ショートシナリオの館

ボケに抵抗するため、日常生活の中から思いつくままに書いています。月2回・月曜日の投稿を目指します。

藪から猫・・・

2016-03-28 08:32:09 | 日記


我輩は藪の中に住む猫である。名前はボス。ここのリーダーだ。住猫の中にはかつて飼い猫だった
ものもいるが、そんなことを話題にするヤツはいない。なぜなら、ここでの生活が刺激に満ちてい
るからだ。折りしも、今日はプロレス興行の日。すでに会場では猫パンチポーズで試合開始を催促
している観客たちの声援で熱気ムンムンなのである。

リングアナ: レディース&ジェントルキャッツ、お待たせしました。試合を開始します。レフェ
      リーは白猫のデン、コミッショナーはボスです。試合に先立ち、歌姫の三毛猫ナナさ
      んが歌と踊りで会場の雰囲気を盛り上げてくれます。ナナさんどうぞ~!

こうして藪の中のプロレス興行が始まりました。鍛え抜かれた体をしたレスラーが戦うプロレスは
大人気です。妖艶な歌姫ナナさんのステージが終了すると、お気に入りの入場曲に合わせてレスラ
ーがリングに登場してきました。

リングアナ: 只今より「藪の中コンチネコタル選手権試合」を行ないます。青コーナーは挑戦者、
      黒猫ゴーン、これまでの戦績は4勝1敗。ラフファイトを得意とする若手です。
      赤コーナーは現チャンピオンのパンダ猫ダルト。戦績は12勝4敗。正統派レスリング
      の技で皆さんを魅了するベテランです。

会場はダルト!ダルト!の声援で溢れています。まずはチャンピオンベルトがダルトからコミッシ
ョナーに返還されました。そして、コーナーに戻った両レスラーは試合開始のゴングを待ちます。
「チーン!」いよいよ試合開始です。しばらくは、お互いに様子見の情況で、時折、正統派レスリ
ングの技を繰り出してけん制し合っています。

観客A: ゴーンが珍しく、正々堂々と渡り合っているじゃないか。最初だけだろうな。

観客B: 必ずリング下での戦いに持ち込むよ。まともなレスリングじゃ勝てないからな。
     ホラ、ゴーンがダルトをリング下に引きずりおろしたぞ。これがゴーンのやり方だ。

観客C: ゴーンがダルトに噛み付いた!今度はコーナーポストに頭をぶつけたぞ。ダルトの額から
     血が出てきた。大丈夫かな?血が眼に入るんじゃないか?ダルト、頑張れ!

リング下での攻防から隙を見てダルトがリングに戻りましたが体はフラフラです。後からリングに
戻ったゴーンはさらに追い討ちの猫パンチと猫キックを決め、体固めでフォールに持ち込みまし
た。ダルトはかろうじてカウント2で肩をあげて逃れます。ベテランのダルトは劣勢の中でも冷静
な心を取り戻していました。そして、ゴーンの一瞬の隙を突いて得意技ジャーマン・スープレック
スでゴーンをマットに沈めました。レフリーがカウントに入りました。ワン、ツー・・・
その時です!リング外からゴーンの仲間のウルフが乱入しダルトに体当たり。決め技を崩した挙
句、そのままゴーンと共にダルトに対して攻撃を始めたのです。すぐにレフェリーが中に入り、
ウルフにリング外へ出るように指示します。しかし、レフェリーがウルフに引きつけられている
間に、ゴーンはここぞとばかりにダルトを痛めつけました。レフェリーがようやくウルフをリン
グ外に出し、リング上に目を向けるとゴーンがダルトをケサ固めでフォールしています。レフェ
リーは慌ててカウンし始め、ワン・ツー・スリーと叩き、決着がつきました。観客からは大ブー
イングです。でも、勝負はゴーンの勝ち。二匹がかりの反則によって負けたダルトはゴーンに向
かって言います。

