2014.10.01 印紙税:電子メールで送信した注文請書の不課税
ビジネス上の取引をする際には、当事者間で契約書を取り交わすのが原則です。しかし、基本契約書を既に取り交わしているときや取引条件が簡単なときは、商慣行として発注者が注文書を受注者に渡し、受注者が受注の意思を明示するために注文請書を作成し発注者に交付することで契約が成立しています。
この場合、注文請書を文書で交付した場合には注文請書に印紙税が課税されますが(ただし注文請書の交付を要せず、注文書の交付のみで自動的に個々の契約が成立することになっている場合は、注文書に印紙税が課税されます。)、注文請書を電子メールに添付して相手に送信した場合には印紙税が不課税とされています。
そこで、今回は、なぜ不課税になるのかを印紙税法の諸規定、課税庁の見解、立法上の趣旨などを勘案して検討したいと思います。
印紙税法上の「契約書」とは、印紙税法別表第一の「課税物件表の適用に関する通則」の5において、「契約の成立若しくは更改又は契約の内容の変更若しくは補充の事実を証すべき文書をいい、念書、請書その他契約の当事者の一方のみが作成する文書又は契約の当事者の全部若しくは一部の署名を欠く文書で、当事者間の了解又は商慣習に基づき契約の成立等を証することとされているものを含むものとする。」と規定されています。
また、印紙税法に規定する課税文書の「作成」とは、印紙税法基本通達第44条により「単なる課税文書の調製行為をいうのでなく、課税文書となるべき用紙等に課税事項を記載し、これを当該文書の目的に従って行使することをいう」ものとされ、課税文書の「作成の時」とは、相手方に交付する目的で作成される課税文書については、当該交付の時であるとされています。
要するに、印紙税の納税義務は課税文書の作成時に成立し、作成とは課税文書となるべき用紙に課税文書によって証されるべき事項を記載し、これをその文書の目的に従って行使することとされているわけです。
以上に鑑みれば、注文請書を電子メールに添付して送信したときは、ファクシミリ通信により送信したものと同様に、課税文書を作成したことにはならないので、印紙税の課税原因は発生しないものと考えられているのです。ただし、電子メールで送信した後に本注文請書の現物を別途持参するなどの方法により相手方に交付した場合には、課税文書の作成に該当し、現物の注文請書に印紙税が課されるものと考えられています(福岡国税局・文書回答事例「請負契約に係る注文請書を電磁的記録に変換して電子メールで送信した場合の印紙税の課税関係について」参照)。
また、平成17年3月15日の参議院における答弁書でも電子メールに添付した注文請書が不課税文書になる旨の国会答弁がなされています。以下は、その内容です。
H17.3.15参議院答弁書 五について
事務処理の機械化や電子商取引の進展等により、これまで専ら文書により作成されてきたものが電磁的記録により作成されるいわゆるペーパーレス化が進展しつつあるが、文書課税である印紙税においては、電磁的記録により作成されたものについて課税されないこととなるのは御指摘のとおりである。
しかし、印紙税は、経済取引に伴い作成される文書の背後には経済的利益があると推定されること及び文書を作成することによって取引事実が明確化し法律関係が安定化することに着目して広範な文書に軽度の負担を求める文書課税であるところ、電磁的記録については、一般にその改ざん及びその改ざんの痕跡の消去が文書に比べ容易なことが多いという特性を有しており、現時点においては、電磁的記録が一律に文書と同等程度に法律関係の安定化に寄与し得る状況にあるとは考えていない。
電子商取引の進展等によるペーパーレス化と印紙税の問題については、印紙税の基本にかかわる問題であることから、今後ともペーパーレス化の普及状況やその技術の進展状況等を注視するとともに、課税の適正化及び公平化を図る観点等から何らかの対応が必要かどうか、文書課税たる印紙税の性格を踏まえつつ、必要に応じて検討してまいりたい。
(完)
ビジネス上の取引をする際には、当事者間で契約書を取り交わすのが原則です。しかし、基本契約書を既に取り交わしているときや取引条件が簡単なときは、商慣行として発注者が注文書を受注者に渡し、受注者が受注の意思を明示するために注文請書を作成し発注者に交付することで契約が成立しています。
この場合、注文請書を文書で交付した場合には注文請書に印紙税が課税されますが(ただし注文請書の交付を要せず、注文書の交付のみで自動的に個々の契約が成立することになっている場合は、注文書に印紙税が課税されます。)、注文請書を電子メールに添付して相手に送信した場合には印紙税が不課税とされています。
そこで、今回は、なぜ不課税になるのかを印紙税法の諸規定、課税庁の見解、立法上の趣旨などを勘案して検討したいと思います。
印紙税法上の「契約書」とは、印紙税法別表第一の「課税物件表の適用に関する通則」の5において、「契約の成立若しくは更改又は契約の内容の変更若しくは補充の事実を証すべき文書をいい、念書、請書その他契約の当事者の一方のみが作成する文書又は契約の当事者の全部若しくは一部の署名を欠く文書で、当事者間の了解又は商慣習に基づき契約の成立等を証することとされているものを含むものとする。」と規定されています。
また、印紙税法に規定する課税文書の「作成」とは、印紙税法基本通達第44条により「単なる課税文書の調製行為をいうのでなく、課税文書となるべき用紙等に課税事項を記載し、これを当該文書の目的に従って行使することをいう」ものとされ、課税文書の「作成の時」とは、相手方に交付する目的で作成される課税文書については、当該交付の時であるとされています。
要するに、印紙税の納税義務は課税文書の作成時に成立し、作成とは課税文書となるべき用紙に課税文書によって証されるべき事項を記載し、これをその文書の目的に従って行使することとされているわけです。
以上に鑑みれば、注文請書を電子メールに添付して送信したときは、ファクシミリ通信により送信したものと同様に、課税文書を作成したことにはならないので、印紙税の課税原因は発生しないものと考えられているのです。ただし、電子メールで送信した後に本注文請書の現物を別途持参するなどの方法により相手方に交付した場合には、課税文書の作成に該当し、現物の注文請書に印紙税が課されるものと考えられています(福岡国税局・文書回答事例「請負契約に係る注文請書を電磁的記録に変換して電子メールで送信した場合の印紙税の課税関係について」参照)。
また、平成17年3月15日の参議院における答弁書でも電子メールに添付した注文請書が不課税文書になる旨の国会答弁がなされています。以下は、その内容です。
H17.3.15参議院答弁書 五について
事務処理の機械化や電子商取引の進展等により、これまで専ら文書により作成されてきたものが電磁的記録により作成されるいわゆるペーパーレス化が進展しつつあるが、文書課税である印紙税においては、電磁的記録により作成されたものについて課税されないこととなるのは御指摘のとおりである。
しかし、印紙税は、経済取引に伴い作成される文書の背後には経済的利益があると推定されること及び文書を作成することによって取引事実が明確化し法律関係が安定化することに着目して広範な文書に軽度の負担を求める文書課税であるところ、電磁的記録については、一般にその改ざん及びその改ざんの痕跡の消去が文書に比べ容易なことが多いという特性を有しており、現時点においては、電磁的記録が一律に文書と同等程度に法律関係の安定化に寄与し得る状況にあるとは考えていない。
電子商取引の進展等によるペーパーレス化と印紙税の問題については、印紙税の基本にかかわる問題であることから、今後ともペーパーレス化の普及状況やその技術の進展状況等を注視するとともに、課税の適正化及び公平化を図る観点等から何らかの対応が必要かどうか、文書課税たる印紙税の性格を踏まえつつ、必要に応じて検討してまいりたい。
(完)