ショートシナリオの館

ボケに抵抗するため、日常生活の中から思いつくままに書いています。月2回・月曜日の投稿を目指します。

コン太、危機一髪?

2016-07-25 08:07:29 | 日記


コン太: ハ~、ハ~、苦しい。
ミミ : そんなに息せき切って、どうしたの?
コン太: 待って。息切れしたから、ちょっと横になるよ。話はその後だ。ドッコイショ。
ポン吉: コン太、どうしたんだい?体がビショ濡れじゃないか。
コン太: ア~、疲れた。クタクタだ。
ミミ : ポン吉くん、あそこの川で水を汲んできてくれない?コン太に飲ませてあげたいの。
ポン吉: アァ、それがいいね。ひとっ走りで行って来るよ。
ミミ : 一体全体、何があったの?怖い目にあったの?
コン太: 怖い目?それとは少し違うんだけど、人間にバッタリと出くわしてしまったんだ。
ミミ : エ~ッ、それは大変!危ないじゃないの。どこで人間に会ったの?
コン太: ミミ、もう少しだけ休ませてくれないかい?
ポン吉: コン太、ほら、水を汲んで来てやったぞ。これを飲んで、ひと息ついてくれよ。
コン太: オォ、ありがたい。オレはここまで、すごいスピードで長い距離を走ってきたから、
     ノドがカラカラなんだ。ア~、ウマい水だ。助かった~
ポン吉: どこか遠くへ出かけていたのかい?
ミミ : ポン吉、大変よ。コン太が人間に出会っちゃったんだって。
ポン吉: エ~ッ、それはマズイじゃないか。
コン太: 確かにマズイんだけどね、オレにも事の成り行きが、よくわからないんだよ。何か
     に惹かれるように、ドンドン、ドンドン足が前に進んでしまって、気が付いた時
     には深い霧の中にいたんだ。長い間、坂道を登って行ったような気がしたけど、
     草むらを抜けて、坂道が緩やかになったと思った途端、目の前に人間がいたんだ
     よ。それも二人。
ミミ : 人間たちはコン太に意地悪をしなかった?
コン太: いや、何もしなかったね。ただ、立っていただけだよ。
ポン吉: 向こうもコン太に出くわして、ビックリしたのかな?
コン太: 多分、霧が深くてオレのことが見えなかったんだと思うよ。だけど、オレのほうか
     らは人間の姿が見えたものだから、一瞬、ゾ~ッとして全身の毛が逆立ったね。
     いや、オレの体は霧でビッショリだったから、実際には逆立たなかったのかな?
ミミ : 呑気なことを言ってる場合じゃないでしょ。人間たちはそこで何をしていたの?
コン太: そんなこと、分かるわけがないじゃないか。二人とも手に何かを持っていたけど、
     突っ立ったままだったよ。バシャバシャとか、パシャパシャって音が何度も聞こ
     えたけどね。
ポン吉: それって攻撃を受けたんじゃないの?
コン太: そうじゃないと思うよ。だって、何も飛んでは来なかったし、恐らくオレの姿は見
     えていなかったはずだ。というより、そう思い込むことにしたんだ。
ミミ : コン太に人間の姿が見えていたのなら、人間だってコン太が見えていたと思うけど。
コン太: そうかな~?でも、例え見えていたとしても、あの人間たちは僕を襲ったりはしな
     いような気がしたよ。なぜだか説明はできないけど、そう感じた。
ミミ : 直感で、そう思ったということね。
コン太: ウン。ただね、長老から万が一、人間に見つかってしまったと思った時には、決し
     て人間と目を合わせることなく、そ知らぬ顔で慌てず騒がず、ゆっくりと歩いて
     通り過ぎるようにって教わっただろ。だから、オレはそれを忠実に守ったよ。
ポン吉: 人間たちは追いかけて来なかったのかい?
コン太: そんなことはしなかったさ。もちろん、オレは少しばかりビビッていたから、後ろ
     を振り向くなんて事はできなかったんだけどね。あの人間たちには攻撃的な雰囲
     気を全く感じなかったな。でも、人間には違いないから、ある程度、離れた後は
     一目散に全速力で走って、ここまで帰って来たんだよ。どこをどう走ったのか、
     全くわからないんだ。かなり長距離だったことは間違いないけどね。
ミミ : 無事に、この村へ戻ることができて良かったわ。あまりムチャはしないでね。
ポン吉: そうだよ。本当は危機一髪だったんじゃないのかい。長老がこの話を知ったら、え
     らい事になるよ。
コン太: お願いだから、長老や両親には話さないでくれよな。オレだって、なぜ、あんな場
     所に行ってしまったのか、不思議でしょうがないんだから。何かに呼ばれたとし
     か思えないんだよ。オレ、どうかしちゃったのかな~。もしかしたら、あの人間
     たちが呼んだのかも知れないぞ。そういえば何となく、そんな気がしてきたよ。
ミミ : キツネのコン太がキツネにつままれたって、冗談にもならないわね。ただ、幸いな
     ことに、攻撃されることも無く、意地悪をされることもなかったんだから、この
     ことは誰にも話さずにいてあげるわ。
ポン吉: 僕も黙っててあげるよ。だけど、約束してくれないか。遠くへ行く時には、必ず僕
     とミミも一緒に連れて行ってくれ。仲良し3人組が一緒に行動すれば、何かが起き
     てもきっと助け合うことができるんだからな。忘れるなよ。
コン太: 分かった。覚えておくよ。心配させて悪かったな。ポン吉、さっき汲んできてくれ
     た水は、本当にウマかったぞ。急いで汲みに行ってくれて、ありがとう。君たち
     と話しているうちに、体も乾いてきたよ。これで、何事も無かったように、家に
     帰ることができるな。もう、腹がペコペコだよ。じゃあ、また明日。

