2018.09.29 判例評釈:競馬の馬券の払戻金に係る所得
競馬の馬券の払戻金に係る所得が「事業所得」か「一時所得」かが争点となった事件で、最高裁は平成30年8月29日、納税者の上告を棄却し、税務官署が勝訴した一審・二審の判決が確定しました(平成26年(行ウ)第13号、平成28年(行コ)第428号)。
これまで「一時所得」か「雑所得」かが争われた事案はありますが(№108参照、最高裁判所第二小法廷・平成29年12月15日判決/平成28年(行ヒ)第303号)、本件のように「事業所得」か「一時所得」かが争われたのは初めてのケースです。
長文となりますが、内容は以下の通りです。
1.事実の概要
本件は、納税者が競馬予想プログラムを駆使して購入した馬券の払戻しに係る所得を「事業所得」として申告したところ、当該所得は「一時所得」に該当するので、外れ馬券の購入代金は経費として計上できないとする更正処分を受けたため、その一部取消しを求めたものです。
納税者は、自ら開発した競馬予想プログラムを駆使して、期待値(オッズ×予想的中率)が1倍を超える馬券を機械的に選択して網羅的に大量に購入することを反復継続し、長期間、全体として利益を得ていました。
また、馬券を購入する際は、全ての判断をプログラムに任せるのではなく、その要所において納税者自身の判断を入れて購入していました。
払戻金を獲得するためのこうした一連の行為は、本件競馬所得は偶発的な利得ではなく、必然的な利得というべきであり、安定的、継続的に収益が見込まれるところ、当該所得は「事業所得」に該当するというのが納税者の主張です。
2.判旨
事業所得(所法27)における「事業」とは、対価を得て継続的に行う事業をいうものと解される(所令63十二)。
また、社会的客観性をもって「事業」として認められるためには、相当程度の期間継続して安定した収益を得られる可能性がなければならない。
納税者の購入方法は、それ自体の作業(役務)を馬券購入の相手方であるJRA (日本中央競馬会)に提供されたものではなく、その役務の対価として原告が払戻金を得るわけではないこと等から、「対価を得て」継続的に 行う事業に当たるとはいえない。
また、納税者はその購入方法により、長期間、全体として利益を得てきたと主張するが、(中略)原告の競馬所得の金額は、計8年間のうち3年間は損失が生じており、納税者は馬券購入によって利益を恒常的に上げられる状態ではなかった。
さらに、納税者は、コンピュータを駆使し、他の馬券購入者が低く評価している出走馬の馬券を購入して高配当を得ようとする射倖性の高い購入方法を採用していたことや、最終的な馬券の購入判断は自身で行い、プログラムが抽出した買い目どおりに網羅的に馬券を購入したわけではないことから、一般的な競馬愛好家による馬券の購入態様と質的に異なるものではないと認められる。
以上によれば、納税者の競馬所得は一時的・偶発的所得としての性質を失わず、一時所得(所法34)の非対価性要件及び非継続性要件をいずれも満たすこととなる。よって、払戻しによる収入を得るために支出した金額は、的中馬券の購入代金に限られ、外れ馬券の購入代金は必要経費に計上できない。
3.筆者解説
納税者は、安定的・継続的な収益を得るために、競馬予想プログラムを駆使して馬券を大量に反復継続して購入している。また、高配当を得るために納税者自身の判断を入れて購入しているので当該所得は「事業所得」に該当すると主張しました。
ところが、最高裁は、一般的な競馬愛好家による馬券の購入態様と質的に異なるものではなく、相当程度の期間継続して安定した収益を得られる可能性に乏しく、対価を得て継続的に行う事業に当たらないので、本件競馬所得は一時的・偶発的な所得である「一時所得」に該当すると判断しました。
結論は、「一時所得」の収入を得るために支出した金額は、的中馬券の購入代金に限られ、外れ馬券の購入代金は必要経費に計上できないことになります。
