ショートシナリオの館

ボケに抵抗するため、日常生活の中から思いつくままに書いています。月2回・月曜日の投稿を目指します。

長良川の河岸で「ありえへん光景」を見た

2017-09-18 07:25:34 | 日記


老夫婦は岐阜県で「白鳥拝殿踊り」「郡上徹夜踊り」に参加、そして「通称:モネの池」で魅了されて今回の旅を
終えました。本日は帰宅の日。最終日は岐阜城のある金華山の麓、岐阜公園の散策と決めていました。
現在、「信長公の鼓動が聞こえる歴史公園」として再整備が進められています。

夫: 「板垣死すとも自由は死せず」の名文句を残した板垣退助の像が、なぜこの信長の公園にあるのかなと
   思ったら、この場所で暴漢に襲われた時に生まれた言葉だったんだね。

妻: 信長公居館の発掘調査はまだまだ続きそうで、再整備が完了するのはまだ先ね。

公園めぐりを終えた二人は、何気なく長良川を見たいと川を見下ろす土手の道に出ました。そこで目に入った
光景は長良川の増水による濁流でした。

夫: 長良橋を見てごらん。増水で橋げたまで数mの水位の位置まで上がっている。昨夜の岐阜市内は雨が降っ
   ていなかったから、川上の白鳥や郡上方面では昨夜はかなりの量が降ったんだよ。それがこの増水だろ
   うね。

妻: 昨夜は白鳥で「白鳥拝殿踊り」で踊っていたけど、急な雷と大粒な雨で早めに切り上げて帰ったのは正
   解だったわね。あのままあそこにいたらずぶぬれになっていたわ。

二人が橋げたの水位から手前の岸辺に目線を転じると、停留中の観光鵜飼い舟の陰から小船が出てきました。
小舟の前方と後方に若衆がいます。やがて後方の若衆が器用に小船を横向きに方向転換させると、前方にいた
若衆が船縁にかがみこみ、身を乗り出して川面をぺちゃぺちゃと、棒と板のようなもので叩き始める様子が目
に入りました。

夫: あの人は何をしているのかな?

妻: しばらく様子を見ましょうよ。

夫: わかったぞ。鮎を脅して追い込んでいるんだ。

妻: 「本日は鵜飼い中止」の看板が出ていたわね。こんなお休みの時は鵜に代わって、自分たち人間が鮎を
    獲れるチャンスというわけね。この鵜飼い船待機場は引き込み用に作られている湾だから流れは無い
    けど、本流とつながっているからすごく濁っているわ。こんな濁り水の状態で水面をたたいても効果
    あるのかな?

夫: 見てごらん。あらかじめ網が仕掛けられてあったんだな。目印のペットボトルを掴んで持ち上げたぞ。
   水の中の網が上がってきた。わっ、いる。鮎が網にからめ獲られている。獲れてるね。

妻: そうか。ここは鮎にとっても本流の激流から逃れられる避難場所になっているのね。だからこの狭い待
   機場の湾には鮎がいっぱいいるんだわ。

夫: 水中に仕掛けられていた網はあの一ヵ所だけだったようだね。次は何をするのかな?

妻: わかった。大きな網だわ。折り畳み式で先端が横広な逆三角形の網を組み上げている。魚がいっぱい入
   りそうね。

夫: 堤防岸に網を入れた。すくい上げた。すごい。鮎が入っている。大漁じゃないか。これには驚いた。
   又、場所を移動して網ですくっている。おう、今度の網のなかにもいっぱい獲れている。すごい効率で
   鮎を捕獲しているね。鮎を網ですくい獲る光景なんて見るのは初めてだよ。本流が増水しているときは、
   どこに鮎が避難しているのかを熟知しているということだ。

妻: 私たち昨日、板取川の網元「おもだか」で奮発して、天然鮎のフルコースを頂いたけど、鮎一匹がいい
   値段したわよね。天然鮎だからこれでも安いんじゃないかなと話していたけど、こんなにいっぱい目の
   前で簡単に捕れている様子を見ていると、あの値段にはなんか複雑な感じが残るわね。

夫: そうだよ、長良川や板取川の両側に一列に並んだ釣り師たちが友釣りで一匹、一匹、鮎との知恵比べに
   勝ちながら、丁寧に釣り上げるから値段が高いのだと思っていたから、網で大量の天然鮎をすくってい
   るこの漁法は、私に言わせてもらうと、全く「ありえへん光景」だな。

妻: でも考えてみたら、今日のように鵜飼いができないほどの濁流が押し寄せた時だけにできる獲り方よね。
   だから年に何回あるか知らないけれど、旅行者の私たちにすれば、貴重な光景に立ち会っていると思っ
   た方がいいわね。