コン太は知らず知らずの内に、思いがけない冒険をしてしまいましたね。動物村の仲良し3人
組も大きくなるにつれて行動範囲が広がり、危険なことに巻き込まれる可能性も高くなって
きたようです。
危機的状況になった時に、何とか切り抜ける知恵を身に付けるには、長老や親たちから多く
のことを学ばなくてはなりません。仲良し3人組が成長していく様子を温かく見守りたいで
すね。




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特報! 霧の伊吹山で珍しい生き物に遭遇

2016-07-18 08:00:06 | 日記



2016年7月12日。滋賀県と岐阜県の県境にある伊吹山に向かった老夫婦はドライブウェイ入り口
の料金所に着きました。係員の「山頂は霧が深く何も見えないのですが・・・」との助言に、ひ
るむことなく料金を支払って前進。対向車も追従車も全くいない独占状態。暫くは霧に包まれる
ことはなかったのですが、山頂に近づくにつれ霧が濃くなったため、ライトをつけ、20km/H前後
で白線を見失わないようにしてソロリソロリと運転しました。係員の情報通りの五里霧中。山上
の駐車場には車が約10台のみで、広い駐車場は花の時期だというのにガラ空きでした。

夫: 日頃の行ないがいいから、ほら、霧が急に薄くなってきたよ。これなら遊歩道近くに咲く花
   を観賞するには十分だ。ラッキーだぞ。
妻: 伊吹山のお花畑は、この霧があればこそ。恵みの霧に包まれる花たちの気持ちを私も味わっ
   てみようかな?美しい花を育んでくれる霧に感謝しながらね。
夫: ウワ~、なんというポジティブな考え!ドライブウェイ入り口での情報を聞くと、普通の人
   なら諦めて引き返すと思うけどね。

二人は西登山道口から、山頂を目指して歩き始めました。

夫: 登山道に砂利が厚く敷き詰められていて、随分と歩きやすい道になったね。
妻: 遊歩道にも、私たち以外は誰もいない。こんな独占状態の中で小鳥のさえずりを聞きながら、
   ゆっくりと写真が撮れるのは幸せだわ。ヤマホタルブクロ、カワラナデシコ、ハクサンフウ
   ロ、シシウド、クサフジ、メタカラコウ、クガイソウ、キンバイソウが咲いているわね。
   そういえば、7月中旬にここへ来たのは久し振りよね。
夫: アレッ!?遊歩道の真ん中に金網の柵があるよ。きっと鹿除けだね。遊歩道にまで柵を作る
   ということは鹿や熊の被害がここまで来ているのか。それにしても金網の目が細かい。
   これじゃ、兎などの小動物も通れないよ。貴重な植物を守ることと動物たちの保護をするこ
   ととが両立しなくなったんだね。難しい問題だな。
妻: でも、柵の真ん中にある扉を開けて中に入れば、熊に出会うことは無いわよ。最近、熊に襲
   われたという報道が多いから、そういう意味では安心ね。さてと、これからは私のペースで
   花を写しながら登るから、お先にどうぞ。私が遅れても気にしないでね。

