ショートシナリオの館

ボケに抵抗するため、日常生活の中から思いつくままに書いています。月2回・月曜日の投稿を目指します。

南信州の花仙人

2015-06-29 08:18:42 | 日記





中央自動車道の伊那ICを下りて、伊那スキーリゾートに向かい、ゲレンデが正面に見
えた所で左側へ折れ、少し登る。そこが今日の目的地、個人運営の「ヒノキオ山野草
自然園」だ。約900mの山中にある斜面を整備したものだ。広さは400坪程度で、ヒト
の肩幅ほどの遊歩道が巡らされており、軽い散歩気分で巡ることができる。
園主は「飯島さん、85歳」。1986年頃から所有する山林を整備し、種まきや株分けを
地道に続けて現在に至っている。今では木立に囲まれた斜面に清らかな水が湧き出
て、春先から秋にかけて180種ほどの山野草が次々と花開くという。
ここは知る人ぞ知る山野草愛好家のオアシスだ。
8年ぶりにこの「ヒノキオ」を訪れた老夫婦。今回は朝早く、開園を待っての訪問だった
ので、園主のお話をゆっくりと伺うことができた。

夫 : おはようございます。開園前から待機して待っていました。入園してもいいですか?

園主: もちろん、どうぞ。今、鍵を外します。

妻 : 入口にある古い木の根っこに寄せ植えされている植物を拝見しながら、開園を待
    っていましたよ。もう咲き終わって実になっている植物もありますが、いかにも自
    然な感じで素敵ですね。

園主: ああ、あれはセリバオウレンじゃ。ここに並べてある木の根っこは全部、私が自分
    で山から切り出したものだ。木の根なら何でもいいのではなく、何をそこに植える
    かを考えながら探すんだよ。
    気に入ったかい?嬉しいね。さあ、どうぞお入りなさい。県内の自生種を中心に
    育てていて、園芸種は一切ないのがここの特徴じゃ。

夫 : お一人で整備されたと聞いていますが、大変だったでしょうね。

園主: 入口の小川に架かる橋、あの小屋、そして園内の整備など全て一人でやった。

妻 : エッ!あの小屋もご自分で建てられたのですか?

園主: 実は会社勤めをしていた時からコツコツと始めていたんだ。あの小屋は大工経
    験もないのに、誰の手も借りずに建てたものだよ。皆にビックリされている。

妻 : そりゃあ、誰でも驚きますよ。すごいな。

夫 : 木の伐採、土づくり、水路の確保など、さぞ大変だったことでしょう。独力だなん
     て、にわかには信じられない出来栄えですよ。前回歩いた時、とても暖かい手
     作りのぬくもりを感じる山野草園だなと感じたのですが、いまではもう自然その
     ものですね。

園主: せっかくだから小屋の周りの花たちについて少しだけ解説しよう。本来なら、私
     のガイド料は高いんだぞ。ハッハッハ。

時折、冗談を交えながら、山荘の周辺に咲く山野草の一つひとつについて、名前と名前
    の由来、色や形の特徴を丁寧に解説してくださった。

夫 : 時間はたっぷりあるので、これから、園内の上の方を二人でゆっくり歩いてきます。

園主: ああ、それがいい。良い写真を撮るには、姿の良い花を見つけることが大事だよ。
    そうだ、花は終わりかけているがオサバグサがたくさんあるから、見落とさないで。
    これほど群生している場所は、ほとんどないんだからね。貴重だよ。

妻 : ハ~イ。わかりました。ネエ、ここから見ると「クリンソウ」の群落が一番目立つわ
    ね。前回は5月中旬で、シラネアオイやクロユリに出会えたけど、今は5月末なの
    で、また違う花が見られそうよ。ほら、シライトソウやサルメンエビネがあるわ。

二人はゆっくりと斜面につくられた歩道を登り、本格的な園内巡りを始めました。

夫 : 水芭蕉の葉っぱがこんなに大きくなっているよ。

妻 : 色とりどりのクリンソウも間近で見ると本当にきれいね。あら、私の大好きなチョ
    ウチョが飛んできたわ。ほらほら、アサギマダラよ。ここで出会えるとは思わなか
    った。嬉しいな。アラ、もう林の中に行っちゃった。残念。