ダルト: おい、ゴーン、よ~く聞け!このマッチのルールは知っているな。反則によって勝った
     ものにチャンピオンベルトは与えられないんだぞ。反則があったかどうかはレフェリー
     ではなく、コミッショナーが判断するんだ。そうだよな、ボス。

ボス: その通りだ。この試合はゴーンが勝ったけれど、反則によるものだからチャンピンベルトの
    移動はない。ゴーンのベルト奪取は無しだ。

ゴーン: ふざけんな!レフェリーがちゃんと3カウントしたんだ。リングの上ではレフェリーの権
     限は絶対だぞ。だから俺の勝ちだ。チャンピオンベルトは貰っていくぜ。

ダルト: ちょっと待て。ボスだけじゃないぜ、お客さんもお前の勝ちを認めていないじゃないか。
     仲間の助けを借りて、反則で俺を破ってもチャンピオンとは誰も認めないさ。

ゴーン: ふざけんな!マットにひっくり返って3カウントされたあんたに言われる筋合いはない。
     そんな台詞は負け惜しみの遠吠えにしか聞こえないぜ。チャンピオンベルトは勝ったも
     のが巻くものだ。さっさと俺によこせ。

リングの上は険悪な状態です。お客さんも固唾を呑んで成り行きを見守っています。勝負の最終判
定がコミッショナーから宣言されました。

ボス: コミッショナー権限で判定を宣言する。反則によって勝利したものにはチャンピオンベルト
    を渡すわけにはいかない。ただし、反則とはいえチャンピオンが3カウントを取られたのも
    事実である。よって、今回は私がベルトを預かり、次の大会において再試合を設定するこ
    とを、ここに宣言する。以上!

ダルトもゴーンも大いに不満でボスに抗議しています。お客さんの目は試合が終了しているにもか
かわらずリングに釘付けです。会場では観客たちがささやきあっています。

観客A: 次の試合がいよいよ面白くなってきたぞ。果たして、どっちが勝つかな?

観客B: ゴーンは若い。今日も時折いい技を見せていた。次の試合までにはさらに力をつけてくる
     はずだ。反則無しで戦って欲しいよな。ダルトがどう巻き返すかが見ものだ。

観客C: 意地のぶつかり合いの因縁試合になるな。両方共「絶対に負けられない」と燃えるぞ。
     試合は因縁が絡んでくると、ますます盛り上がる。次回の対戦が待ち遠しいな。

次回の対戦が楽しみですね。藪の猫たちの生活をもっと見てみたいと思いませんか?
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未来からの感謝状

2016-03-21 11:28:40 | 日記


春めいた光と風の中、スイセンの花たちが一段と輝きを増してきた午後。

夫: 高級そうな封筒がポストに入っていたんだけど、何か変だな。ナニナニ?宛名の横に「未来
   からの感謝状」って書いてあるぞ。切手に押された日付は2026年3月じゃないか。そんな
   バカな!差出人は僕自身の名前だし、一体、どういうこと?10年後の僕が今の自分に出した
   ってことになるのかい?

