「旅の坊主」の道中記:常葉大学社会環境学部・小村隆史の防災・危機管理ブログ

日本唯一の防災学部はなくなっても、DIGと防災・危機管理を伝える旅は今日も続いています。

理解されやすいが欺瞞的な説明と、理解されがたいが構造的な真因と。

2016-01-05 23:47:00 | 防災学
大晦日から三が日までの4日間、例年通り実家(住民票上の住所でもある)で過ごす。

今年も、紅白歌合戦と行く年来る年の後「年の始めはさだまさし」を見て、「風に立つライオン」を聞く。
医療人に限らず、国際協力に携わった経験を持つ者であれば、涙なくして聞けない名曲。
昨年の年始には、同名の小説について触れた記憶がある。今年も、そんな年の始まりとなった。

4日、仮寓のある富士市の戸田書店富士店に行く。今年最初のリアル書店での買い物。
丸善やジュンク堂、紀伊国屋や三省堂といった大御所に比べれば、
売り場面積も少なく品揃えにも限度がある戸田書店富士店だが、それなりのものはあった。

今年最初のリアル書店での買い物は以下の3冊。

・松元崇『持たざる国への道:あの戦争と大日本帝国の破綻』(中公文庫)
・飯島周『カレル・チャペック:小さな国の大きな作家』(平凡社新書)
・瀧野隆浩『沈黙の自衛隊:知られざる苦悩と変化の60年』(ポプラ新書)

(買うのは良いが単に「積読」を増やすのみでは、との声もあろうが、それはそれとして。)

松元崇なる人物。このような人物がいることを知らなかったとは、ひたすら不明を恥じるのみ。
天才的な頭脳の持ち主はいるのだなぁ、と、思わざるを得ない。
国公試上級と司法試験に同時に合格し、大蔵キャリアとしては主計官、主計局総務課長を歴任、
最後は内閣府事務次官まで上り詰めるが、その激務の間にこの本の原型を書かれた、というのだから、
ものすごい御仁である。
(わずか11歳違い。一体、己は何をしているのやら、と言わなくてはなるまい……。)

今日の更新のタイトルは、日本近代史がご専門の加藤陽子女史による、松元氏の著書への解説から拝借したもの。
(加藤先生は「旅の坊主」とわずか3歳の違い。この差は何だろう……。)

リアル書店の良いところは、立ち読みでも「はじめに」「おわりに」「解説」程度や読める、ということ。
で、加藤先生による解説に、このような表現があったからこそ、買うことを決めたと言って良い。

「理解されやすいが欺瞞的な説明に飛びつき、理解されがたいが構造的な真因に耳を貸さなかった国民と、
国民に正直でなかった国家の関係はいかなる顛末を迎えたのだろうか。
(中略)
国民に正直でなかった国家は、その国家自らが死活的に重要な場面でいざ合理的な判断を下そうという段になった時、
もはやそれを許さない国民の反対にたじろぐことになる。」
(同書解説、301頁)

松元氏曰く。
「(本来戦う必要のなかった米国との大戦争に突入し国土を焼野原とされて敗戦を迎えたという)歴史を繰り返さないためには、
経済合理性を大切にすることと、
それを可能にする常識的な議論が行える土壌を創り上げ、守っていくことが必要だというのが筆者の考えである。
何よりも我が国に欠けているのは、何が正しいかが明らかでない事態において、
より正しい結論に達するために忌憚ないディベートを行う習慣であり、
そういった場合にコモン・センスを大切にする姿勢であろう。」(14頁)

さて、「旅の坊主」の危機管理・防災論議は、
加藤先生がおっしゃられるような「理解されがたいが構造的な真因」に迫るものであろうか。
また、松元氏が述べておられるように、コモン・センスを大切にしているだろうか。

大きく外れてはいないだろう、とは思っているものの、何せ、文章にまとめたものが少なすぎる。

例年に増して、その大きな課題への取り組みが、今年は求められている、と思っている。
そんなことを再確認した、今年最初のリアル書店での買い物だった。


コメントを投稿