夫 : クロアゲハやイトトンボなども飛んでいるね。でも、前回と比べると咲いている花
    の種類が少ないように感じたけど、来た時期が違うから仕方ないか。

妻 : この「ベニバナヤマシャクヤク」は蕾が開きかけているわ。もう直ぐ開花しそうね。

夫 : 入口に日本原産の「カザグルマ」が咲いていたから、帰りにもう一度見ておこうよ。

妻 : ついついシャッターを押しすぎちゃうな~。あとで整理が大変。

山野草に埋め尽くされた園内を周遊して、坂を下ったところで再び、園主と合流。

夫 : 堪能してきましたよ。ところで、遊歩道のポイントの所に大岩がありますが、もと
    もとあの場所にあったのですか?

園主 : 俺が一人で山の上から下ろしてきて据えたんだよ。特にあの大岩はワイヤー
    で支えながらで、かなり苦労したな。

夫 : こんなに苦労して整備した場所を、どうして無料で開放しているのですか?

園主: これと同じ山の斜面を利用した有料の植物園に行ったことがあるんだが、その
    時、お客さんの声が耳に入ってきたんだ。
    「こんなに急な坂道で転んだらどうするのよ。有料なんだから当然保険に入って
    いるはずよね。」とか「有料の施設なのに園内にトイレを作らないなんて信じられ
    ないわ。」ってね。それを聞いて、ここは無料にすることに決めたよ。
    ご覧になる際は自己責任でどうぞ、ってことだよ。

妻 : 今日は十分に山野草を満喫させていただきました。ありがとうございました。

園主: 何を言っているんだ。この場所の良さを本当に満喫するには年に4回は来ない
    とダメだよ。また、近いうちに、いらっしゃい。

妻 : あそこに木製の人形があるけど、ピノキオではないのですか?

園主: よく聞かれるよ。檜の男で「ヒノキオ」さ。ピノキオじゃないぞ。あれも俺が作った。

夫 : これだけの施設を一人で作ったのだから、飯島さんは相当な頑張り屋さんですね。

園主: ワシの兄弟はみんな優秀だが、ワシだけが成績が悪く「物好き、変人、頑固者」
    と言われ続けているよ。ハッハッハ。じゃあな。

とんでもない。帰宅して調べたら、経歴も素晴らしく、信州伊那野草会の会長を22年に
渡って努めたお方でした。
今後、私たちは飯島さんのことを「南信州の花仙人」と呼ぶことにしました。
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狐の嫁入り

2015-06-22 08:13:40 | 日記





妻の生まれ故郷のK市が市制75周年を迎えることを記念して映画を作った!という情報
に驚いていたら、今度はそれを東京で、1日だけ上映するという知らせが届いた。

妻: 午後の部と夕方の部の2回、上映するんだって。観に行ってもいいかな~?

夫: もちろん。遠慮しないで、行っておいでよ。どんな映画なんだろうね。

妻: 情報によると、中年の恋を描いたものらしいけど、全て市内で撮影したらしいわ。

夫: それは楽しみだね。僕はその日、用事があるから友達と行ってくるといいよ。

上映日に、いそいそと出かけた妻は帰宅後、映画のあらすじや感想はそっちのけで、
久々に故郷の風景を観て、思わず知らず、涙がこぼれてしまったことを熱く語りました。
まさに「望郷の念は止まず」の状況だったのでしょう。
そのうちようやく映画の話になりました。

夫: 4年間、帰省していないから、ずいぶん懐かしかっただろうね。

妻: それはもう懐かしいの、なんのって。ところでね、同じ市内でも、私の実家からは少
    し離れた地域で「稲穂祭」っていうのがあるの。そのお祭りで「狐の嫁入り」行列
    が執り行われるんだけど、その行事が映画の重要なモチーフとして使われていた
    のよ。

