北国の家は二重構造になっている。
玄関も二重でドアの外側に風除室を付けたり内側にサッシを加えて寒気が入らないように工夫している。
窓だって二重でペアガラスを使っている家もある。
玄関の郵便受けには歯ブラシのような毛が植えられていて蓋も付いている。
その玄関内側にある引き戸式のサッシが「軽く動くと思わない?」とルンバに云われた。
気にしたことは無いけれど、そう云えば昨日閉める時に力を入れ過ぎたのか
「ドン」と音をさせてしまった。
どうやら昨日テルテル所長が来た時引き戸サッシの動きを重く感じたのか、何も云わないのにサッと重いガラス戸を外して注油したらしい。
「テルテルって何でも出来る人なんだねぇ」と尊敬のまなざしを浮かべる その視線の先は、ソファーで横になっている私に向けられている。
つまりテルテルと私とを比較しているのだ。
「陽と陰」、「動と性」
いや「性」ではなくて「静」
私の場合、「静」はカッコ良すぎだべか(笑)
その「静」に珍しく声が掛かった。
居間の入口ドアを開閉する度にキコキコ音がすると云うのだ。
いつも耳鳴りが響いている私には そのキコキコは全く聞こえないのだけれど「静」は少しでもテルテルに負けないようにとサッと動いた。
ジュリーのように片手にピストルの代わりに油、片手には花束の代わりに拭き取るためのテイッシュを持ち格好よく注油開始。
その途端「あまりつけ過ぎないでよ」と指示、いや命令が飛ぶ。
どうやら私はテルテル程には信用されていないようだ。
「どう? まだキコキコしているの?」
私はキーンと耳鳴りの続いている耳をドアに近づけた。