鼠喰いのひとりごと

DL系フリーゲームや本や映画などの感想を徒然に

人獣細工

2005-05-13 21:48:08 | 本(小説)

「人獣細工」 小林泰三
角川ホラー文庫 1999年
(単行本初出は1997年)

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同じかたの書いた「玩具修理者」と共に古本屋でゲット。
読んで損が無いです。面白かった。
これは短編集で、表題作のほか「吸血狩り」「本」が収録されています。
どれも読んだあと、あー、ホラー読んだ!って気持ちにさせてくれました。

また、作品の影にクトゥルー神話の影が見えるのも、ちょっとお気に入り(笑)
それをメインに書いてるわけではなく、曖昧で意味不明で、だから余計に異界っぽくていい感じ。
そう、この方の作品には、「最後まで語られない」ことで感じる不安定感や恐怖があるのです。
もともと、恐怖という感情自体、形のはっきりわからないものなのですから、それを「ここでこんなことがあって、その時誰がこうなって、だから今こうなるのだ」というのがわかってしまうとどうも面白くない。
女が死んだ場所で女の幽霊が出るなんて至極当然、予想のつくことで、むしろそれより、普段は住み慣れた自分の部屋に何故かある日女がいた、のほうがずっと怖いと感じます。
だって自分の家じゃ、逃げ場ないじゃないですかー。

書かれていない部分を読者に予想させることで、なんともいえずゾっとする世界を作ったのが、2作目の「吸血狩り」。
普通に読んだらね、8歳の男の子の吸血鬼との対決&退治物語なんです。
でも…ひょっとしてこれ…と最語に思うと…地味に怖い!

そして「本」は、読書好きでネットを齧ってるひとなら、なお楽しめると思います。
「本を読む」という行為が「インストール」であると考える発想の斬新さが素敵でした。
確かに、両者は使う媒体や環境が違うだけで、同じ目的の行為ですね。

そして表題作。悲しいかな、途中でなんとなくオチが見えてしまいました。
でも、それ以上に強烈な作品のテーマと、傷だらけの身体の存在感。
実際に、ブタの内臓で臓器移植ってあるんだそうですね。
もう実用化したかどうかわかりませんが…確か、けっこう前にクローン豚が話題になっていたような?
いつか、それが身近な治療方法として普及するまでには、この作品の中の主人公のように「ひとぶた」なんて苛められる子供もいるかもしれません…


「たたり」雨宮町子

2005-05-13 21:23:43 | 本(小説)

「たたり」 雨宮町子
双葉社 双葉文庫 2002年
(単行本初出は2000年)

***

よくあるタイトル。よくある設定。
しかし、引き込まれるように最後まで読んでしまいました。
内容は、女性の書いた作品でありながら、物凄く冷徹。
あと、性的な部分の書き方が、妙に男性っぽく感じました。
読みつつ、…作者は女性なんだよな? と表紙を見直したくらい(笑)

あ、誤解の無いよういいますが、別にその部分を微に入り細に入り書いてあるわけじゃないです。(たまにありますねー。ホラーだかエロ本だかわからないやつ)
ただ、そういった行為への考え方が、男性寄り視点だなって。
なので、一応女性の私としては、えー?みたいな部分はありました。
作品の裏設定にはもともと男性の暴力圧制みたいなものがありましたから、
意識してやっているのかもしれませんが、後味ちょっと悪い…。

ストーリーは、作家の男性が夫婦で、昔、華族の館だったという洋館で過ごすことになり、
それから彼らの身に起こる不可解な出来事や、徐々に変わっていく二人の人格を克明に書いていきます。
もちろん、心霊現象じみたことも起こるんですが、それは全然たいしたことはない、物音や足音、勝手に電気がついたり消えたり、といったことに終始しますのでいいんですが、
何が怖いって、人間の性格が変わっていくのが怖いんですよー。
もうね、理屈じゃないし、人間らしい情の入る余地がまったく無いですね。
最後までばっちり砂糖抜き! 甘くないです現実は…

とはいえ、登場人物がみんな、その家の主人にアタマがあがらない、言いたいことも言えない、というのは見ていて不愉快でした。ことに奥さん…いつの時代のひとですか(汗)
私ならそんなことは到底できませんから(笑)余計にストレス溜まっちゃいますね。
もちろん、親しいからこそ言っちゃいけない言葉はあると思いますが、言いたいことをちゃんと言わずに内心不満を持ってるなんて状況は、むしろ相手に失礼だ、と考えます。
だって、後々それがバクハツして「あの時こうだったー!」なんて言われたら、大抵のひとは「じゃあその時なんで言わないんだよ!」と返すもんじゃあないですか?(笑)

なんて文句を言いつつ、きっと私、このテの「幽霊屋敷もの」は嫌いじゃないです。
登場人物と一緒に、知らない空き屋を探検してるような感じがたまらなく好き♪
これは、ちゃんと管理されている屋敷に引越してきた夫婦の話なので、空き屋探検とはちょっと違うのですが…そうですね、どちらかというとスティーブン・キングの「シャイニング」っぽい。
というわけで、そういうのが好きなかたは、一読してみてくださいませ。