(完)
競馬の馬券の払戻金に係る所得が「事業所得」か「一時所得」かが争点となった事件で、最高裁は平成30年8月29日、納税者の上告を棄却し、税務官署が勝訴した一審・二審の判決が確定しました(平成26年(行ウ)第13号、平成28年(行コ)第428号)。
これまで「一時所得」か「雑所得」かが争われた事案はありますが(№108参照、最高裁判所第二小法廷・平成29年12月15日判決/平成28年(行ヒ)第303号)、本件のように「事業所得」か「一時所得」かが争われたのは初めてのケースです。
長文となりますが、内容は以下の通りです。
1.事実の概要
本件は、納税者が競馬予想プログラムを駆使して購入した馬券の払戻しに係る所得を「事業所得」として申告したところ、当該所得は「一時所得」に該当するので、外れ馬券の購入代金は経費として計上できないとする更正処分を受けたため、その一部取消しを求めたものです。
納税者は、自ら開発した競馬予想プログラムを駆使して、期待値(オッズ×予想的中率)が1倍を超える馬券を機械的に選択して網羅的に大量に購入することを反復継続し、長期間、全体として利益を得ていました。
また、馬券を購入する際は、全ての判断をプログラムに任せるのではなく、その要所において納税者自身の判断を入れて購入していました。
払戻金を獲得するためのこうした一連の行為は、本件競馬所得は偶発的な利得ではなく、必然的な利得というべきであり、安定的、継続的に収益が見込まれるところ、当該所得は「事業所得」に該当するというのが納税者の主張です。
2.判旨
事業所得(所法27)における「事業」とは、対価を得て継続的に行う事業をいうものと解される(所令63十二)。
また、社会的客観性をもって「事業」として認められるためには、相当程度の期間継続して安定した収益を得られる可能性がなければならない。
納税者の購入方法は、それ自体の作業(役務)を馬券購入の相手方であるJRA (日本中央競馬会)に提供されたものではなく、その役務の対価として原告が払戻金を得るわけではないこと等から、「対価を得て」継続的に 行う事業に当たるとはいえない。
また、納税者はその購入方法により、長期間、全体として利益を得てきたと主張するが、(中略)原告の競馬所得の金額は、計8年間のうち3年間は損失が生じており、納税者は馬券購入によって利益を恒常的に上げられる状態ではなかった。
さらに、納税者は、コンピュータを駆使し、他の馬券購入者が低く評価している出走馬の馬券を購入して高配当を得ようとする射倖性の高い購入方法を採用していたことや、最終的な馬券の購入判断は自身で行い、プログラムが抽出した買い目どおりに網羅的に馬券を購入したわけではないことから、一般的な競馬愛好家による馬券の購入態様と質的に異なるものではないと認められる。
以上によれば、納税者の競馬所得は一時的・偶発的所得としての性質を失わず、一時所得(所法34)の非対価性要件及び非継続性要件をいずれも満たすこととなる。よって、払戻しによる収入を得るために支出した金額は、的中馬券の購入代金に限られ、外れ馬券の購入代金は必要経費に計上できない。
3.筆者解説
納税者は、安定的・継続的な収益を得るために、競馬予想プログラムを駆使して馬券を大量に反復継続して購入している。また、高配当を得るために納税者自身の判断を入れて購入しているので当該所得は「事業所得」に該当すると主張しました。
ところが、最高裁は、一般的な競馬愛好家による馬券の購入態様と質的に異なるものではなく、相当程度の期間継続して安定した収益を得られる可能性に乏しく、対価を得て継続的に行う事業に当たらないので、本件競馬所得は一時的・偶発的な所得である「一時所得」に該当すると判断しました。
結論は、「一時所得」の収入を得るために支出した金額は、的中馬券の購入代金に限られ、外れ馬券の購入代金は必要経費に計上できないことになります。
(完)