山頂に到着しても、観光客はほとんどいません。僅かに数名の影がチラホラ。土産物店で記念品を
物色し、日本武尊(ヤマトタケルノミコト)の石造前で記念写真を撮り始めたところで、霧が小粒
の雨に変わりました。

夫: どうだい、いい写真が撮れたかな?
妻: 満足できる写真が2枚撮れたわ。タップリと雫を付けたカワラナデシコとこちらを向いた小さ
   なカタツムリよ。それよりも、カメラを雨粒から守るのが大変!
夫: 後で見せてもらうよ。とにかく雨が大粒になる前に、下山しようね。

二人は下山ルートを歩き始めました。その時です。突然霧に包まれた草むらの中から動物が姿を現
わしました。草の周りをなにやら嗅ぎまわっている様子です。

夫: 狐だ!早くここに来て写真を写せ!俺はビデオを回す!
狐: おっといけねえ~、霧が深いから、こんな近くに人間がいるとは思わなかったぜ。だけど、
   濃い霧の中なら俺の姿は見えやしないだろうよ。大丈夫だ。人間と目を合わせなきゃいいん
   だ。俺の名前は霧隠コン太だ。人間なんかに見つかるものか。
妻: ヒャ~、本当にキツネだわ。あっ、消えた!エッ、今度は私の目の前に飛び出てきたわよ。
   パシャ、パシャ、パシャ。
狐: 俺が行きたい場所に人間が立っているから、遠回りになっちゃったよ。人間の近くに長居は
   禁物だ。パシャ、パシャと賑やかな音が聞こえたけど、まさか、俺の姿が見えていたんじゃ
   ないだろうな。ま、いいか。お二人さん、雨が強くなりそうだから、気をつけて帰れよ。
   ところで、俺はなぜ、この時間、この場所へ来たんだろう?誰かに言われて来たわけじゃな
   いんだけど。まっ、深く考えないことにしよう。
   それじゃ、お二人さん行くぜ。バイバイ。達者でナ~。
妻: ア~、もう行っちゃった。うしろすがたのしぐれてゆくか・・・って感じだったわね。

この間、時間としては1分程度でしょうか。狐が消えて行った稜線を暫く眺めていた老夫婦でした
が、我に返ると、二人そろってのガッツポーズ。本当に夢のようなひと時でした。

夫: 今のは、きっと動物村の仲良し3人組のコン太だよ。僕たちに挨拶をしに、出てきてくれたに
   違いない。先日、狐のコン太たちを主人公にした「動物村の七夕飾り」をブログに投稿した
   ばかりじゃないか。この巡り会わせは奇跡だよ。
妻: 私も、あれはコン太に間違いないと思うわ。ブログで動物村の仲良し3人組を取り上げてくれ
   てありがとうと、お礼を言いに来たのよ。絶対、間違いない。
夫: 今日は霧をものともせず、ここまで来たから会えたんだよな。これからも、ひるむことなく、
   臆することなく何にでも挑戦していくぞ。
妻: 但し、自分の年齢だけは忘れないことね。それより、コン太の写真がうまく撮れているかど
   うかが心配よ。濃い霧の中だから写っていないかも。狐だけに化かされただけかもしれない
   し、二度と撮り直しはできないし。早く駐車場に戻って車の中で確認するわ。

二人がどんな興奮状態にあったのか想像できますよね。それにしても、鹿除けの金網があるのに、
どうやってあの狐は山頂のお花畑までやってきたのでしょうか?今回は、たまたま濃霧だったこ
とと人間がほとんどいなかったという偶然が重なり、人間と狐が遭遇したのでしょうが、コン太
がブログ掲載のお礼のために出てきたという説も捨てがたいと思っています。




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動物村の七夕飾り

2016-07-11 08:15:38 | 日記


動物村の仲良し3人組が広場で遊んでいると、大きな笹を引きずりながら長老がやって来ました。
長老の背中には何枚もの大きな葉っぱを抱え込んだフクロウ博士が乗っています。

長老 : みんな集まって、フクロウ博士の話を聞いてくれ。
ミミ : フクロウ博士、お久し振りです!
博士 : みんな元気かい?長老から人間の習慣の中で、ここの子供たちにもできることはない
     かと聞かれたので、七夕飾りの話をしたんだ。そしたら、みんなに直接話して欲しい
     というので、ついでに七夕飾りを作るのに必要な材料を集めて持って来たよ。
ポン吉: 七夕飾りって何?笹と大きな葉っぱで何を作るの?