夫: 「狐の嫁入り」行列って、ひと昔ほど前に岐阜県・飛騨古川の「きつね火まつり」で
    見たよね。あれは素晴らしいお祭りで、いつの間にか狐の街へ迷い込んでしまった
    気分になったことを覚えているよ。お祭りを盛り上げようとする住民たちの熱意が
    伝わってきたし、最後には振る舞い酒を呑ませて頂いて、本当に楽しかったよ。

妻: そうそう、あれとほぼ同じなんだけど、飛騨古川では花婿花嫁は顔に狐のお化粧をし
   ていたでしょ。私の故郷での花婿花嫁は狐のお面をかぶっているのよ。
   しかも、誰がその役を務めているかは絶対に秘密にすることになっているんだって。
   で、花嫁花婿役、特に花嫁役を務めた女性は良縁に恵まれると言われているそう
   よ。

夫: フ~ン、良縁ね~。

妻: 何をもって良縁というのかは、ややこしくなるので置いといて、飛騨古川の時も実感し
    たように、「狐の嫁入り」行列を見ている人も幸せな気分になるから、それで十分
    ね。

夫: 機会があれば、君の故郷の「狐の嫁入り」も見たいな。ちゃんとそのシーンは映画に
    出て来たんだろうね。

妻: 当然、出て来たわよ。大事なキーポイントなんだから。

夫: 僕も観たかったな、その映画。それで、中年の恋とやらの行方はどうなるんだい?

妻: それはね・・・ホラ、ちゃんとDVDを買ってきたから、これを観てのお楽しみ。

妻は私用と知人たち用とで、合計4枚ものDVDを購入していました。みんなに見て欲しい
のでしょうね。故郷を離れて40年以上が経っても、「ふるさと愛」は衰えるどころか、ます
ます強くなっているようです。東京生まれで東京育ちの僕にとっては羨ましい限りでした。
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御開帳 間に合った!

2015-06-15 08:19:49 | 日記





7年に一度、善光寺で行われる「前立本尊御開帳」の賑わいは各メディアで取り上げら
れました。お互いにお参りしたい気持ちを口には出せず、テレビニュースを見ながら手
を合わせていた茨城県に住む老夫婦のもとに、ある日、宅急便が届いたのです。

妻: 姪のMちゃんからよ。きっと、長野・善光寺の御開帳に参詣したお土産ね。
   アラ、白い牛のお守りだわ。嬉しいじゃないの。旅行に出かける前に電話で、
   「いいわね~。羨ましい!」って言ったから、気を利かせてくれたのよ。
   本当にあの娘はいい子だわ。

夫: 御開帳もあと3日で終わっちゃうんだよね。僕たちの年齢を考えると7年後なんて
   どうなっているか判らないから、行けるものなら行っておきたいものだな。

妻: 思い切って、飯田市の元善光寺にお参りするっていうのはどうかしら?

夫: 元善光寺って何?善光寺は長野市のあの善光寺だけじゃないのかい?

妻: 違うわよ。善光寺は全国に二百ヶ所以上もあるらしいわ。この内、今回御開帳さ
   れるのが6ヶ所。長野市の善光寺、長野県飯田市の元善光寺、山梨県甲府市の
   甲斐善光寺、愛知県稲沢市の祖父江善光寺東海別院、岐阜県関市の関善光寺、
   岐阜県岐阜市の岐阜善光寺さんなの。

夫: 正直なところ、全国にそんなに善光寺があるなんて知らなかったよ。だったら、甲
   斐善光寺のほうが近いんじゃないの。元善光寺に行こうという理由は何?

妻: 長野・善光寺のご本尊が一番最初に安置されていたのが元善光寺だからよ。長
   野市の善光寺と飯田市の元善光寺の両方をお参りしなければ片参りだと、昔か
   ら言われているそうなの。
   だから、私たちが今回、元善光寺に行き、Mちゃんに元善光寺のお守りを送って
   あげたら、彼女は二つの善光寺にご縁ができるわ。それに、私の両親が生前、
   「善光寺さんに一度はお参りしたい」と言っていたことをMちゃんに話したら、彼女
   にとっては祖父母にあたる二人の写真を長野の善光寺に持参してくれたそうよ。
   だから、私も両親の写真を携えて元善光寺に行きたいわ。

夫: 泣けるね。その手の話には弱いんだ。行くなら今しかないね。よし行くぞ!