妻: 新手の振り込め詐欺じゃないの?封筒は随分と立派な厚手の和紙ね。早く開けてみて。

夫: そうだね。お金を請求する内容なら、即座にゴミ箱行きだ。

中の便箋もきれいな和紙で、そこには次のようなことが書かれていました。

10年前の私へ。拝啓、お元気にお過ごしのことと思います。
私も認知症の発症リスクが高い年代に突入しました。2026年の今では、10年前とは比較にならない
ほど認知症の患者が急増しており、ニュースでは連日、認知症がらみの事件や事故が報道されてい
ます。
さて、本題です。自身の認知症発症だけでなく老々介護に陥る不安も抱えている私にとって、こう
いったニュースは他人事ではありません。現在では、認知症の患者が起こした事故での家族の損害
賠償責任に関する法整備は、ある程度進んでおり、明らかな監督放棄などの過失がなければ、残さ
れた家族が賠償金を全額負担させられることはなくなりましたが、以前は、そうではありませんで
したよね。
私はこうした法整備が確立された背景には、何らかのきっかけがあるのではないかと思い、調べて
みました。その結果、約10年前に認知症患者(男性、当時91歳)が徘徊中に電車にはねられて死亡
した事故で、JR東海が家族に対し賠償を求めた裁判において、一審、二審では損害賠償責任ありと
された判決が、最高裁で「家族の生活状況などを総合的に考慮して決めるべき」との新たな視点を
示し、JR 東海側の逆転敗訴が、2016年3月1日に確定した事例を見つけました。
そして、同年3月3日の朝日新聞の「声」欄に投稿されたYさんの「認知症患者が原因となった被害
に対し、国民全体で助け合ったり補償できる仕組みを国や保険会社が作って欲しい」という記事も
見つけました。
私はこれらの声が法整備へのきっかけを作ったのではないかと考えました。新聞への投稿者は友人
のYさんです。Yさんに投稿への謝辞を伝え、同封の感謝状を渡してほしいのです。
よろしくお願い申し上げます。10年後の私より  敬具

妻: 真面目な文章じゃないの。手作りの感謝状も同封されているわ。

夫: フッフッフ、読んでいくうちに、どうやら本当の差出人がわかったぞ。いくつになっても、あ
   いつのいたずら心は健在なようだな。

妻: 本当の差出人はYさんなの?

夫: いやいや、Yさんは自分の投稿記事が新聞に掲載されたことを知らせるのに、こんな回りくど
   いことなんてしないよ。封筒の日付押印を良く見ると、手作り風だし。

妻: じゃあ、誰?私が知っている人?・・・・・もしかしたら土井さん?

夫: そう、きっと土井君だな。やってくれるじゃないか。共通の友人であるYさんの投稿文が採用
   されているから、「読め!」と言いたいんだよ。電話やメールで知らせれば簡単なのに、彼
   はそれじゃあ面白くないのだな。そこで、こんなに手の込んだ方法を考えたんだろうね。還
   暦を過ぎても、相変わらず、お騒がせなヤツだ。彼が直接、この封筒を我が家の郵便受けに
   放り込んだんだよ、きっと。僕がこの封筒を受け取る時間を見計らって、メールでも打って
   いるんじゃないか?ちょっとパソコンを立ち上げてくるよ。

パソコンのメールを見てニンマリ笑った夫は、添付されていた新聞の記事を印刷し、妻に手渡しま
した。

夫: やはり土井君だよ。Yさんの投稿記事を私にも記憶に残る方法で知らせたかったそうだ。あの
   高級そうな封筒や便箋はフリーマーケットで安く買ったものだからご心配なくとも書いてあ
   った。

妻: 何十年も前の話だけど、あの方は飲み会の連絡に電報を使って、私たちを驚かせたことがあっ
   たわ。あの頃とちっとも変わっていないのね。

夫: そういうヤツだ。今回の芝居じみたやり方は彼自身が認知症になることを一番恐れていること
   の表れなのかも知れないね。

Yさんの投稿記事のコピーを、二人でじっくりと読みました。

夫: 「認知症事故、家族責任なし」は画期的な判決だな。これから法整備も充実していくと思うけ
    ど、Yさんの意見のように被害者側、加害者側の両方が救われるような制度が国や保険会社
    によって作られるといいね。

妻: Yさんの文章は素晴らしいわ。無駄な言葉が一つもなくて、誰かさんの文章とは格段の差よ。

夫: おいおい、問題をそちらに持っていくなよ。認知症患者が起こした事故の補償制度を提言して
   いる彼の意見に戻ってくれ。

妻: あなたの友達には変人が多いけど、彼は横綱級ね。こんな手の込んだ方法を考えて実行するな
   んて信じられない。でも、Yさんの意見には多くの人が賛同すると思うわ。

夫: 一人でも多くの人に読んでもらいたいね。そしてYさんの投稿が活かされて欲しいな。


投稿記事の内容は添付の切り抜きをお読みください。


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ボタンの穴

2016-03-14 08:39:53 | 日記


ポカポカ陽気の縁側で、お母さんが裁縫箱をひろげてハルちゃんの洋服にボタンを付けています。
ハルちゃんは小学3年生。まだボタン付けはさせてもらえません。お母さんのそばで、ハルちゃん
はボタンの穴に針が通る様子を眺めていました。

ハル: ねえ、お母さん。ボタンの穴ってどれも四つなの?