フクロウ博士の話では、この時期になると人間たちは家の前に笹を立て、子供たちは自分
の願い事を書いた短冊と言うものを、その枝先に結びつけるのだそうです。これを七夕飾り
と呼び、星がその願い事を叶えてくれると子供たちが信じているらしいのです。

ミミ : この葉っぱにお願い事を書いて、結び付ければいいのね。人間たちはどんなお願い事
     を短冊に書くのかしら?
博士 : 例えばだな、字が上手になりますようにとか、成績が良くなりますように・・・
     なんていうのが多かったな。編み物が上手になりますようにというのもあったぞ。
コン太: そんなの面白くないよ。俺たちにとって、そんなことは重要じゃないからな。それよ
     りも、俺は美味しい物をお腹いっぱい食べたいよ。
ポン吉: 僕も同じだ。僕はものぐさだから、探しに行かないで食べ物が手に入ったらいいな。
ミミ : 本当、本当。食べ物探しは大変だからね。
長老 : ハッハッハ。やはり最初に思いつくのは食べ物のことか。だけど、食べ物以外のこと
     を書いた方がいいと思うぞ。ワシとフクロウ博士は短冊に書いた願い事が本当に叶
     うのかどうかを知りたいと思っておる。だから、君たちに書いてもらって、確かめ
     てみたいんじゃよ。

3人組は葉っぱを受け取ると、それぞれ別々の方向を向いて考え始めました。

長老 : みんな、そろそろ願い事を書けたかな?
ミミ : 私は自分の部屋が欲しい、もっと体が白くなりますように、って書いた。
コン太: 俺、早く走れるようになりたい、高い跳び箱が飛べるようになりたいって書いた。
ポン吉: 思いつかなかったから、鳥になって空から僕の家を見たいって書いちゃった。
ミミ : わあ~、素敵。私も鳥のように飛んでみたいわ。
コン太: 俺だって飛んでみたいよ。ねえ、みんなで葉っぱを繋ぎ合わせて、大きな一枚の短冊
     を作って、「飛びたい」って書こうよ。賛成してくれるよね。
博士 : 待て、待て、お前たちの体には羽根が付いていないから飛べないんだよ。羽根がない
     のに飛びたいという願いを叶える事は誰にもできやしない。無理な話だ。
長老 : まあまあ、そう決め付けないで、ここは子供たちに任せてみたらどうだ。

3人組は葉っぱと葉っぱを笹の細い枝を使って編むように繋ぎ合わせて、大きな短冊を作りまし
た。「鳥のように飛びたい」と書いて、星からよ~く見えるように笹にくくり付けて広場に立
てた3人組は七夕飾りを囲んで、夜になるのを待ったのです。

ミミ : 星がいっぱい出てきたわ。どの星が私たちの願いを叶えてくれるのかしら?
コン太: 星がここに降りてくるわけじゃないよな。
ポン吉: じゃ~、一体、どうやってこの短冊を読むんだよ。

3人組は七夕飾りのまわりに寝ころんで星空を眺めていました。すると突然、ヒュ~ッという音
と共に強風が吹き、七夕飾りが吹き飛びそうになりました。慌てた3人組はとっさに七夕飾りに
しがみついたのですが、強い風に吹き上げられ、なんと、七夕飾りと一緒にフワリと浮き上がり、
そのまま風に乗って動物村の広場をゆっくりと旋回し始めたのです。

ポン吉: 飛んでる、飛んでるよ!鳥になったみたいだ。アッ、あれは僕の家じゃないか?
コン太: 俺たち、空を飛んでいるぞ。夢みたいだ。
ミミ : 本当だ!スゴイ、スゴイ。

旋回しているうちに、七夕飾りから葉っぱが一枚、また一枚と剥がれて落下し始めました。落下
する葉っぱの数がどんどん増えていきます。すると急激に七夕飾りと、それにしがみついている
3人組は急降下して、とうとう広場の真ん中にドスンと落ちてしまいました。

ミミ : イタッ!みんな大丈夫?
コン太: イテ~、お尻の皮がむけそうだ。
ポン吉: 僕だって痛いよ~。ア~ァ、繋ぎ合わせた葉っぱさえバラバラにならなければ、もっ
     と長く空中を飛んでいられたのにな~。ザンネン。
ミミ : 今度はもっと丈夫なもので短冊を作りましょうね。
コン太: そのためには、壊れない短冊を上手に編めますようにと、お願いを書くのが先だぞ。
     人間たちはそこのことを分かっているから、編み物が上手になりたいなんて書くん
     だな、きっと。
ミミ : 人間の子供も空を飛びたがっているのかな?