翌日の早朝に自宅を出発した二人は中央自動車道を車で走り、飯田ICを下りて元善
光寺にやって来ました。

夫: 御開帳は明日までだ。滑り込みセーフで間に合ったね。これも決断を後押ししてく
   れたMちゃんのお蔭だ。

妻: 元善光寺に来たのは初めてね。ここから、もう回向柱(えこうばしら)が見えている
   わ。回りにたくさんの人がいる。

夫: 先ずは本堂に行こう。回向柱に触るのはその後だ。そのうち空いてくるよ。

二人は本堂で前立御本尊を拝んだあと、人の流れに沿って進むと、そこには新宝物殿
と平和殿がありました。平和殿では西国三十三ヶ所観音霊場めぐりができるというので、
33枚のお賽銭を手に握り、一番札所である和歌山県那智の青岸渡寺から巡礼を始め
ました。

夫: 札所のお砂踏みをしながら巡礼できるんだね。

妻: 三十三番目の札所は私たちがよく知っている岐阜県の谷汲山華厳寺で、満願寺と
   も言われていることは承知しているわよね。

夫: もちろんだよ。10回近く、お参りしたからね。満願の湯という日帰り温泉もあるよ。

妻: あなたは本当に温泉好きね。華厳寺は三十三ヶ所巡礼の結願寺ではあるけど、昔
   から三十三ヶ所観音巡礼を終えたことを、この元善光寺に報告に来る風習がある
   のよ。だから、ここで三十三ヶ所巡りをした私たちは改めて満願の報告をしに、もう
   一度本堂に行くべきね。

夫: じゃあ、そうしよう。その次は戒壇めぐりだよね。

本堂右手前で「おびんずるさま」を撫でたあと、戒壇めぐりの入口を降りていきました。

夫: 真っ暗闇の中、手すりだけを頼りに前進する「戒壇めぐり」はスリリングだったね。
   しっかりと「極楽往生 開運の鍵」を握ったときは嬉しいと同時に、なぜかホッとし
   たよ。

妻: 両親の写真をしっかりと持って鍵を触ったわ。さてと、回向柱の人混みは減ったか
   な?

二人は御開帳期間のみに立てられる回向柱のそばにやってきました。「前立本尊」の
右手に結えられた金色の紐が途中から五色の「善の綱」となり、回向柱に結ばれてい
ます。この柱に触ることによって善光寺如来と直接ご縁が結ばれるということで、老若
男女が心を込めて撫でさすっています。

夫: だいぶ人が少なくなって、今は回向柱をじっくりと触ることができるね。ありがたい。

妻: (写真を取り出し)お父さん、お母さん、一緒に回向柱に触れましょうね。

夫: 間に合ってよかったね。Mちゃんのお蔭だ。お父さん、お母さんの写真を胸に写真
   を撮るぞ。構えて!ハイ、パチリ。帰り道では両親の思い出話でもしながら帰ろうな。

妻: 機会を見つけて、今回行けなかった長野市の善光寺さんにもお参りしましょうよ。

夫: そうだね。でも、どうして善光寺は無宗派なのに、こんなに人気があるんだい?

妻: 宗派が生まれる前からあったから、無宗派なんだという話を聞いたことがあるわ。
   それだけ古くから信仰の対象になっていたということかしら?人気の理由はわか
   らないわ。それにしても御開帳が7年に一度なのは、なぜだと思う?

夫: わかんないよ。諏訪大社の御柱祭も確か7年に一度だったよな。あちらは神様で、
   こちらは仏様だし、なぜだろう?

