茨城県はほしいもの生産量が、他県を圧倒して全国の約9割を占めています。茨城県のほしいも
の特長は「おみやげにぴったりの特産品」だけではなく、茨城県民に日常的に広く食されている
「地元民に愛される食品」であることなのです。そのため、サービスエリアからスーパーまで、
さまざまな場所でいつでも購入することができます。
県内の主要生産地は太平洋沿岸のひたちなか市、東海村、那珂市です。この地は、火山灰由来の
水はけの良い黒ボク土壌で、ミネラルを含んだ潮風が吹きます。そして、冬季に長い晴天が続く、
湿度は低いなど、さつまいもの栽培に恵まれた環境なのです。こうした環境で育ったさつまいも
を、無添加で蒸して切って乾燥させたものが「ほしいも」です。甘さや食感、色合いなどにこだ
わった品種も多く、熟練の技術で加工されています。茨城県の干し芋は、自然の甘さとねっとり
とした食感が特徴で、健康や美容にも良いですから、ぜひ食していただきたいです。実は過去に
県内でも生産地トップの「ひたちなか市のほしいも」について紹介していますが、今回は視野を
広げて、「茨城県のほしいも」すなわち「日本のほしいも」の視点から紹介します。
<ほしいもは日本が発祥の食品>
さつまいもを乾燥させただけの、ほしいものような食品は、世界にはないそうです。しかし、さ
つまいもを砂糖やシロップで煮たり、焼いたり、揚げたりした食品は、アジアやアフリカ、南米
などで広く食べられています。例えば、中国では「紅薯乾」というさつまいもの乾燥品がありま
すが、これはほしいもとは違って、砂糖や香料で味付けされています。ですから、ほしいもは日
本独自の食文化と言えるでしょう。
<さつまいもがほしいもに最適である理由>
(1)さつまいもはデンプンを多く含む食物で、蒸すとデンプンが糖に変わって甘みが増します。
干すとさらに水分が減って甘みが凝縮されます。
(2)さつまいもには食物繊維が豊富に含まれており、干すことで食物繊維の含有量が約5倍に
なります。食物繊維は血糖値の上昇を抑えたり、便秘の予防に効果的です。
(3)さつまいもにはカリウムやマグネシウムなどのミネラルや、ビタミンB1やビタミンEなどの
ビタミンも多く含まれています。これらの栄養素は干すことで失われにくく、干し芋にも
しっかりと残ります。
このように、さつまいもはほしいもにすることで、甘みや栄養価が高まる食材なのです。
<さつまいもの生産量国内ランキング>2022年
1位は鹿児島県で210,000t(29.5%)、2位は茨城県で194,300t(27.3%)、3位は千葉県で88,800t(12.5%)、
4位は宮崎県77,900t(11.0%)です。この4県で8割のシェアです。
鹿児島県のさつまいもは、ほとんどがでん粉(こないしん)や焼酎の原料(黄金千貫、紅さつま)と
して使われています。茨城県では、生食用のさつまいもが多く、干し芋(紅はるか、玉豊)や大学イ
モ(紅はるか、シルクスイート)などの加工品も有名です。千葉県では、紅はるか、紅あずまなどの
品種が主流で、茨城県と同様に生食や加工用に出荷されています。
<ほしいもの味は、さつまいもの品種によって異なる>
一般的には、ねっとり系の品種は甘味が強く、ほくほく系の品種は素朴な味わいが特徴です。そして、
しっとり系の品種は、さっぱりとした上品な風味があります。
1.ねっとり系の品種
(1)紅はるか:スイートポテトのような甘さとねっとりした食感が特徴です。干し芋にすると黄
金色になり、見た目も美しいです。茨城県の主力品種です。
(2) 安納芋:甘くクリーミーな食感で、焼き芋にも適しています。干し芋にすると蜜のような味
わいになります。
(3)泉13号:干し芋専用に作られた品種で、ハチミツのようなコクのある強い甘みと濃黄の飴色
が特徴です。
2.ほくほく系の品種
(1)玉豊:干し芋の定番品種で、ややねっとりした歯ごたえと素朴な甘さがあります。昔懐かしい
味わいで、根強い人気があります。この品種も多く生産されている。
(2) ほしこがね:新品種で、形が良く、しつこくない上品な甘さとさつまいも本来の風味がありま
す。
(3)ほしキラリ:干し芋専用に作られた品種で、黄色みと充分な甘み、上品な風味をもっています。
後味がすっきりとしていて、食べやすさが好評です。
3.しっとり系の品種
(1)シルクスイート:シルク(絹)のような滑らかな舌触りを特徴とする品種です。水分を多く含
んでおり、しっとりとしています。甘味は控えめですが、上品でクセのない
味わいがあります。この品種も多く栽培されています。
(2)ほしあかね:オレンジ色の品種で、カロテンを多く含んでいます。鮮やかな色としっとりした
食感が特徴です。
ほしいもの味は、さつまいもの品種だけでなく、干し方や加工方法によっても変わります。自分の好み
