ショートシナリオの館

ボケに抵抗するため、日常生活の中から思いつくままに書いています。月2回・月曜日の投稿を目指します。

塩と生命のモノガタリ

2016-09-12 07:58:51 | 日記


家庭菜園で秋野菜作りのための土おこしをしている美井さんに、ウォーキング中の永さんが声を
かけました。

永 : 先日はトマトをありがとう。とても美味しかったよ。少し手を休めて、塩飴でも舐めない?
    汗をかいた時には最適だから、いつも持ち歩いているんだ。
美井: それはウレシイな。ひとつ頂きますよ。ア~、ウマイ!疲れがふっ飛ぶね。
永 : 今、ふと思ったんだけど、地球を飴玉に見立てると、どんな味がするのかな~?
美井: きっとショッパイよ。だって、地球表面の71%は塩分濃度3.5%の海水だし、陸地にも岩
    塩があるから、もし、舐めることができるとしたら、きっと塩味だね。
永 : なるほどね。ところで、今、話しても大丈夫かな?
美井: 時間なら十分あるよ。
永 : 実は最近、孫から海の成り立ちとか地球上の生命誕生について質問攻めにあっているんだ
    けど、うまく説明できなくて困っているんだ。
美井: さては、この塩飴はその質問をするための小道具だったんだね。それでは、お孫さん向け
    に分かりやすく話すよ。生命の誕生は海からだから、先ずは海の成り立ちの話から始め
    る。宇宙は137億年にビッグバンと呼ばれる大爆発によって誕生した。その爆発で散り散
    りになった原子はやがて鉄などの重い原子を中心に集まりはじめ、いくつもの惑星が誕生
    した。そのうちの一つが地球で、46億年前に生まれたと言われている。誕生したばかり
    の地球はマグマに覆われていて非常に高い熱を帯びていたから、水は水蒸発の状態で存在
    していて、液体としては存在していなかったんだ。しかし、宇宙での惑星間の衝突が減少
    すると、やがて地表の温度は冷えはじめ、大気中の水蒸気は雨となって地上に降り注いだ
    んだ。
永 : それで海ができたんだね。
美井: いや、続きを聞いてよ。地上に降り注いだ雨は大気中の塩素ガスを溶かしながら降ったた
    め、塩素を含んだ水として大地に溜まった。この希塩酸の水が海の始まりなんだ。その酸
    性度はちょうど人間の胃袋と同じくらいと言われている。その後、希塩酸の海は徐々に岩
    石に含まれるナトリウムによって中和されていくんだ。つまり塩素を含んだ水にナトリウ
    ムが溶け、塩化ナトリウムを含む水ができた。海水に溶けている元素の内、85%は塩素と
    ナトリウムだよ。その他には硫黄、マグネシュウム、カルシュームなどがある。こうし
    て、今の塩化ナトリウム中心の塩味がする海水が誕生したというわけだ。
永 : なるほど。だけど、海の塩分濃度がいつもほぼ一定に保たれているのは、ナゼ?
美井: 海の塩分濃度は海に塩が供給される速度と塩が除去される速度で決まるんだ。これが今の
    塩分濃度でちょうど釣り合っているから一定なんだよ。具体的に言うと、先ずは海水の量
    だけど、海の水が蒸発する量と雨と川から流れ込む水の量が同じで差し引きゼロになって
    いる。次に塩分量だけど、岩石中の塩分を溶かして海に注ぎ込む川の水から、そして海底
    火山の爆発やマグマの噴出からも供給される。除去の方は、魚などの生物に取り込まれた
    り、塩が沈殿したり、結晶になったりで除かれる。更に塩素やナトリウムのように海の中
    に長期に滞留する元素、カルシュウムのように滞留が短い元素のものもある。こうした各
    元素の滞留時間も影響する。こうした条件がうまく釣り合った循環を1億年かけて継続で
    きたことで現在の海水はあるそうだ。
永 : なるほど。海の誕生については理解したけど、海水と生命の誕生はどこでつながっている
    の?
美井: 生命の誕生に話を移すね。地球上に最初に誕生した光合成微生物のシアノバクテリアの増
    殖で、酸素が地上に供給されるようになり、やがてオゾン層が作られた。このオゾン層
    により陸地は有害な紫外線などから守られることになった。こうして、4億年前に生物が
    地上に上がる環境ができたんだ。初めて陸に進出した生命は植物だった。海の浅瀬から生
    息範囲を広げて森を作った。やがて、節足動物そして両生類が陸へ上がった。この時、生
    物は自分自身の身体に、母なる海の水を蓄えて上陸した。これが現在の血液や体液になっ
    たと考えられている。
永 : 今の話で思い出した。女性は妊娠すると子宮内に胎児を育てるための羊水を溜めるよね。
    この羊水は太古の海、ちょうど脊柱動物が誕生したころの海の水と似ていると聞いたこと
    がある。1個の卵細胞は体内の羊水の中で分裂して、まるで海の中で進化の過程を歩んで
    きたような形態変化を遂げて生まれてくるんだよな。羊水中に含まれている塩類と、生ま
    れてからの血液などの体液中の塩類は海水中の塩類と良く似ていると聞いたことがある。
    それは海の水を蓄えて生物が上陸した名残りなんだね。
美井: そうなんだ。ところで細胞が生命活動を行なうには浸透圧が一定に保たれていることが不
    可欠だけど、ここにも塩の構成成分であるナトリウム濃度の維持が最も大きな影響を与え
    ている。塩分は生命の誕生の時だけでなく、その後の生命活動にも不可欠だと言うことな
    んだ。血を舐めると、鉄臭くて塩辛い味がするそうだけど、そこに、生命の起源である母
    なる海の鉄イオンと塩を感じることができるということだね。
永 : 昔の人たちは病気療養が目的で海水浴に行っていたと聞いたことがある。海の水に触れる
    ことで、身体から毒素が抜けて健康になれることを知っていたんだ。今日の話しは鉄とい
    う存在が地球という惑星を誕生させたことに対して、塩という存在が生命を誕生させ、そ
    して繁栄させたということだね。
美井: これは余談だけど、食料保存用そして調味料として見つけた岩塩を巡って人類の最初の戦争
    が始まったと言われている。その塩(ソルト)を守るためにソルジャー(兵隊)が組織さ
    れ、給料として塩のサラリー(給料)を与えた。兵隊たちの間では塩の話が朝の会話とな
    り、サリュート(挨拶)が始まったと学んだことがある。
永 : 塩は言葉の語源にもなっているんだ。今日はありがとう。塩飴をもっと置いていくね。




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