ショートシナリオの館

ボケに抵抗するため、日常生活の中から思いつくままに書いています。月2回・月曜日の投稿を目指します。

超レア・秘境ローカル線の旅

2017-06-26 07:24:29 | 日記


街中に住む老夫婦が「秘境・ローカル線の旅」という記事の中に、「運が良ければ非日常
の体験ができます」という文字が、片隅に小さく記載されているのを見つけました。

夫: 最近はローカル線を使った旅番組が増えているね。これもローカル線ブームに乗った
   企画だろうな。能登半島のランプの宿を思い出すよ。この場所は聞いたことがない
   けど、どんなところだろう。この温泉の写真は雰囲気があって魅力的だね。

妻: 私はローカル線の旅の番組が好きよ。タレントさんになったつもりで、旅をしたいと
   思っているの。ここは私も初めて知ったところだから面白そうね。

こうして二人はJR線を乗り継いで、記事に書かれたローカル線の体験旅に出かけました。
秘境の地に向かうローカル線の始発駅には、ドアが異常に大きなワンマン運転の一両編成の
車両がプラットホームに到着していました。

♪カエルの歌が聞こえてくるよ。クヮ クヮ クヮ クヮ ケケケケ ケケケケ クヮ クヮ クヮ♪

夫: ホームの出発合図がカエルの歌とは面白いね。思わずクスッと笑ってしまったな。

妻: それにしてもこの車両はなんか変ね。座席がとても少ないし、それに車内には柵がある
   わ。それなのに他のお客さんはこんな車両が当然のようにお弁当を食べている。誰も
   この変な車内の様子に関心を示さないのが不思議だわ。

夫: リピーターだろうね。彼らがいるということは、この旅が期待できるという証だよ。

妻: それならいいんだけど・・・。今、聞こえた?モーって牛の声が聞こえたわ。

夫: おい、驚いた。牛が乗り込んできたぞ。牛が電車に乗り込むなんて信じられないよ。

妻: それだけじゃないわ。人が手綱を引いていない。自分で乗り込んでいるのよ。あら、
   又、一頭が乗り込んできたわ。当然のように柵に入ったわ。あの柵は牛の座席なのね。
   モー、超ビックリ。

夫: 他の乗客は全く動じないな。このローカル線ではこれが日常のようだね。あり得ないと
   思う自分たちの方が変なのかな~?

とにもかくにも、ローカル線は始発駅を出発しました。二人はかなりゆっくりと走るローカ
ル線の座席に腰掛けながらも落ち着きません。乗り込んだ牛たちが人間のようにおしゃべり
をしているように見えるし、スローな電車の速度も気にかかります。他の乗客はおしゃべり
に夢中です。ついに夫が腰を上げ事情を聞くために運転席に向かいました。

夫: 大、大変だ。サ、猿、大きな猿が運転している。こんなことがあるのか?

妻: 嘘でしょう。猿がこんな大きな電車を運転できる分けがないじゃない。遊園地の電車
   じゃないのよ。エッ、本当に本当なの。キャー、怖い。早く降りましょう。

夫: ちょっと待って。もうすぐ駅に着く。今、到着のアナウンスが流れた。

まもなく、電車はローカルな無人駅に到着しました。牛たちが当然のように悠然と車内から
降りていきます。二人も慌ててホームに飛び出しましたが、そこで二人が見た光景は信じら
れないものでした。ホームから見える広大な田んぼに多くの牛たちが横一列に整然と並んで
ゆっくりと前に進んでいます。牛たちの背中には土起こしが付けられていて、どう見ても畑
を耕しているようにしか見えません。でも田んぼには全く人間の姿がありません。

夫: なんだこりゃ。牛たちは自分たちが食べる稲を耕しているのだろうか?どう見ても本
   物の牛だ、ロボットの牛には見えないな。今、降りた牛たちもあそこで働くために降
   りたみたいだぞ。この光景は信じられないよ。