妻: 実は7年目に一度というのが正しくて、善光寺は丑年と未年に御開帳されるの。
   偶然にも私とあなたの干支の年ね。ありがたいことよ。諏訪大社の方は寅年と
   申年よ。

夫: ホ~、そうなのか。相変わらず、知らないことだらけだということがよくわかったよ。

なにはともあれ、御開帳期間終了間際にギリギリでお参りできた老夫婦は願いが叶っ
て大満足。当然のことながら、地元の人に聞き込みをして、安くて泉質の良い立ち寄り
温泉を探し出し、のんびりとお湯に浸かったことを報告しておきます。
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富士山、もう一つの顔

2015-06-08 08:22:28 | 日記




 箱根大涌谷や口永良部島の噴火など火山が活動期に入った感のある日本列島。
所要で出かけた岐阜方面から車で帰宅途中の老夫婦は富士川SAの展望室で富士
山を眺めつつ、コーヒータイムを過ごしています。

夫: 火山の噴火が続いているけど、あの富士山は大丈夫なのかな~?ここから見る
   富士山はとても優雅だね。愛鷹山塊とつながって見えて、おおらかさを感じるよ。

妻: 雄大すぎて写真を撮るのに、どう切り取ったらいいのか悩んじゃうわ。

夫: 富士五湖巡りで見た富士山も良かったけど、太平洋側から富士山をじっくりと見た
   ことはないね。新幹線に乗った時に眺めた程度だ。今日は天気も良いし、時間に
   もゆとりがあるから、南側からの富士山を堪能してみようよ。

二人は富士ICで東名高速道路を下り、一般道を進みました。最初に立ち寄ったのは
愛鷹山登山道のある十里木高原です。

夫: 期待通りの眺望だね。この広場から見ると富士山が迫ってくるようだ。

妻: もっと近づいて、宝永噴火の跡がよく見える場所を見つけたいわ。

数枚の記念写真を撮ったあと、車を更に先へ進めた老夫婦は南富士エバーグリーン
ライン経由で富士山スカイラインに入り、水ヶ塚公園の広い駐車場に車を止めました。

夫: ウワ~ッ!すごいぞ。噴火でえぐれた様子がこんなにはっきりと見えるんだね。
   ちょっと怖いくらいだ。富士川SAで見た富士山とはまた違う、もう一つの顔をして
   いるよ。

妻: ネェ、私たちは富士山の2合目付近にいるのよね。今、噴火したらどうする?

夫: オイオイ、脅かすなよ。だけど、宝永の噴火から300年以上も経っているというの
   に、その名残りが妙に生々しくて、自然のエネルギーの強烈さがひしひしと伝わ
   ってくるな。

妻: それはそうと、この駐車場はとても広いわ。なぜ、こんなに広いのかしら?

夫: 観光の季節になるとマイカー規制があって、ここから5合目までのシャトルバスが
   出るんじゃなかったかな?

妻 :アッ、そうか!5合目まではバスで行けるんだったね。あそこの標識に腰切塚展
   望台まで5分って書いてあるわよ。こういう表示はこれまでの経験に照らし合わ
   せると約3倍はかかるはずだから、15分くらいだと思うけど、折角だから登ってみ
   ましょうよ。

夫: ここより更なる迫力の眺望が期待できるかもね。じゃあ、行ってみよう。

二人は腰切塚展望台への山道を登り始めました。

夫: コンクリートの駐車場にいた時には気付かなかったけど、山道に入ると溶岩の上を
   歩いていることを実感できるね。こんな場所でも時が経てば立派な樹木が育つ環境
   になるんだから、自然の回復力ってスゴイな。

妻: アッ、マイズルソウが咲いている。ツクバネソウもある。これはクワガタソウに似てい
   るけど、背丈が低いわね。違うのかな?家に帰って調べることにするわ。
   接写するのに時間がかかるから、あなた、先に行ってちょうだい。

腰切塚展望台で、二人はまたまた感動。

夫: ワァ~オ!いいぞ。登ってきて良かったね。説明板によると、ここは1496mだ。  

妻: 富士山の頂上に手が届きそう!って言ったらオーバーだけど、こんなに間近で頂上
   を見るのは初めてだわ。

夫: 僕は一度だけとはいえ、頂上まで登って、ご来光を拝んだことがあるよ。

妻: そういえば、弾丸ツアーで行ったのよね。私は体力に自信が無くて行かなかったけ
   ど。それにしても、ここは絶好のフォトスポットだわ。シャッターを押しすぎて、カメラ
   が壊れないかと心配になってきた。

