「旅の坊主」の道中記:常葉大学社会環境学部・小村隆史の防災・危機管理ブログ

日本唯一の防災学部はなくなっても、DIGと防災・危機管理を伝える旅は今日も続いています。

敵を知り己を知らば…

2008-06-04 20:28:07 | 国際防災協力
 テヘラン滞在6日目。
 6月4日はエマーム・ホメイニー(ホメイニ師と言ったほうがピンと
くるかな)の命日で休日。おかげで道路はガラガラ&店もほとんど
が閉まっていますがですが、どうもテヘラン市総合災害管理局の
面々はスイッチが入ってしまったみたい。休日返上で私の3回目の
セミナーに付き合ってくれました。セミナーは今回が最後。あとは
区の担当者を交えた6回のワークショップが待っています。

 防災担当者であろうとなかろうと、具体的な被害イメージを持つ
ことは決して易しいことではありません。そもそも「我が身に災禍は
起こらない」と固く信じているのが人間の基本的な心理メカニズム
のはず。しかも、ここテヘラン市で想定される地震災害は、いささか
規模が大き過ぎる!それを具体的にイメージする/イメージさせる
ことがいかに大変な作業か……。

 日本のこの分野の先輩・同僚諸氏が2000年以降、「マイクロ・
ゾーニング(地震被害想定調査)」と「マスタープラン(地震防災基本
計画)」と呼ばれる2つのプロジェクトを行ってきました。私の活動も、
それらの成果の上に成り立っているのですが……。

 約700万人のテヘラン市民に対して、想定死者38万人(20人に
1人!)。地震の揺れそのものは、MMI(改正メルカリ震度階級)と
いう、主に欧米で使われている12段階の震度のⅧかⅨですから、
気象庁震度階に直せばⅧで5弱か5強、Ⅸで6弱。日本の防災基準
からすれば「震度6弱で致命傷を出したら恥」ですから、日本であれば
&お金さえあれば技術的には、何とかなるレベルの揺れなのですが……。

 市内の建物の30%が全壊するという被害想定調査に基づけば、
家を失う人は単純計算で210万人、1家族5人と考えて42万世帯。
必要とされる仮設住宅の数は、これまた単純計算で阪神淡路大震災
の8倍超。約5万棟の仮設住宅を建てるのに日本で半年強、その8倍強
の数を建てるのにイランだと……。その間、避難所になりそうな学校
などの耐震性が当てにならないとすると、必然的に公園などにテント
村を作れという話になって、その数と調達にかかる時間は……。

 考えるときりがありませんが、その避難対策を、今から本気で考えて
おこうよ、というのが、今回、私に与えられた課題のようです。現地に
入り、担当者と数時間議論して、ようやくはっきりしたイメージが得られ
ました。何と時間のかかったことか……。

 避難対策はあくまで次善の策!そのことに徹底的にこだわりつつ、
でも、(耐震補強の費用の出しようがないという)無い袖は振れない
現実も見据えつつ、生き残れた者のためになることを何から仕込んで
おこう。その辺りで現実との折り合いをつけつつ、明日はパイロット・
プロジェクトの対象となる地区をしっかりと事前調査してきます。

 現地時間の20時を回りました。さて、夕食をどうしよう……。


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