妻: 人が全くいないし、こんな駅では降りられないわ。次の駅まで我慢して電車で向かいま
   しょう。

二人は急いで車内に戻り座席に腰掛けると、一頭のヤギが乗り込んできました。背中には振
り分け荷物のようにお腹の両脇に、お土産やお弁当の入った袋をぶら下げています。ヤギは
二人の目の前を通りました。声も出せずに唖然と見ていると、おしゃべりに夢中だった乗客
がヤギの袋からお土産品を取り出して、代わりに何かをヤギの口の中に入れました。ヤギは
おいしそうに食べ終わるとゆっくりと車内から出ていきました。

夫: 見たか?ヤギの車内販売のようだ。あの乗客たちは全く自然で驚いていないね。

妻: 何がどうなっているの?見て、又、牛が二頭入ってきた。二頭ともタオルを頭に載せて
   いる。まるで仕事が終わって温泉にでも行くみたいね。おっと、電車が動いたわ。

二人は不思議な車内空間の様子が気になりながらも、少し落ち着きを取り戻して車窓の眺めに
目を移しました。ローカル線はゆっくりと渓谷を渡り、森林を通り抜け終点の秘境駅に到着し
ました。乗っていた牛も乗客も何事もなかったようにホームに降りていきます。

夫: 猿の運転なんて生きた心地がしなかったけど無事に到着してホッとしたよ。

妻: 見て、運転手さんが出てきたけど人間よ。猿じゃないわ。びっくりさせないでよ。怖が
   って損したわ。

夫: そ、そんな馬鹿な。何回も確認したんだ。絶対に猿だったんだ。

妻: 見て、予約しておいた温泉の方が車の前で旗を振っているわ。まともな人間の姿を見て
   安心したわよ。

夫: この旅では「運が良ければ非日常が体験できる」と書かれていたけど、それを体験した
   のかもしれないな。

妻: 猿が運転しているなんて怖がらせるし、牛やヤギが乗り込んでくるし、私は夢でも見て
   いたようだわ。まだ、ボーッとした気分が抜けないわ。

夫: 僕も出迎えの温泉の人を見て、やっと日常の世界に戻れた気分だよ。こんな体験は他の
   人に話しても信じて貰えないだろうな。

超レアなローカル線の旅で味わう非日常的な体験とはこういうことだったのですね。
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六人の僧と消えた水

2017-06-12 07:37:26 | 日記


むかし、布教と修行のため、托鉢をしながら全国を行脚している六人の僧がいました。
ある村に入ると、村人が広場に集まり竹でやぐらを組んでいます。どうやら、雨乞いの祈祷
を行う準備のようです。

一の僧: 雨乞いの祈祷ですか?これまで通ってきた村では水不足の話を聞いていませんが。

村人A: これは御僧さまたち。よくお立ち寄りくださいました。この村では山の中腹にあ
     る龍神池から水を引いていますので、普段は水不足の心配は少ないのですが、
     3日前から用水路に入ってきた水の流れが、私たちの目の前で忽然と消えてしま
     ったのです。水が消えた用水路には壊れた所などはありません。ですから水が消
     えた理由がわかりません。水が来なければ田んぼに直接雨が降ることを願うしか
     ありません。私たちにできることは雨乞いの祈祷だけです。

二の僧: 用水路の水が皆さんの目の前で消えてしまったのですか?

村人B: そうなんです。水が消えてしまうのです。

三の僧: 私たちに水が消えた場所を調べさせてください。

こうして、六人の僧は龍神池を目指しました。辿り着いた龍神池には確かに水があり、用水
路へ向かって水が流れ込んでいました。しかし、水が消えるという用水路の場所に着くと、
水は住民たちが言う通り地下に吸い込まれるように消えていきました。

四の僧: はて、面妖な。確かに用水路には問題なく水は流れ込んでいる。それなのにこの場
     所に来ると水が消えてしまうとはどういうことだ。どうやらこの場所は異界との
     つながりがありそうだな。

五の僧: やや、空模様が怪しくなった。雷が来るぞ。気をつけろ。

その直後に、大きな雷が近くの大木に落ち、そのてっぺんから真っ赤な炎の川が流れ出て、
根元に達した時、大木は二つに割れてそこから真っ赤な衣装の老人が出てきました。そして、
驚いている六人の僧に声を掛けました。