母 : 二つとか、一つだけのものもあるのよ。ホラ、見てごらん。お裁縫箱にもこんなに色々な
    ボタンが入っているでしょ。

ハル: ホントだ、みんな違う。ボタンの穴の向こうには何があるのかな?ア~ッ、ボタンの穴が
    どんどん大きくなっていく。ワ~ッ、吸い込まれちゃう。お母さん助けて~!
    どうしよう。何かを掴んだみたい。糸だ!キャ~、どんどん滑り落ちていく。糸をしっか
    り掴まなくっちゃ。どこまで下りるの?ドスン!イテテ。ここはどこ?

ハルちゃんが周りを見回すと、足元には大きなじゅうたんが敷かれています。お母さんのエプロン
の柄に似ていると気付き、少し落ち着きました。ハルちゃんは起き上がり、遠くに見える丘のほう
に向かって歩き始めました。

ハル: あの丘の上に行けば周りが見渡せそうだから、ここがどこなのか分かるかもしれないな。
    何、あれ!カメかな~。丘の方から大きなカメがやって来る。どうしよう。
    こんな時は逃げるが勝ちだよね。

カメ: ハルちゃん、待って~逃げないで。僕だよ、カメハメハだよ。そこにいて~。

ハル: エッ、どうして私の名前を知っているの?それにカメハメハは私が飼っているカメの名前
    だよ。今、水槽の中にいるんだからね。

カメ: 僕がそのカメハメハなんだよ。ハルちゃんがボタンの穴に落ちるのが見えたから、直ぐに
    追いかけてきたんだ。一人ぼっちで怖かっただろう?でも、もう大丈夫。

ハル: どうしてカメが話せるの?なぜ、ここにいるの?ここはどこなの?私は帰れるの?

カメ: ハハハ、心配しなくていいよ。さあ、僕の背中に乗って。

カメハメハは噴水のある池にやって来て、ハルちゃんを背中に乗せたまま池に入り、中央にあるハ
スの花と葉っぱをかたどった噴水に着くとハルを背中から下ろしました。

カメ: 噴水の水は止めてあるから、怖がらないでハスの葉に座ってごらん。空から糸が垂れてるだ
    ろ。その糸をしっかりと掴むんだよ。水が出始めるとその勢いで体が浮き、そのあとは糸
    がハルちゃんを上に引っ張ってくれるんだ。しばらく昇るとトンネルがあるから、そこを
    抜けると穴に落ちる前の場所に戻れるよ。

ハル: 分かった。でもカメハメハはどうするの?

カメ: 僕は大丈夫。それじゃ~、噴水の水を出すよ。あとでちゃんと会えるからね。

ハル: キャ~ァ、体が持ち上がった。糸が身体を引っ張っていく。どこまで昇るのだろう?
    アッ!トンネルの中に入っていく。きっとこれで戻れるんだね。

ハルちゃんは何が何だかわからないうちに、暗いトンネルに吸い込まれました。そのあと、急に明
るい場所に出ました。周りを見渡すとお母さんの優しい笑顔が見えました。ハルちゃんがホッとし
たのも束の間、またまた急に体が引っ張られたのです。そして再び大きなボタンの穴の中に吸い込
まれ、真っ暗な闇の中に落ちて行きました。しばらくすると、今度は森の広場に落ちたようです。

ハル: しまった!糸から手を放すのを忘れたから、また、穴の中に引き戻されて落っこちちゃっ
    た。ここはどこ?前とは違う穴に落ちたのかな?カメハメハはここにいなさそうだし、ど
    うしたらいいのかな~。

ハルちゃんが周りを見渡すと、遠くから大きな動物がこちらに向かって突進して来ました。

ハル: 大変だ~襲われる。早く逃げなくっちゃ。

ムータン: ハルちゃ~ん。逃げないで、私よ、ハムスターのムータンよ。ハルちゃんが穴から落
      ちるのが見えたから、追いかけて来たの。早く私の背中に乗って!