夫: 今は雲がなくて視界良好だ。こんなに恵まれた写真撮影環境は滅多に無いから、
   心ゆくまで写してくれ。宝永噴火は1707年(宝永4年)で2週間ほど噴火が続いた
   そうだ。江戸の町も火山灰で大きな被害を受けたらしい。噴火口にできた山を宝
   永山と言うんだ。ここに書いてあるのを読んでいるだけだけどね。

妻: あれだけえぐられているんだから、火山灰の量は想像を絶するものだったでしょう
   ね。

夫: オヤ?あそこにお鉢巡りって書いてある。10分で回れるらしいから行ってみようよ。
   実は富士山のご来光を見るために頂上まで行ったけど、山頂のお鉢巡りは体力に
   自信がなくて断念したんだ。ここでお鉢めぐりの真似事をしたいな。

妻: ひと巡りすれば、新しい発見があるかもしれないわね。

こうして、二人は擬似お鉢めぐりのあと、再び展望台に戻ってきました。

夫: なにもない山道だったね。すぐ近くでウグイスが鳴いていたけど・・・
   アッ、左側から雲が湧いて来たよ。

妻: オ~、ヴェールをまとい始めたわね。シャッターチャンス到来。

宝永噴火の痕を残す景観を目の前にして、活動期の富士山の荒々しい面を実感した
二人は、その場から立ち去り難い気持ちが強く、しばらくの間、富士山の頂き近くにま
とわりつくように流れる雲を眺めていました。
しかし、自宅に着く時間が気になり始めたので、やむなく御殿場インターに向かって車
をスタートさせたのでした。
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ツクバノ山の「ガマ仙人」

2015-06-03 08:16:52 | 日記




動物村の仲良し3人組が長老の家に集まりました。エン坊の妹キキの怪我を直すのに
協力してくれたガマ仙人から、ツクバノ山の話を聞けるとあって、興味津々の様子です。

長老 : キキは傷口の血が止まって安心したのか、泣きやんでグッスリと寝ているな。

ガマ仙人: もう安心だぞ。そういえば、前回ここに呼ばれて来た時は、うさぎの赤ん坊
       が怪我をした時じゃったが、あの子は今、どうしているのかな?

長老 : 目の前にいるミミがその時の赤ん坊じゃよ。

ミミ : えっ、私なの?そんなことがあったの?私もガマ仙人の油で治ったの?覚えて
     いないけど、お礼を言わなくっちゃ。その節はどうもありがとうございました。

ガマ仙人: そうか、君があの時の子か。大きくなったのう。

しばらくは、当時の話で盛り上がりました。その後、話が一段落した頃合を見てポン吉
がシビレを切らして問いかけました。

ポン吉: ねえ、ツクバノ山ってどんなところなの?そこでガマ仙人は何をしているの?

コン太: 僕も知りたい。

ミミ : 私も知りたい。

ガマ仙人: おお、そうじゃった!それを聴くために、ここへ集まったのじゃったな。
       では、ワシの住むツクバノ山の話をしよう。あそこはワシたちガマガエルが
       ガマ仙人になるための修行をする山じゃ。そこでは今も仲間が修行をして
       おり、ワシは指導役じゃ。校長先生といったところかのう。
       ツクバノ山は岩場や滝など、心と体を鍛える修行に必要な環境が整ってお
       る。修行を終えると後ろ足の指が1本増えて6本になるんじゃ。前足の指が
       4本、後ろ足が6本で、四六のガマと呼ばれておる。
       このことは、すでに3人組には話したな。

ミミ : なぜ、ガマ仙人になることを目指して修行するの?

ガマ仙人: 理由はわからんが、先祖から受け継いだことじゃで、自然に修行したくなる
        んじゃよ。仙人になったガマガエルたちは人間を含めて、多くの生き物た
        ちの役に立っておるぞ。今回の怪我の治療もそのひとつじゃ。

ポン吉: 人間も含めてって、人間の怪我も治してあげるの?