老人 : 六人の僧たちよ。来るのを待ちかねていたぞ。私は天上界からの使いじゃ。お主た
     ちに頼み事があって待っておったのじゃ。

六の僧: 私たちに天上界の頼み事をお手伝いできる力があるのでしょうか。

老人 : 地上界に住んでいるお主たちの力は天上界でも有名じゃ。頼みたい事とは村人を困
     らせている用水路の水が消えたことに関係しているのじゃ。村人たちを助けるこ
     とにつながるのだぞ。

一の僧: 分かりました。ご老人のお手伝いをさせていただきます。

老人 : 実は天上界で雨降りを決める玉龍が盗まれた。その玉龍は水を作ったり、消したり
     と水を操ることができるのじゃ。玉龍を盗んだのは若者で、幼馴染だと言う娘の知
     らせによると、地上界に降りてこの龍神池の水の中に隠れていると言うのだ。
     玉龍を取り戻さねばならぬが、残念ながらワシは直接池の水の中に入ることができ
     ないのじゃ。そこで、お主たちの手を借りたい。

二の僧: 分かりました。私たちが代わりに池の中に入れば良いのですね。

老人 : そうだ!ワシの体には雷力が宿っておる。その力をお主たちの体を通して池の水に
     伝えたい。水の中に雷力が伝わると、玉龍を持った若者の体がしびれて飛び出して
     くるはずじゃ。その時にワシが若者から玉龍を取り戻すのじゃ。お主たちは水の中
     に入り、それぞれが持っている尺丈を池の中心に向けて水の中に差し込んでくれ。
     そして念仏を唱えて歯を食いしばるのじゃ。

六人の僧は池に入りひざまで進むと、六本の尺丈の先を池の中心に向けて差し込みました。

老人 : それでは雷力を伝えるぞ。若者が玉龍を持って出てくるまで我慢してくれ。

老人は体に宿った雷力を六人の僧に向けて発射しました。雷力は紫色の光線となって六人の
僧の体を通して六本の尺丈に伝わり水中に向かいました。六人の僧はその強い雷力に体を震
わせながら必死に歯を食いしばって耐えました。

若者 : ギャ~、しびれる~。誰だこんなことをするヤツは。

老人 : 跳び出してきおったぞ。そら、玉龍を取り戻した。もうその尺丈は上げてよい。

六人の僧は意識もう朗です。自分たちの目の前で何が起きたのか理解できません。老人が若
者に言いました。

老人 : 若者よ。お前は天上界の掟を犯した。本来なら天上界の審判を受けさせるべきだが、
     ここにいる娘のたっての望みを聞き入れて、この地上界で生きてゆくことを許そう。

若者 : 玉龍を盗んだのは悪かったけど、俺は雨を降らせる仕事をしたかったのに、なかな
     かさせてくれないから、少し困らせてやろうと思っただけなんだ。

老人 : それでも玉龍を持ち出したことは許されないぞ。これからはこの地上界でこの娘と
     一緒に生きてゆけ。そして人間たちに好かれる生き方をせよ。そのためにワシから
     人間たちに好かれる可愛い姿と雨を感じたときに知らせることができる声を授けよ
     う。これで地上界の人間たちもお前たちを快く受け入れてくれるじゃろう。

若者と娘は二匹の小さなカエルとなって草むらの中に消えていきました。

三の僧: 聞きたいことがあります。どうして、用水路の中の水が消えてしまったのですか?

老人 : おそらく、若者が玉龍を使って水の流れを操作していたに違いない。でも。玉龍が
     戻ったからもう大丈夫だ。まもなく用水路から村人たちの畑に水が届くだろう。
     それから、村人にカエルの大合唱が始まると雨が近いことを伝えて欲しい。

六人の僧が村に戻ると村人たちは自分たちの雨乞いの祈りがこんなに早く通じたのだろうかと
半信半疑ながら、用水路から水が戻ってきたことに大喜びをしています。
六人の僧はにっこり笑うと村人たちに向かって、もう水が消えることは起きないこと、そして
「これからはカエルの大合唱が始まると雨が近い知らせだよ」と伝えて村を後にしました。
今も私たちの身近にいる「アマガエル」はその時のカエルの子孫だそうですよ。
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