体は大きいけれど確かにムータンです。ハルは安心しました。ムータンはハルを背中に乗せて歩き
始め、川のほとりの水車小屋に着きました。

ムータン: さあ、着いたわよ。この水車の歯車には空から降りてきた糸が巻きついているでしょ。
      水を止めている板を外せば、水車は回り始めるわ。私も歯車の中に入って回わすか
      ら、ハルちゃんは糸をしっかり掴んでいてね。そうすれば、糸に引っ張られて上に
      昇れるわ。トンネルを抜けるとボタンの穴の外に戻れるから、がんばってね。

ハル: 分かった。でもムータンはどうするの?

ムータン: 私は大丈夫。後でちゃんと会えるから。それじゃ、水を流しま~す。

ハル: キャ~ァ、体が持ち上がった~!糸が上へ上へと私を引っ張り上げているよ。どこまで昇
    るの?アッ、トンネルだ。中に入っていく。きっとこれで戻れるんだね。

ハルちゃんは糸に引っ張られてドンドン上に昇ります。そしてトンネルを抜けると、再び明るい世
界に出ました。

母 : ハルちゃん。そんなに糸を引っ張ったら、ボタン付けができないじゃないの。早く手を放
    して頂戴。

ハル: は~い、放すね。これでもうボタンの穴には落ちないはずだよね。

母 : エッ?ボタンの穴に落ちる?一体、何を言ってるの?変な子ね。

ハルちゃんは突然立ち上がり、カメハメハとムータンのいる部屋に駆け込みました。だって、カメ
ハメハやムータンが、ちゃんと戻っているかどうかが心配で、心配で、たまらなかったものですか
ら。


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染めの小道

2016-03-07 08:08:49 | 日記


昭和初期~30年代まで、東京でも水がきれいだった神田川・妙正寺川流域には300軒を超える着物
の染色関連業者があり、京都、金沢に並ぶ染めの三大産地だったそうです。
2016年2月26日から28日の3日間、妙正寺川が流れる中井駅周辺で町全体を染め物のギャラリーに
見立てた「染の小道」というイベントが開催されました。

夫: 新宿界隈の地場産業が着物の染色だったとは夢にも思わなかったよ。

妻: いい情報をゲットしたでしょ。私は布が大好きでバッグもカメラ・カバーも手作りしているか
   ら、布に関するイベントは見逃さないようにチェックしているのよ。うまくいけば、散策し
   ているうちに素敵な布の端切れが見つかるかもね。

夫: 最近はよく布地で小物を作っているよね。僕が使っているこのショルダーバッグはポケットが
   たくさん付いているしA4版の書類も入るから、便利で愛用させてもらっている。今日はお礼
   のつもりで付き合うよ。イベントは今年が8回目の開催で、昨年は3日間に推計12,200人が訪
   れたそうだ。

妻: ネット情報によると中井駅周辺の妙正寺川に反物を架ける「川のギャラリー」と、商店街に
   100点ののれんを飾る「道のギャラリー」が2大看板企画のようね。

新宿駅から西武新宿線各駅停車の電車で3駅目の中井駅で降りた二人は改札口で駅員さんから「染の
小道」の案内パンフレットを受け取り、ウキウキしながら会場へ向かいました。

夫: やはり大勢の人が来ているよ。イベントのチラシ配りの人たちも皆、粋な着物姿だ。あの人た
   ちがいるだけでも雰囲気が盛り上がるね。

妻: 若い人たちの和服姿もいいわ。レトロなイメージの和服を上手に着こなしていて素敵。和布を
   使った小物を扱う店もたくさんありそうだから、今日はお店巡りも楽しみにしているの。
   創作意欲満々の私だから、財布のヒモが緩んじゃいそう。