夫: 多分あそこで漁をしている人は鵜飼い船の関係者だと思うから、獲った鮎は料亭に行くんじゃなくて、
   鵜の餌になるんだと思うよ。そう思えば、我々が食べた「おもだか」の天然鮎は決して高くいもので
   はなかったんだよ。

妻: 確かにそうね。納得だわ。

夫: おっ、又、網の中に鮎がいっぱい入っていたぞ。このまま漁を続けたら軽く100匹を越えるんじゃない
   かい。それにしてもよく獲れるな。それだけ長良川の魚影は濃いんだということだね。

鮎が網で簡単にすくい獲れているさまを見てかなり驚きました。鮎がこんなに簡単に獲れるなんて「ありえ
へん光景」だったのです。
二人は特別な川の環境の時だけに見られる、貴重な光景に偶然巡り合えたことで新しい知見を得たようです。
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魅了された「通称:モネの池」

2017-09-11 07:24:39 | 日記



岐阜県関市板取にある根道神社境内の池は、フランスの印象画家の巨匠、クロード・モネ
晩年の代表作「睡蓮」の連作に描かれている池と似ていると、3年ほど前からネットで評
判になり、今では観光バスが訪れるほどの名所になっています。こうした話題に敏感な老
夫婦が満を持してやってきました。天気に恵まれたので気合十分です。

妻: やっとここに来られて嬉しいな。ここが「名もなき池、通称:モネの池」として話題
   になっている池ね。見れば一目で納得だわ。きれいさが独特だし、ここで作品が書
   かれたのかなと思わせるぐらいに雰囲気が似ている。
   今日は混むだろうと朝早く来たのに、もう人が並んでいるわ。いいポジションには
   三脚が立ち並んで動かないわね。さあ、挑戦。モネの絵のようなのが撮れるといいな。

夫: 睡蓮やコウホネが浮かぶ池の中を悠々と泳ぎまわる錦鯉。エメラルドグリーンの水は
   非常に綺麗で、優雅に泳ぐ錦鯉がよく映える。写真だと水が写らないから、まるで
   魚が空を飛んでいるかのようだな。確かにモネの「睡蓮」の連作に描かれた池の雰
   囲気を醸し出している。水の透明度が非常に高いのは湧き水が硬水のため、微生物
   が育ちにくいからだと書かれていたけど、そんな環境が偶然に重なってできた、こ
   こでしか実現できないミラクルなのだろうな。
   この神秘的な雰囲気は眺めているだけで心が落ち着く。モネの池に来て良かった。
   ここは生で見たい幻想スポットだよ。

妻: 関市の広報には山からの湧き水が常に池の底を流動しているため、青く透きとおって
   いるのではないかと書かれていたわ。

夫: その理由の方が納得だ。見てごらん。この池の底は白い細かい石がひき詰められてい
   て平たんだね。池の底は天然の白い小石でできているんだよ。普通なら泥が溜まる
   けど、この白い石畳みのような底は、常に新しい水の流れで掃除されているんだ。
   普通の池は表面は入れ替わるけど、底は溜水の場合が多い。でもここは新鮮な湧き
   水で池の底が掃除されているから、高い透明度が維持されているんだろうな。

妻: 湧き水の温度は年間を通して14℃と水温が低いために夏に咲くコウホネが枯れにく
   く、黄色からオレンジ、さらに赤色へと美しい色の変化が楽しめるそうよ。この点
   もここの魅力ね。それに透明度の高い池だから日の当たり方によって、水のブルー
   も濃淡がさまざまに変わり、いつ行っても趣の違う美しさに出会えるのよね。
   この池を見るためだけに、遠くから多くの人々が訪れるというのがうなずけるわ。

夫: その言葉で思い出したけど、印象派の画家とは絵の中に光をどう描写するかを追求
   した人たちで、特にクロード・モネは光の画家という別称があり、時間や季節とと
   もに移り行く光と色彩の変化を生涯にわたり追求した画家なのだ。そのために自宅
   兼アトリエに日本庭園の池を作り睡蓮を植えて「睡蓮」を200点ぐらい連作している。

妻: それでなのかな、いい場所で三脚を立てて長い時間陣取っている人たちは、モネの
   ような作品を撮りたいと、移り行く光と色彩の変化をあそこで追い求めているのね。

夫: 皮肉かい。まぁ、他の人たちのためにも三脚立ちの長居はしてほしくないね。この池
   の見頃は午前10時ごろから11時半ごろまでの午前中のようだから、彼らはそこまで
   頑張るかもしれないね。