コン太: 僕たちは人間のいるところには行ってはいけないんだよ。

ガマ仙人: ワシらは特別で人間たちと一緒に暮らせるんじゃ。なぜかというと、あそこで
       はワシらは人気者なのじゃよ。ツクバノ山には口を大きく開けたガマの姿を
       した巨石があり、人間たちは「ガマ石」と呼んでおる。その石は人間の通る
       道沿いにあるから、人間たちはその前を通る時、立ち止まって足元にある小
       石を拾い、「ガマ石」の口の中に投げ入れるのじゃ。
       運良く1回で口の中に収まると願いが叶うと信じておるんだな。たまに、入る
       まで何回も挑戦しておる人間もおるぞ。「ガマ石」は人間にとっては幸せを願
       う場所、ワシらにとっては大切な修行場なのだ。人間たちはこのガマ石と同じ
       姿をしているワシらに親しみを覚えるんじゃろうな。

ミミ : なるほどね。でも「ガマ石」がガマガエルさんの姿に似ているだけで、人間が攻撃
     したり、捕まえたりしない理由になるのかな~。

ガマ仙人: 鋭い指摘じゃ。先程話に出たが、ワシの背中から出たガマの油は人間が怪我
       をした時の血止めにも効くのじゃ。人間はワシらの背中からガマの油を集めて
       塗り薬を作り、持ち歩ける血止め薬として使っておるのじゃ。だから、人間はワ
       シらを大切にしてくれるんじゃよ。
       これで一緒に暮らせている理由がわかったかな。

長老 : ツクバノ山は特別な場所なのだよ。この動物村でも人間と一緒に住めると思うの
     は間違いだぞ。ツクバノ山でも、ガマ以外の動物たちは人間とは鉢合わせしない
     ように暮らしているはずだ。ガマ仙人たちだけが特別なのだ。私が人間たちの生
     活に詳しいのは、ガマ仙人やフクロウ博士から人間の話を聞いて学んでおるから
     なんだよ。

ポン吉 : 僕たちもガマの油を薬にして持ち運べたらいいのにな~。

ガマ仙人: ワシらが出す油をどうやって薬にするのかはワシにもわからない。
       人間たちは賢いからの~。

コン太: それにしても、ガマ仙人さんは人間と一緒に暮らせるんだね。すごいナ~。

ガマ仙人: それではもうひとつ、話をしよう。人間は面白いことを考えつくもんじゃ。
       ガマの油が血止めに効くことを、自分たちの仲間に知らせるために変な
       服装をして、独特の口上とやらを披露しながら、わざと自分の腕に傷を
       つけて血を流すんじゃ。そして、その傷口にガマの油を塗って実際に血
       が止まることを見せている。人間は実際に血が止まることを、目の前で
       見ないと信用しないのかもしれんな。ワシにも、そのへんの人間の行動
       はよくわからん。

ミミ : 口上って何?

ガマ仙人:口上とは仲間の気を自分に引きつけるための話し方じゃ。面白いからワシ
       が覚えている範囲で実際にやって見せてやろう。
       準備をするから待っていなさい。

物陰に隠れたガマ仙人と長老はゴソゴソと準備を始めました。3人組は何が始まるの
かとワクワクしながら待ちました。やがて変な帽子をかぶり、長い棒を持って出てきた
ガマ仙人は準備した小道具の名前や使い方を説明した後で、独特の口上を始めまし
た。

“サ~テお立会い。手前 ここに取り出したる刀は、名工・正宗が暇にあかして鍛えた
という代物である。実によく切れる。エイッ 抜けば玉散る氷の刃。それでは、腕を切
ってご覧に入れる。エイッ・・・、出た!血だ!しかし、心配はいらない。
傷口にこの「ガマの油」をひと塗りすれば、またたく間にピタリと血は止まる。”

ガマ仙人の熱演は延々と続きました。この日は夜遅くまで長老の家は賑やかでした。
仲良し3人組にまた新しい友達ができましたね。

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