービル

  • Photo_7

 「謎の円盤UFO」 と言うイギリスのSF特撮番組(1968年製作)があり、そこに登場する

万能戦闘車両です。英語発音ではモーバイルと言うそうで、現代のモバイルと意味が

つながっているようです。

UFO SHADO Mobiles attack

 前回紹介したRSOがこれとそっくりで、どうやらデザインの元になったみたいです。

RSOはイラストに描いた曲線型フロントデザインの他に量産性を考えた角型ボディー

のものがあり、面影が似ていたり転輪の数が同じだったりします。またRSOには様々な

派生型があり、75mm砲搭載型や水陸両用型、兵員輸送型、救急型(試作のみ)等が

あり、モービルもそれらに対応したタイプが見られます。

 日本ではあまり知られていないRSOですが、欧州ではそれなりに評価されていたみたい

ですね。

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ボギー転輪について 2

2013-04-21 20:47:15 | スケッチ

 ボギー転輪の解説の続きです。

ボギー転輪はダブル・ボギーに発展しましたが、そのままでは普及しませんでした。

いくつかの改良例を紹介します。

 ● 35(t)戦車のサスペンション

  • 35t

 35(t)戦車は第二次大戦前にチェコスロバキアで開発された戦車で、ドイツに

工場ごと接収され戦車の不足している初期のドイツ軍によって使用されました。

サスペンションはダブルボギーにリーフスプリングを組み合わせてショックを緩衝する

ようになっています。

前の二輪ボギーの動揺が後ろのボギーにスプリングを介して伝達されることによって、

テコの原理が働いて車体の持ち上がりを減免します。

 車体側の軸は三箇所になりますが、中央に集中していることが分かると思います。

四輪の荷重をこの部分で受けるので構造的に脆弱になるのが欠点と言えます。

平時に使う車両ならば大事に扱ってもらえるのでこの設計でも良いかもしれませんが

兵器では耐久性の点からも好ましくありません。

 35(t)戦車は一線を退いた後、牽引車などに使われています。しかし、同じ素性の

38(t)戦車は自走砲の車台に設計が受け継がれ、長く使用されました。

 ● RSOのサスペンション

  • Rso

 RSO(RaupenSchlepperOst)とは、ドイツ軍が使用した牽引車のことです。

ご覧のとおり典型的なダブルボギーで前後にリーフスプリングを取り付けてショックを

吸収する方式になっています。

 このようにすることによって前後方向の動揺を抑え、車体への固定箇所を分散する

配慮がなされています。

四輪を支えているのは中央の車体側の軸ですが、障害物を乗り越えた時に前後の

スプリングが荷重を一時的に受け持って軸への負担を減らします。そのため、純然

としたダブルボギーより効率は落ちますが、前後に不安定な欠点をフォローした構造

になっています。

 ● RSO(東部用装軌式牽引車)

  • Rso_2

   ドイツ軍が使用した牽引車と言えばハーフトラックやケッテンクラートが有名ですが、

RSOは29,000輌あまりが作られた代表的な牽引車で、単一で製造された装軌車両

としては最多数を誇ります。ソ連戦での泥濘による移動の困難を受けて設計され、

当初はオーストリアのシュタイヤー社が製造しました。簡潔で大量生産に向いた構造

になっていて、パイプフレームのダブルボギーの採用もその一環のように思えます。

 使用実績から見る限り、RSOのダブルボギーに欠点があったとは考えにくいのですが、

それはこの車両の最高速度が時速17kmに過ぎなかったためとも考えられます。

このスピードの遅さゆえしばしば進軍の足枷になったといいますが、悪路では期待

された性能を発揮ました。

当時のニュース映像のRSO

 トーションバーやオーバーラップ転輪を使用したドイツのハーフトラックも悪路走破に

威力を発揮しましたが、複雑な機構故に生産を阻害したと思われます。

 一方、アメリカのハーフトラックは上記の35(t)戦車に類似のダブルボギーを採用し

キャタピラもゴムにワイヤーを内臓した簡素な構造でした。

 どうやらダブルボギー転輪は軽いソフトスキン車両に向いた機構だったようです。

 ● 日本戦車のサスペンション

  • Photo

 日本が戦車の開発をはじめた時期は早く、第二次大戦前の時点では先進的な技術

をいくつも持っていました。

 九四式軽装甲車に初めて使われたサスペンションもダブルボギー転輪の中では

最も発達した機構を持っていたといえます。このサスペンションは結局終戦まで使われ

続けましたが、それは戦車の開発が一時中断したためとはいえ、信頼に足るもの

であったからと思われます。

 二つのボギー転輪を支える車体側の軸は、前後に離れた二箇所になりました。

これによって、ダブルボギーの緩衝力と欠点であった前後の安定を両立させています。

 前方の転輪が起伏に乗り上げると、ボギーの支点が1/2だけ持ち上げられ、さらに

その一部はスプリングを介して後方のボギーを押し下げ、車体の上昇は1/4になる

というものです。

 このサスペンションは一見独立している二つのボギーが中央のバネを引っ張り合って

干渉している特徴があります。バネは左右から引っ張られることで縮み、お互いの荷重を

分散させる働きをします。

  • Photo_2

 バネにこういう繊細な機構を取り入れたのは日本の生産するバネの性能が安定して

いなかった為でもあります。強力なバネを生産する技術があれば、トーションバーなどの

高級なサスペンションへ移行していったはずですが、日本では兵器研究が艦船や飛行機

に集中したため、戦車の開発は著しく阻害されてしまっていたのです。

   ────────────────────────────────────────────────

 様々な改良によってダブルボギーは生き残ったわけですが、その応用範囲は軽量の

車両に限定されているように思います。重量のある車両はもっと機構の簡単なボギー

転輪や独立懸架になっていて、やがてトーションバーの独壇場となってゆくのです。

 

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