「"It"(それ)と呼ばれた子」
デイヴ・ベルザー著 田栗美奈子訳
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完結編を読もうと図書館に行ったら、貸出記録無いのに、本が行方不明でした(汗)
誰だ。こっそり我が物にしたヤツは。
というわけで、いまだに完結編を読んでいません。
幼年期と、それに続くロスト・ボーイだけ。
それだけでレビューを書くのはいささか乱暴かもしれませんが…
この先読む機会があるかわからないしね。
一応、今のところの感想を。
んー、とりあえず『幼年期』は、延々と続く虐待の描写が飽きる。
そして助けられたと思えば、今度は別の罠があったりして、
殆ど『実録、世にも不幸せな物語』って感じ。
実家から救い出されて、里親制度の中を偏見と戦いながら生きていく、
青年期編のほうが、そっちよりも多少はマシかな。
こういう実話な本で、こんなこと書くと鬼でしょうかね?(笑)
だってねぇ。この本は、虐待された本人が書いていることもあって、
とにかく、終始視点が虐待される側。
だから、いかに不条理な酷い虐待を受けたかはよくわかるけれど、
何故、母親がそんな行動に走ったかがわからない。
兄弟が他に3人…兄、弟、虐待が始まってから生まれた赤ん坊といる中で、
何故、彼でなければならなかったのか。
そこが知りたいなぁ、と読みつつ、ふつふつと思うわけです。
そこらへんが全く見えないから、結局、周囲の人間は全て鬼で、
世間は自分を陥れようとする罠に満ちていて、法は救いにならず、
真の正義は、決して表に表れない…神も悪魔もありゃしない。
それが、当時の彼から見た『世界』であったことは疑わないけれど…
これだと、彼の意識でフィルタリングされた状況しかわからんわな。
ついでに言えば、シリーズ通して、いろんな出来事が時系列に書かれている
わけじゃないので、数冊読むとどれがいつの時期の出来事か混乱する。
あと、同じような時期のものでも、考え方や性格において、
全く違う書き方をなされている部分があって、一貫性が無いような…
あ、いや、嘘ついてるって言ってるんじゃないヨ。
ただ、印象として、文章書きなれてない人間が一生懸命、
その時に思いつくまま感じるまま、たくさん書いた、ってイメージ。
作中で書かれる、母親の有様ははっきり言って異常でしたね。
彼の中で、優しかったころの母親は、そらもー素晴らしいまでの完璧ぶりで…
綺麗好きで、いつもきちんとした格好をしていて、料理も素晴らしく、
子供の教育も忘れない。常にパーフェクトを目指している母親…っていうのは、
私には、それだけで相当無理がかかっているようにも思うのですが(汗)
これじゃあ、神経症にもなろうってもんだと思いましたよ(汗)
それが、ある時から徐々に変貌し、その執拗な攻撃は三人兄弟の真ん中に
集中していく。
この豹変振りは、同じ紙の裏表みたいで、あんまり意外には感じなかったな…
…っていうかね、思い込みの強い人が、今までと真逆な方向に
突っ走っただけなんじゃないかと!
本の記述を信用するなら、母親の目指す「完璧」は、
全て『他人の目から見た』ものに感じます。
掃除を完璧にこなすのも、外に出る時、綺麗な服と化粧で武装することも、
各種イベントを、工夫を凝らして楽しく計画することも…
他人のためではなく、自分のために、良き母を演じていたんじゃないのかなぁ。
最後まで彼女が見つめていたのは、夫でも子供でもなく、
自分ひとり、だったように思う。
海外では、この本は嘘に固められたものである、という話もあるようですよ。
ていうかデジャブ。ビリー・ミリガンのときもそうだった(笑)
後からあれは嘘だヤラセだここは間違いだって裁判になってさ。
実在の人物の虐待を描けば、そこには実在の加害者がいるわけで、
周囲にはそれを知ってて知らんふりしたり、
関わるのが嫌で見ないふりした人間もいるわけで、
それぞれに、自分なりの言い分も視点もあるのだろうから、
まぁ、いろいろ文句も言いたくなるだろうな、と。
しかも、この本は…自分で自分のことを書いている分、
嘘のつもりはなくても、多分いろいろあるでしょうしね。
人は無意識に、自分に良いように物事を見るものだから。
そうそう、彼の弟も、兄が家を出た後自分が虐待されたことを、
本にして出してるみたいですよ。
…どうも、この兄弟の出版形態は気に入らないな。
いかにも売りたい目的がほの見えて。
ただ、彼が虐待を生き抜いて、新たな犯罪者になることもなく、
今現在幸せな家庭を築いて、自分の子を愛し暮らしている、その事実には、
素直に拍手。
彼の存在は、同じような境遇の子供たちに、生きる希望を与えてくれる。
この本に価値があるとしたら、多分、そこだろうかな~