3人組からは見えないところで、長老とフクロウ博士が様子をうかがっていました。

長老 : ワシにはあの子たちが七夕飾りと一緒に空中に舞い上がり、空を飛んだように見えた
     が、見間違いかな?
博士 : 短冊に書かれた願い事が本当に叶ったのだろうか?羽根のない動物たちが浮き上がっ
     て鳥のように空を飛ぶなんてありえない。ワシは博士じゃ。理屈で説明できないこと
     は絶対に信じないぞ。ワシは今、夢を見ているに違いない。
長老 : しかしな、あの3人組には我々の理解を超えた不思議な能力が備わっておるような気が
     するんじゃ。これまでの経験から、ワシは今見たことを信じるぞ。

動物村の七夕飾りに不思議な力を与えたのは、夜空のお星様だったのでしょうか?それとも、長
老が言うように、3人組に備わった潜在能力なのでしょうか?動物村の仲良し3人組は、これから
も長老やフクロウ博士を驚かせ続けるのかもしれませんね。


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鉄と生命のモノガタリ

2016-07-04 06:55:06 | 日記


美井さんが家庭菜園で雑草取りに汗をかいている最中に、永さんがヒョッコリやって来ました。
手に小さなものを大事そうに持っています。

永 : ちょっと手を休めて、これを見てくれないか?鉄隕石じゃないかと思うんだけど。
美井: 隕石かどうかの判断は専門家に任せるしかないよ。
永 : 先日、君に鉄隕石を見せてもらった後、孫に話してやったんだ。さっき、その孫が友達
    と一緒にこれを畑で見つけたと言って、僕の所に持って来たんだよ。孫はこんなに小さ
    いのに重くて、しかも磁石がくっついたから、鉄隕石に違いないと思ったそうだ。
美井: 磁石がくっつくかどうかは鉄の含有率だけで決まるもので、鉄隕石の判断基準にはなら
    ないんだよ。隕石というのはほとんどが地球の鉱物と同じ成分で構成されていて、地球
    に存在しない鉱物は1%未満と言われているんだ。見分け方として大気圏突入の際に不
    純物が高熱で溶かされてできた凹みがあるのが特徴だとか言われているけど、それだっ
    て当てにはならないんだ。
永 : それ、どういうこと?
美井: 隕石は地上に落下すると酸性雨や気温変化などで、どんどん劣化したり変化して形を変
    えるんだ。隕石にとって地球は生き残りにくい環境なのさ。
永 : そうなのか。この石も専門家に見てもらわないと答えが出ないということだね。孫に伝
    えておこう。ところで、あの時に見せてくれた鉄隕石は本物なのかな?
美井: 化石や隕石を取り扱う専門店で、鑑定書がついたものを購入したんだから本物のはずだよ。
    少し説明しようね。小さな惑星同士がくっついて塊となり、その大きさが直径約100km
    以上になると内部が融解すると考えられている。融解が生じると、重力によって成分の
    分離が起こり、密度が大きい鉄やニッケルが惑星の中心に集まって核となり、密度の小
    さい岩石質がそれを包んでマントルとなるんだ。地球もこうしてできた。惑星は宇宙で
    相互に衝突して破壊されることがあり、この破片が地球に向かって飛んでくる。
    飛んできた破片の大部分は地上に落ちる前に燃え尽きるんだけど、地上まで到達したも
    のが隕石だ。地上に届いた隕石の中で、鉄が主成分のものを「鉄隕石」、鉄とニッケル
    の分量が半々のものを「石鉄隕石」、岩石が中心のものを「石質隕石」と呼んでいるそ
    うだよ。
永 : 地球の中心も鉄だということだね。鉄はどんな形で存在しているの?
美井: 地球の中心にある鉄は少なくとも外側は液体として存在し、対流しているんだ。このた
    め電気が生まれ、巨大な磁場が生じている。この磁場は有害な宇宙放射線から、地球上
    の全ての生命を守っているんだ。