に合った干し芋を見つけるためには、いろいろな種類の干し芋を食べ比べてみるのがいいですね。
<茨城県のほしいも生産の歴史>
ほしいも発祥の地は静岡県で、その後茨城県の那珂湊・阿字ヶ浦(現ひたちなか市)に
伝わったのは今から約110年前と言われています。現ひたちなか市でほしいも生産が拡大したのは、
「冬に強い海風が吹く」といった気候条件に加え、当時、財政破綻の瀬戸際にあった村の立て直しを図
るために、ほしいも製造を柱に村をあげて研究を重ねたといった歴史があります。ひたちなか市に令和
に元号が変わって、創建された新宮「ほしいも神社」があります。「ホシイモノ(欲しいもの)は総て
手に入る」という思いを込めた新しい神社です。茨城県でのほしいも製造は、1908年頃那珂湊(現ひた
ちなか市)湊町のせんべい屋・湯浅藤七と、那珂湊に近い阿字ヶ浦(現ひたちなか市)の小池吉兵衛の
二人の人物により始まり、そのほしいも栽培・加工方法により、茨城のほしいも製造が広まりました。
阿字ヶ浦(現ひたちなか市)にある堀出神社(ほりでじんじゃ)には、小池吉兵衛の胸像もまつられています。
ほしいもの歴史は「ほしいも学校」のホームページをご参照。
<ほしいもの豆知識>
1.栄養価と効能
ほしいもは100%サツマイモを原料とした自然食品です。サツマイモにはビタミンE・ビタミンB群
・カリウム・食物繊維・鉄など体に良いものがたくさん含まれています。中でも食物繊維やカリウ
ムが多く含まれています。カリウムには体のむくみの解消やナトリウムのとり過ぎによる高血圧を
防いでくれる働きがあり、食物繊維には血糖値の急な上昇を防いだり、コレステロールの吸収を抑
制してくれたり腸内環境を整えてくれる効果があるといわれています。
ほしいもは干すことによって、いも類に多く含まれるビタミンB2が少なくなってしまいますが、成
分が凝縮されるので他の調理の仕方より栄養価が高くなります。
2.ほしいもが、文化庁の「100年フード」に選出されました!
茨城の誇るスーパーフードであるほしいもが、2022年4月に文化庁より世代を超えて受け継がれた
食文化として「100年フード」に選出されました。ほしいもは、明治・大正期に生まれた近代部門で
茨城県より唯一選ばれました。
3.食べ頃はいつ?
ほしいもの原料となるさつまいもは、9~10月に収穫し、熟成させる事で甘くなります。茨城県では
9月~10月になると、どこの畑でもさつまいもの収穫が始まります。ですから、旬は秋と思われます
が、実は「さつまいもは掘りたてより、熟成させた方が甘くなる」という事はあまり知られていない
事実です。ですから、「ほしいもは、年明けからが美味い」のです。
4.アレルギー等様々な理由で食生活を制限されている方にお勧め!
小麦粉や乳製品をはじめとしたアレルギーに悩まれる方、また、アレルギーがなくても、添加物や砂
糖(特に白砂糖)を避けた食生活を心がける方にお勧めです。さつまいもを蒸して干したほしいも、
さつまいもを焼いた焼き芋は、製造工程で共に砂糖や添加物が一切使用していません。また、原料と
なるさつまいもの品質のこだわり、栽培期間中、農薬や化学肥料を一切使用しない有機栽培に取り組
んでいます。そんな干し芋や焼き芋は、グルテンフリー・ギルトフリーなスイーツなのです。
5.ほしいもの別名
①乾燥芋:茨城県の高齢者は、ほしいものことを「乾燥芋」とよく呼んでいます。その他に②「甘藷
蒸し切り干し」③「甘藷切り干し」など。甘藷(かんしょ)とは、さつまいもの別名。「甘い芋」を意味
しています。それを蒸して・切って・干すのがほしいも。このことから、こんな別名でも呼ばれています。
6.ほしいもの家庭での作り方(野菜だより 2021年3月号より)
ほしいもに向くのは、1本250~350gのさつまいも。掘りたてではおいしくできないので、必ず追熟させ
たものを使って作るのが最大のポイント。
(1)洗って鍋に入れる
よく洗ってから蒸し器に入れる。火の通りを均一にするため、重ねないように並べる。
(2)じっくりと蒸す
フタをして強火にかけ湯気が立ったら、湯気が立つほどの火加減に弱め、1時間から2時間、じっくりと
蒸す。
(3)竹串で確認する
竹串を刺して蒸し加減をチェック。中心部までスーっと入れば蒸上がり。蒸しすぎにも注意。干し芋づく
りは「蒸す」「切る」「干す」のシンプルな工程ですが、それぞれにコツがあります。さつまいもを加熱
すると、65〜75度で、デンプンが麦芽糖に変わり、さらに甘くおいしくなります。1時間半から2時間かけ
て、じっくりと蒸し上げることで甘さが引き出されるので、強火で一気に蒸すのは避けましょう。さつま
いもの中心部が72度を保つように蒸すのが良いです。
