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寡黙堂ひとりごと

詩吟と漢詩・漢文が趣味です。火曜日と木曜日が詩吟の日です花も酒も好きな無口な男です。

十八史略 叔孫通

2010-03-20 10:35:35 | 十八史略
與に成を守るべし
帝懲秦苛法、爲簡易。羣臣飮酒争功、酔或妄呼、抜劍撃柱。叔孫通説上曰、儒者難與進取、可與守成。願懲魯諸生、共起朝儀。上從之。魯有兩生。不肯行曰、禮樂積、而後可興也。通與所徴及上左右、與弟子百餘人、爲緜蕝野外習之。

帝、秦の苛法に懲りて簡易を為す。群臣酒を飲んで功を争い、酔うて或いは妄呼(もうこ)し、剣を抜いて柱を撃つ。叔孫通(しゅくそんとう)、上(しょう)に説いて曰く、儒者は与(とも)に進んで取り難く、ともに成を守るべし。願はくは魯の諸生を徴(ちょう)して、共に朝儀を起こさん、と。上之に従う。魯に両生有り。行くを肯(がえ)んぜずして曰く、礼楽は徳を積んで、後に興すべきなり、と。通(とう)、徴(め)す所のもの及び上の左右と、弟子(ていし)百余人と、緜蕝(めんぜつ)を野外に為(つく)って之を習わす。ー通釈は次回にー

十八史略 つづき

2010-03-18 17:40:51 | 十八史略
承前
上曰、奈何。良曰、陛下平生所憎、羣臣所共知、誰最甚者。上曰、雍齒。良曰、急先封齒。於是封齒爲什方侯。而急趣丞相・御史、定功行封。羣臣皆喜曰、雍齒且侯、吾屬無患矣。詔定元功十八人位次、賜丞相何、劔履上殿、入朝不趨。
尊太公爲太上皇。

上曰く、奈何(いかん)せん、と。良曰く、陛下平生憎む所にして、群臣の共に知るところは、誰か最も甚だしき者ぞ、と。上曰く、雍齒(ようし)なり、と。良曰く、急に先ず齒を封ぜよ、と。是に於いて齒を封じて什方侯と為す。而(しか)して急に丞相・御史を趣(うなが)して、功を定め封を行う。群臣皆喜んで曰く、雍齒すら且つ侯たり、吾が属、患い無けん、と。
詔(みことのり)して元功十八人の位次(いじ)を定め、丞相何に賜い、剣履(けんり)して殿(でん)に上り、入朝して趨(はし)らざらしむ。
太公を尊んで太上皇と為す。

高祖は「どうすればよかろう」と尋ねると、張良は「陛下が平生憎んでおられて、なおかつ群臣がそれを知っている、その最たる者は誰でしょうか」高祖は「雍齒だろう」張良は「では真っ先に雍齒に領地をお与えください」そこで雍齒を什方(じゅうほう)侯に取り立てた。そうしておいて丞相や御史を督促して、諸将の功績を定めて領地を決めることにした。群臣は皆喜んで言った。「あの疎まれていた雍齒すら侯に取り立てられたのだから、我々は何の心配も無いだろう」と。
詔(みことのり)によって大功ある者十八人の席次を定め、丞相の蕭何には剣をつけ履(くつ)をはいて殿上にのぼることを許し、朝廷に入っても小走りしなくとも良いという恩典を賜った。
高祖は父の太公を尊んで太上皇(たいじょうこう)という尊号を奉った。

元功 元は頭、最上、第一の意味がある。

十八史略 雍齒すら且つ侯たり

2010-03-16 14:29:30 | 十八史略
上已封大功臣。餘爭功不決。上從複道上望見、諸將往坐沙中、相與語。上問張良。良曰、陛下以此屬取天下。今所封皆故人親愛、所誅皆平生仇怨。此屬畏不能盡封、又恐見疑平生過失及誅。故相聚謀反耳。

上(しょう)、すでに大功臣を封(ほう)ず。余(よ)は功を争うて決せず。上、複道の上より望み見るに、諸将、往々沙中に坐して、相与(とも)に語る。上、張良に問う。良曰く、陛下、此の属を以って天下を取る。今、封ずる所は、皆故人親愛にして、誅する所は、皆平生の仇怨(きゅうえん)なり。此の属、尽くは封ぜらるる能わざるをおそれ、又平生の過失を疑われて誅に及ばんことを恐る。故に相聚(あつ)まって反を謀(はか)るのみ、と。

高祖はすでに大きな功労を立てた者にだけは領地を与たえ終ったが、残りの者は功績の大小を言いつのって決まらなかった。高祖が二重廊下の上から見下ろすと、諸将があちこちと砂の上に座って何やら話し合っている。張良に尋ねると「陛下はあの者たちの力によって天下を取られましたが、今のところ領地を与えられた者は、皆古くからの知り合いか、目をかけられた者たちです。また、誅殺された者は、皆陛下が常日頃憎んでいた者ばかりです。ですからあの連中は皆が皆領地をもらえないのではないかと心配し、一方わずかの落ち度でも、疑われて殺されるかと恐れているのです。それでああして集まって、いっそ謀反を起こそうかと相談しているのです」と答えた。つづく