永 : そうだったね。考古学的な見地から言えば、人類の文明の歩みは石器時代から青銅時代を
    経て鉄器時代を迎え、ここでようやく現在の繁栄の基礎が築かれたんだよな。人類が初
    めて鉄に出会ったのが鉄隕石で、これを利用して武器や装飾品を作ったことから鉄器時
    代が始まったと、このあいだ、君が話していたね。
美井: 実は二つの説があって、ひとつは今、君が言った鉄隕石説で、もうひとつは地上の鉄鉱石
    が山火事などで偶然に半溶融状になったものを打ったり、叩いたりして鉄利用技術を知
    ったという説だ。本当に鉄隕石で刃物が作れるのかと疑問に思うだろうけど、榎本武揚
    が富山県に落下した鉄隕石から日本刀を作って、大正天皇に贈った話は有名だし、古代
    オリエントの装飾や武器は鉄隕石で作られていたらしい。
永 : 孫が持ってきたこの石は鉄鉱石かも知れないね。鉄鉱石は宇宙から来たものではないよね。
    鉄の原料である鉄鉱石はどうやって生まれたんだっけ?
美井: 137億年前にビッグバンの大爆発で宇宙が誕生し、46億年前に地球が生まれた。地球のよ
    うな惑星が作られるには中心に鉄のような安定した重い金属が必要なんだ。地球の重さの
    1/3は鉄の重さだよ。だから、地球を含むどの惑星もほとんど鉄の塊とも言えるね。
    25億年前の地球にシアノバクテリアという生き物が大繁殖し、地上の二酸化炭素を取り入
    れ、光を使って酸素を生み出した。その酸素が海中の鉄分と結びついて海底に沈んで積み
    重なったものが、15億年前の海底隆起で地上やその近くに現れた。それが鉄鉱石だね。
永 : 鉄鉱石は地球が生み出したものなんだね。鉄鉱石では石油のような枯渇の話を聞かないか
    ら、それだけ無尽蔵にあるということだな。
美井: こんなに鉄に依存している地球環境だから、鉄を上手に利用したものだけが地球上で繁栄
    できたんじゃないかな?人間も鉄がなければ生きられないよね。
永 : それって血の話だろう。哺乳類の血はみんな赤いけど、あれは赤血球の色であり、赤血球
    の中にあるヘモグロビンが全身に酸素を運んでエネルギー作ってくれている。このヘモ
    グロビンの中心にあるのが鉄だ。血液は鉄の匂いと味がすると言われるね。
美井: もっと正確に言うと、ヘモグロビンの鉄イオンに結合した酸素が体内に運ばれるんだ。そ
    れだけじゃない。体の各種器官を動かす酵素の働きにも鉄は欠かせないよ。人間の場合、
    体重70kgの成人男性には4~5gの鉄、ほぼ釘1本分が含まれていて、そのうち約65%が
    ヘモグロビンの中に存在しているんだ。
永 : 今の話を聞いて、小学生のころ、イネの成長観察で鉄分があるものとないものの違いを比
    較したことを思い出したよ。鉄は植物の成長にとっても欠かせないんだ。
美井: 地球は鉄が発する磁場で有害な宇宙線から身を守り、地球で最も多い元素が鉄という環境
    の下で、あらゆる生命は命をつないでいる。地球で生きる生命はその鉄を数十億年の進化
    の過程で、うまく代謝の中に取り込んでいったんだね。
永 : 鉄の塊をなめても鉄分の補給にはならないんだよね。進化の中で鉄を生体内で移動しやす
    い形にする能力を身につけたから、吸収や活用ができるようになったんだな。
美井: こうした地球環境の惑星が存在することは宇宙の中でも極めて希だろうね。宇宙人の存在
    は否定しないけど、僕の目の黒い内に宇宙人が見つかることはないと思うね。
永 : 今日はえらく壮大な話になったね。いろいろと勉強になった。ありがとう。
美井: お孫さんに鉄隕石を見においでと伝えてね。ここでの雑草取りも、地球に生きるものがや
    らねばならない宿命的作業だ。ハッハッハ。
永 : そこの青いトマト、赤くなったら、ひとつ欲しいな。




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