二人は「ハートの鯉」「V字の鯉」「ゴールドの鯉」「プラチナの鯉」など、ネットで紹介
されていた錦鯉たちを見つけては、その錦鯉たちの動きとコウホネ・睡蓮の花との対比など、
慎重に構図を探りながら、傑作写真をものにしようとシャッターを切り続けました。

夫: ところで、この池にはモネの絵画に描かれているものとは違うものがあったけど分か
   るかい。

妻: モネの絵の橋は太鼓橋だけど、この池の橋は平たん。それと、モネの絵には錦鯉が描
   かれていないから、池には錦鯉がいなかったと思われる点ね。
   車の中で話したじゃない。

夫: そうだったか。橋の形状が少し違う、いるはずのない錦鯉が泳いでいるくらいじゃ、
   このモネの池の価値は損なわれないんだね。むしろ、超透明度の池の中で錦鯉が空を
   飛んでいるように泳いでいることで、睡蓮だけの池より日本人好みにブラッシュアッ
   プされた「モネの池」になっているから人気が出たのかもしれないな。

妻: この池は昔からあったものだけど、地元でもあまり知られていなかったらしいわ。
   そこへ池の隣接地に花苗の「フラワーパーク板取」を開業した小林さんが地域の人
   と池の周りの雑草を刈り取り、池の底も綺麗にして睡蓮やコウホネを植えたのが始
   まりで、鯉は地元の方や錦鯉振興会から提供されたようね。
   だから根道神社の池を綺麗にしたいとの思いで整備したものなんだけど、多くの偶
   然が積み重なってできたこの景観が「夢を見ているような錯覚にとらわれる神秘的
   な池」として、ネットで取り上げられたという経緯なんだって。

夫: なるほどね。ところで睡蓮が美しいのは6月中旬から1ヵ月ぐらいだな。ちょうどそ
   のころは、ここまで来るのに通ってきた日本の道100選に選ばれた紫陽花ロード、
   そしてこの根道神社にある紫陽花園がきれいだろうから、その時期に再度来たいね。

妻: この辺りは蛍も飛ぶから、一番いい時期かもしれないわね。でも注意点が一つ、雨が
   降ると、池の水が濁ってしまい透明度がダウンしちゃうの。透き通るまでに数日か
   かるらしいから、天気のチェックが必要ね。

夫: この池には大きなモミジの枝が池に張り出しているし、板取周辺にはモミジの名所も
   多いから、これからの紅葉の季節もいいと思うよ。

通称:モネの池はいつまでも眺めていたくなる、本当に幻想的で不思議なところでした。
皆さんも機会があればぜひ訪れてみてください。


<追記>
  書くか、書かないか迷ったのですが・・・・
  地元の方とお話しする機会がありました。
  地元の方いわく「あれ、良い~か?普通だぞ~!」だって。
  ご近所を周ると庭に池があり、錦鯉が泳いでいるご家庭が実に多かったです。
  ここは錦鯉振興会があるぐらいですから、錦鯉の飼育に熱心なところです。錦鯉を見る
  ことは特別なものではないから、モネの池も単に錦鯉が泳いでいるだけの池に見えるの
  でしょう。なぜあの池が注目を集めるのか理解に苦しむようです。
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美濃地方に伝承される白鳥拝殿踊りのルーツを求めて

2017-09-04 07:38:02 | 日記


岐阜県郡上市白鳥町の盆踊りには伴奏なしで歌と下駄のけり音だけで踊る「拝殿踊り」と、その発
展形と思われる笛・太鼓・三味線そして歌の伴奏で踊る「町踊り」がある。「拝殿踊り」は古代の
白山信仰を起源とする古い踊りで、美濃地方の盆踊りの原形と言われている。
今回は先祖の霊を迎え送るための仏教行事であるはずの盆踊りが、なぜ異なる宗教の施設である白
鳥神社という神社の拝殿で踊られるのか?その答えを探しに白鳥拝殿踊りに参加する前に長滝白山
神社を訪ねた。

1.先ずは、開山1300年のメモリアルな年を迎えた白山信仰について

白山(標高2,702m)の峰々から流れ出る水は、岐阜の長良川、福井の九頭竜川、石川の手取川、富
山の庄川などの流れとなり、濃尾・越前・加賀・砺波などの平野を潤してきた。その高く白く輝く姿
は漁業や航海の守り神としても仰がれてきました。奈良時代になると修験者が信仰対象の山岳で開山
するようになり、白山においても、泰澄(たいちょう)が登頂して開山が行われて今年が1300年です。
泰澄が開いた白山山岳信仰の修験道場は、登山口である越前馬場(平泉寺白山神社)、加賀馬場(白
山寺白山ひめ神社)、美濃馬場(長滝寺白山神社)にあり、最盛時には多数の社僧を擁し大勢力を誇
った。今でも白山神社は中部圏を中心に2,700社余り鎮座する。