十八史略 狗の功と人の功

2010-03-11 18:14:31 | 十八史略
剖符封功臣。酇侯蕭何、食邑獨多。功臣皆曰、臣等被堅執鋭、多者百餘戰、少者數十合。蕭何未嘗有汗馬之勞、徒持文墨議論、顧反居臣等上何也。上曰、諸君知獵乎。逐殺獸者狗也。發縱指示者人也。諸君徒能得走獸耳。功狗也。至如蕭何、功人也。羣臣皆莫敢言。

符を剖(さ)き功臣を封ず。酇侯(さんこう)蕭何、食邑(しょくゆう)独り多し。功臣皆曰く、臣等、堅を被(き)鋭を執(と)り、多き者は百余戦、少なき者も数十合。
蕭何は、未だ嘗て汗馬の労あらず、徒(た)だ文墨(ぶんぼく)を持して議論し、顧反して臣等の上に居るは何ぞや、と。上曰く、諸君、猟を知れるか。獣を逐殺する者は狗なり。発従(はっしょう)して指示する者は人なり。諸君は徒(ただ)能く走獣を得たるのみ。功は狗なり。蕭何の如きに至っては、功は人なり、と。群臣、皆敢えて言う者莫(な)し。

高祖は割符を分け授けて功績のあった家臣に領地を与えた。その中で酇侯の蕭何だけ特に多かったから、他の功臣は皆「我々は身に堅いよろいをつけ、矛や刀を執って、多い者は百余回、少ない者でも数十合の戦をしています。ところが蕭何は一度も馬に鞭をあてた事も無く、ただ筆と墨を持って議論していただけではありませんか。それが却って自分たちより上というのはどういうことでしょうか。」と言った。すると高祖は「諸君は猟を知っているか。獣を追いかけて殺すのは犬であり、犬の綱を解いて指図するのは人間の役である。諸君はただ獣を捕えただけであるから、いわば犬の功である。蕭何は諸君を指図したのだから、その功は人の功である」と言った。これには群臣誰一人一言もなかった。

剖符 符を割くこと その一片を与えて証とする
酇侯 湖北省の地名蕭何が封じられた。
汗馬の労 馬が汗をかくほどの骨折り、実戦の苦労。
顧反(こはん) かえって。 
発縦 犬を繋いだ綱を解き放つこと

十八史略  善く将に将たり 

2010-03-09 13:56:03 | 十八史略
多々益々辦(べん)ず
上嘗從容問信諸將能將兵多少。上曰、如我能將幾何。信曰、陛下不過十萬。上曰、於君如何。曰、臣多多益辦。上笑曰、多多益辦、何以爲我禽。曰、陛下不能將兵、而善將將。此信所以爲陛下禽。且陛下所謂天授、力也。

上(しょう)嘗て従容(しょうよう)として信に諸将の能(よ)く兵に将たるの多少を問う。上曰く、我の如きは能く幾何(いくばく)に将たらんか、と。信曰く、陛下は十万に将たるに過ぎず、と。上曰く、君に於いては如何(いかん)、と。曰く、臣は多々益々辦(べん)ず、と。上笑って曰く、多々益々辦ぜば、何を以って我が禽(とりこ)に為れる、と。曰く、陛下は兵に将たること能(あた)わざれども、而(しか)も善く将に将たり。此れ信が陛下の禽と為りし所以(ゆえん)なり。且つ陛下は所謂(いわゆる)天授にして、人力に非ざるなり、と。

高祖はあるとき、くつろいだ様子で韓信に将軍達がそれぞれどの位の兵を統率する能力があるだろうかと聞いたことがあった。そして最後に高祖は「わしはどれほどの兵を使いこなせるだろうか」と問うた。すると韓信は「陛下は十万位いでしょう」と答えた。高祖は「ではお前はどうだ」と尋ねると、「私は多ければ多いほど指揮がさえます」と事もなげに言った。高祖は笑って「多ければ多いほどうまくやれると言うそなたがなぜわしの虜になったのだ?」韓信は「陛下は兵に将たるには向きませんが、将に将たる才がおありになります。これが私が虜になった所以です。その上、陛下は天から授かった人に君たる運勢をお持ちです。人の力では及びもつきません。」と。

辦 つとめる。処理する。さばく。
よく似た字がありますので参考のため列挙しました。
辨(弁)わかつ 弁別。わきまえる 分別。つぐなう 弁償。用にあてる弁当。               
辧(弁)辨の本字。
辯(弁)言うこと、言い開きすること 弁護士の弁
瓣(弁)はなびら、花弁。瓜の種の周りのやわらかな部分
辮 編む 辮髪(べんぱつ)中国清朝の男子の髪型。(蒼穹の昴でおなじみ)