「旅の坊主」の道中記:常葉大学社会環境学部・小村隆史の防災・危機管理ブログ

日本唯一の防災学部はなくなっても、DIGと防災・危機管理を伝える旅は今日も続いています。

石井光太さんの『遺体』にどう取り組ませるか

2015-07-21 19:56:16 | 東日本大震災(東北地方太平洋沖地震)
東日本大震災について、学生に取り組んでもらいたい本を何冊か選び、
それについて、書評と呼ぶほどのものではないだろうが、簡単な説明をつけた上で紹介したい、という話、
拙ブログでも過去に何回か、話をしてきたところ。

東日本大震災の発災から、すでに4年4ヶ月余が経過している。
今日においても、被災地を歩くことには大きな意味があり、「旅の坊主」としても自らにそれを課し、
また学生にもそのことを強く勧めているところ。
それにしても、今年の新入生は、震災当時中学2年生の3月であり、
東日本大震災について、全般的にも、特定の時間と場所・関係者の話としても、
情報や知識を持っているとは言い難い。

「本の5冊や10冊読んだところでナンボのものか?」「わかったような気になるな!」
との声がかかるであろうことは百も承知。
それでもまずは本を読み(否、正しい日本語としては「読ませ」だな)、
何があったかに思いを馳せることをさせなくては、と思っている。

で、やはり落とすことの出来ないのが、石井光太さんによる『遺体:震災、津波の果てに』。
この、ハードな本と、どう取り組ませるのがよいのだろうか。

岩手県釜石市八雲町。
JR釜石線と三陸鉄道南リアス線の釜石駅から、駅前を左右に走っている国道283号を右(内陸方面)へ。
甲子川(かっしがわ)にかかる橋を過ぎてさらに直進、
右手に「かっぱ寿司」が見えたらその先、東京靴流通センターの先の交差点を右折して細い道を山のほうへ。
釜石線の踏切を越えたところにある、今は県警釜石警察署と運転免許センターの仮庁舎が建っている場所。
かつてここに、釜石市立第二中学校があった。

校舎の後ろ側、山裾部分に体育館があったのだが、廃校になって5年目、幸いにも取り壊されていなかったこの体育館が、
東日本大震災後、遺体安置所として使われることになった。
その、遺体安置所での人間模様を描いた、東日本大震災をめぐる幾多の本の中でもベストと思っている、
ドキュメンタリー作家石井光太さん渾身の作品、それがこの『遺体』。

この本には30のエピソードが収録されている。主な登場人物だけでも16人。

「真実は細部に宿る。」
(「神は細部に宿る」というのがオリジナルと聞いている。ただ、)

一般論で片づけるのは簡単だが、そして一般化&一般論が必要な時もあるが、
一つ一つの事柄の中にこそ、学ぶべきものがある、と腹をくくることが大切だということを、
しっかり教えておかなくては、とも思っている。
さらに、人間は、ひとくくりにできるような代物ではない。
一人一人に寄り添ってこその支援者・理解者であろう。

とすれば……。

ありふれた方法ではあるが、「自分がその立場になったとして」という課題を出して、
それぞれの状況を想像させた上で、彼ないし彼女の行動を追体験させる、
そういうことになるのかもしれない。

「○○の立場になって」というのは、昔から苦手だった。
でも、この種のドキュメンタリー本を読むということは、追体験が出来る、ということを意味するものでもある。
自分が苦手なことを学生にやらせるのは本意ではないが、それでも、わずか一例でもよいから、
あの時、この人は、何を思い、どう行動したのか、それを想像し、記憶しておくように。
このような教え方をすることが求められているのだろうなぁ、とは思っている。

少なくても「旅の坊主」は、この機会に、主要登場人物16名の名前をノートに書き写した。
ひょっとしたら、どこかで会うことがあるかもしれない。
その時、「ひょっとして、あの『遺体』で取り上げられていた○○さんですか?」と、問える者でありたい。
「真実は細部に宿る」という言葉を公言するからには、それくらいのことは出来る者でなければ、
と思っている。


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