夫: なるほど、これが「川のギャラリー」か。300mに渡り、川面に色とりどりの反物が架けられ
   ているんだね。柄もいろいろで、きれいだ。昔、この川で染め物の水洗いをしていて、それ
   が妙正川の風物詩だったんだね。僕は東京生まれなのに初めて知ったよ。

妻: ほら見て!あのお店に掛かっているのれんはいいわね。素敵なのれんを探しながら歩きましょ
   うよ。チラシにはお店の人と相談しながら染め上げたオリジナル作品100点が街を飾ってい
   ると書かれているわ。のれんだけではなく、店舗の構えとの調和を楽しんで欲しいらしいわ
   よ。

夫: この辺りには「目白大学」「東京造形大学」「文化学園大学」などがあって芸術や物づくりを
   勉強している学生が多く、今回のイベントにも様々な形でボランティアとして活動している
   そうだから、プロの染色作家から学生たちによるものまで、多様な技法を凝らした作品に出
   会いそうだぞ。

妻: 落合第5小学校で簡単な型染め体験が出来ると書いてあるから、行ってみましょう。

小学校の「千人染め」会場では希望者が型染めに挑戦していました。受付では順番待ち。これなら
3日間で千人ぐらいは軽く集まりそうです。参加者がひと柄ずつ染めた反物は来年のイベントで妙正
寺川に架けられるそうです。

担当者: まずは、あのテレビビデオを観て染め方を学んでください。そのあとで、お好きな柄の型
     紙を選び、染料付の刷毛を受け取ってください。

妻: 私は牡丹の花を選んだわ。力を入れすぎると滲むから、そこは気をつけて円を描くようにク
   ルクルと刷毛を動かすんだったわね。ウンウン、私としてはかなり満足に染める事が出来た
   わ。ステンシルと同じやり方よ。

夫: あの~、教えて頂きたいのですが、代表的な染色技法にはどんなものがあるのですか?

担当者: 染色液に浸す「浸し染め」「草木染」、刷毛や筆で書く「引き染め」「手書き染め」型紙
     を使う「型染め」「擦り込み染め」などが主だったものですが、他にもありますよ。
     どんな技法が使われているか、街にあるのれんを見ながら想像してみて下さい。

夫: 日本の陶器は最盛期の1/5程度に売上げが落ち込んでいると言われていますね。着物はもっと
   落ち込んでいるのではありませんか?

担当者: ええ、この辺りに300軒あったと言われている染色関連業者が、今では10軒程度しか残っ
     ていません。「染めの小道」は落合・中井を「染めの街」として再び日本や世界に発信
     したい、そして地域の活力を生み出したいという住民発意のイベントなのですよ。

妻: 街自体を染め物のギャラリーに見立てた企画はとてもいいですね。このあとも「染の小道」を
   じっくりと楽しませてもらいますね。

小学校での染色体験を終えた二人は飾られてあるのれんを見ながら街歩きを楽しみ、時折、川沿い
にある小さなお店に立ち寄りました。そして、あるお店で・・・

妻: このお店には気になるものがたくさん置いてあるから、暫くこの店にいるわ。あそこのカラフ
   ルな足袋もいいな~。あなたは適当に外で時間を潰していてちょうだい。

夫: やれやれ、これで少しだけ開放されるぞ。ブラブラと、のれん探しでもするか。

染色産業においても伝統技術を生かしながら、その時代に受け入れられるものを作り出していくの
は決してたやすくはないのでしょう。「染の小道」でのお客様との対話の中から、未来に繋がる何
らかのヒントを見出す事ができるといいですね。

着物や染色に興味を惹かれる若い人がどんどん増えて、日本ならではの美意識を現代に生かす手法
やアイデアを生み出してくれることを期待せずにはいられませんでした。
次回、このイベントに参加するときは革新的かつ斬新な染色技術に挑戦する人と作品に巡り会いた
いものです。一度絶やしてしまうと、復活させるのは容易ではありません。川沿いの地場産業が時
代の流れに押し流されることなく、しっかりと生き延びていって欲しいと願いながら、この街をあ
とにしました。


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