2.美濃馬場(みのばんば)の「長滝白山神社」を訪ねた。

白山山岳信仰の中心地である白山中宮長滝寺は泰澄が頂上で祈りを捧げると、九頭竜王が現れ、ま
もなく十一面観音に姿を変えたことから、この十一面観音像を本地仏として祀ったことで神仏習合の
寺となったようだ。しかし、明治政府の神仏分離令による実質的な仏教弾圧で、強制的に長滝寺と白
山長滝神社に分離させられましたが、幸いにも廃寺にならず、今も同じ広い敷地内に寺と神社とが別
々に存在しており神仏習合形態を今に伝えている。
宮司さんの奥様のお話しでは、7月初めに神社の拝殿で「白鳥拝殿踊り発祥祭」が行われ、この後
に美濃地方の各白鳥神社の拝殿踊りが続くのだそうだ。江戸中期ごろにはすでに踊りが盛んだったよ
うで、当時の幕府から踊り禁止令が出されている。この禁止令ですが、「唄の中には色々と卑猥な歌
詞もあり、婚活の場でもあったことから風紀の乱れでもあったのかしらね、でもこの禁止令は小さな
神社には出されていなかったようですので、この寺の祭りの規模の大きさが想像されます」とのこと
でした。
盆の時期、神社の拝殿に精霊が降りてくる拠り所となる大きなキリコ灯籠が下がります。神仏習合
の形態が残されたことで、今の白鳥拝殿踊りの形態が生き残れたのではないかなと考えます。その拝
殿踊りも今では白鳥神社・野添貴船神社・前谷白山神社などに残るのみだそうです。

3.阿弥陀ヶ滝で修験者を想う

長滝白山神社では修験者による奥州藤原氏とのネットワークのお話も伺いましたので、護摩修業、み
そぎの場であった阿弥陀ヶ滝に行きました。落差60mの滝は日光華厳の滝の97mには及ばないが、
滝ツボまで行けて水しぶきを浴びられるのはここの特徴です。長滝の名はこの滝が由来だそうです。
なるほど修験者が修業をするのにふさわしい環境だなと白山山岳信仰修業の様子を想像しました。

4.白鳥神社で拝殿踊りに参加

社伝によると白鳥寺が起源のようです。現在の白鳥神社の拝殿で踊られるのが「白鳥拝殿踊り」です。
私は夜8時から始まる踊りに間に合うように、満天の湯の温泉で浴衣に着替えて白鳥神社に向かいま
した。町踊りにはよく参加していますが、拝殿踊りは初めてです。
この拝殿にもキリコ灯籠が掲げられ、その下に音頭とりが輪をつくります。特に白鳥踊りの原形と目
されるのは「場所踊り」といわれる最初に踊られる踊りです。ご詠歌風のゆったりとした唄は盆踊り
の導入歌としてハマっていると思います。キリコ灯籠の明かりの下で、お囃子もなにもなく、アカペ
ラの生唄で順に文句を唄いつないでいきます。踊り手は手を後ろ手に組み、下駄のけり音だけが響き
ます。拝殿は板の間だから、踊り子の下駄は拍子木であり、太鼓でもあって、唯一の楽器となってリ
ズムを刻みます。きわめてシンプルな組み合わせだけれど、これがとても心に響きます。これこそ白
山の自然の恵みと信仰文化に培われた盆踊りだと思わせるのが拝殿踊りです。続けて唄われるのは町
踊りでもお馴染みの曲たちです。拝殿の中での唄は誰でも割り込んで唄うことができます。ですから、
たまに誰も声を出さず、一瞬無音となり、顔を見合わせながら次は誰が唄うの?とクスッと笑いが起
きるのも愛嬌でした。神社の拝殿で白山信仰と共に伝承されてきた唄と踊りが、今年も白鳥町の闇夜
に響き渡りました。私も踊りの輪に入りました。

私の住む関東では埼玉県の竹寺の一ヵ所しか神仏習合の寺は存在しません。それほどに神仏分離令は
激しいものだったのです。しかし、美濃地方には神仏習合を伝えるお寺が他にも残されています。こ
うした古い形態の寺が残されたことと、古い形態の盆踊りが継承されていることは繋がっていると思
います。ではなぜ櫓を囲んだ踊りではなく、神社の拝殿での踊りなのかについてはよくわかりません
が、同じ敷地内にあり、既存の拝殿が使える、床が板張りだから下駄音が響くなどの合理的な考えが
あるのかもしれませんね。推測ですけど・・・。
今回は白鳥拝殿踊りへの参加だけでなく、関連する場所にも足を運びました。

ストーリー・トラベル。次は何を求めてトラベろうか。
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