新コロナの為に本を読む時間が増えた。
なかなか自分に合った感銘を受ける本に出会うのは難しいが、記憶を探ると学校の教科書や絵本を除いて私が自発的に「本」と云うものを手に取ったのは確か芥川龍之介の「鼻」が最初だ。
ダラ~ンと垂れた長い鼻をコンプレックスとしているうちに短くする方法を知り・・・・・まぁ現実的では無いが苦労して普通の鼻にした後の周りの反応や自分の心の変化について記した内容だ。
「国境の長いトンネルを抜けると雪国だった。夜の底が白くなった」
この有名な文章から何を感じるだろう。
トンネルの暗闇と抜け出た時の明るさ。夜の黒と雪の白。
このコントラストの妙こそが川端康成作「雪国」の全てだと思う。
精妙な文章が寒々とした風景を目の前に広げてくれる。
五味川純平の「人間の条件」は映像化されテレビでも放映されたので観た方が多いと思うが、活字を読み進んで泣いた本はこれが最初だ。
元 日本ペンクラブ会長でもあった芹沢光治良の「人間の運命」は京都の学生時代に読んだ。全18巻もある大作だと知ったのは1巻目を読んだ後で、2巻目を買いに行った時にズラッを並んでいるのを見て少し後悔した。
それがまぁ私の肌に合ったのかどんどん読み進んで1日に1巻を読むハイペース。
だから全て読み終わるまで毎日徹夜で授業には出られない日が続いたと思う。
剣客商売や鬼平犯科帳で知られた池波正太郎は全作品を読んだ。グルメとしても知られる池波の文章は夜型の私の腹の虫を泣かせ、ここに一人のメタボを作り上げた。
サスペンスものでは先年亡くなった内田康夫が秀逸だ。映像化されてしまうと西村京太郎や山村美紗に負けた感があるが、活字では絶対に負けていない。
晩年の作品には衰えが感じられるがデビュー後数年間に出版されたものは「早く次の作品を書いてよ」と思うほどに読書熱を刺激した。
サインを頂いた桜木紫乃は、直木賞に恥じない筆力がある。彼女が特に力を込めて書いているのは男女のアノ時の場面で、(そうだったっけ・・・・・)と思わず記憶を探った。