(4)熱いうちに皮をむく
熱いので軍手やフキンで持ちながら割り箸、バターナイフなどでむく。茶色い甘皮も取ると、きれいな色
に仕上がる。熱いうちに手早くむくと、ツルンときれいにむける。
(5)少し冷めてから切る
熱いうちに切ると崩れやすいので、少し冷めてから1㎝ほどの厚さに切る。縦に切るほか、輪切りも食べや
すいので試してみたい。皮をむくのは熱いうちに、切るのは少し冷めてから行うときれいに仕上がります。
(6)崩さないように並べる
乾燥ネットやザルに並べる。やわらかくて崩れやすいので、重ねたまま。ふわっと持って、一枚ずつていね
いに置いていく。
(7)1週間ほど天日で干す
日中、日当たりと風通しの良い場所で一週間ほど干す。夜は室内に取り込むか、夜露が当たらない場所に入
れる。蒸したてのさつまいもは水分が67~68%。干すことで甘味と栄養が凝縮されます。
2日に1度くらい表裏を返しながら 1週間ほど干してください。水分が22%前後になり、保存の利くおいしい干し芋に
なります。干しすぎると食感がかたくなりますので、様子を見ながら、干し上がりは、2つに折っても割れない状態
を目指してください。
自家製だからこそお好みの仕上がりでおいしさを楽しんでください。お好きな干し具合で冷蔵・冷凍保存もできます
ので、毎日、食べながらお好みの状態を見つけるのも楽しいですね。
7.干し芋の糖分とカビの明確な見分け方
サツマイモが乾燥していく工程で表面の糖分が結晶化する場合は、なんの問題は無く、表面に出来る白色の結晶
は、デコボコ等が殆ど無い状態です。一方、「カビ」は「胞子」ですので、表面が小さなドーム状になっていた
り、「綿(ワタ)」のような状態であったり、丸状では無い場合も多いです。また、白いカビの中心部分が緑色
になっている場合も有り、表面を軽く臭うと明らかに「カビ臭い」場合が多いです。
8.茨城県が「ほしいもの日(1月10日)」を制定しました!
1月10日を「ほしいもの日」とした理由は、①1月10日の「一」と「十」の漢字を重ねると、「干」という文字に
なること。②10日の読み「とおか」は、ほしいも生産にとって重要な工程である原料いもの糖化(とうか)につ
ながること。③1月10日からの時期がほしいもの最もおいしい時期になること。「ほしいもの日」には、茨城県産
のおいしいほしいもを食べてみてはいかがでしょうか?
9.こだわりの三ツ星生産者
ほしいもの生産農家や集荷販売業者、農業関係機関から構成される「ひたちなか・東海・那珂ほしいも協議会」で
は、消費者に信頼されるほしいもづくりを目指し、「ほ しいも三ツ星生産者」認証制度を開始。生産履歴の記帳、
衛生加工の実践、適正品質表示の3項目を満たした生産者を審査認定しています。
<ほしいも農家:紅はるかの収穫からほしいもの完成まで>
茨城県で最も生産量が多いのは「紅はるか」、次いで、玉豊、シルクスイートです。
(1)11月初旬のサツマイモ畑。霜が降りる前に収穫していきます。サツマイモのツルを草刈り機で刈るところからスター
ト。草刈り機でツルを刈ると、ツルがスグしんなりして芋が掘りやすくなるから。さらに刈ったツルは、放置してお
くと自然に帰るので土壌にもやさしいのです。
(2)ユンボを使って、サツマイモを掘り起こしていきます。機械化が必要な作業。
(3)収穫:収穫したサツマイモは、土のついたままコンテナへ保管します。土のついたままにする理由は、洗ってしまう
と痛みが早くなるからです。
(4)1ヶ月以上、倉庫の中で寝かせます(12℃~15℃。)寝かせることによって、サツマイモのデンプンが糖に変わり、
ねっとりとした甘いお芋になります。
(5)寝かせが終ると、サツマイモの土を洗い落としていきます。最後は水道水を使って、落としきれなかった土をしっかり
除去。キレイになるまで丁寧に洗っていきます。
(6)洗ったサツマイモを乾かします。ここから、「ほしいもづくり」のスタートです。
(7)蒸す:蒸す時間や温度は農家さんによってそれぞれ。早朝からゆっくりと時間をかけて蒸し上げます。
(8)皮をむく:蒸したての熱々のさつまいもをナイフを使って皮をむいていきます。
(9)スライス:皮をむいたさつまいもをピアノ線を張ったつき台で優しくスライスします。
(10)並べる:スライスしたさつまいもを一枚ずつ丁寧に網棚に並べます。
(11)干す:天日干し。近年では、乾燥機を用いて乾燥する農家さんも。
(12)完成:十分に乾燥したら黄金に光るほしいもの完成です!
ほしいもは栄養価が高く、食物繊維やビタミンCなどが豊富に含まれています。ほしいもを食べて、健康的な食生活を楽しん
でくださいね。
本ブログは今回の投稿が最終稿です。
長い間、お付き合いを頂きありがとうございました。
皆さまのご多幸を祈念いたします。