鼠喰いのひとりごと

DL系フリーゲームや本や映画などの感想を徒然に

誰も知らない

2005-05-29 02:35:38 | 映画(邦画)

「誰も知らない」 2004年
監督:是枝裕和
出演:柳楽優弥、北浦愛、木村比影、清水萌々子、韓英恵、YOU

***

1988年に実際にあった事件をもとに作られた映画です。
とはいえ、現実の出来事はあまりにも陰惨なものでしたが、映画はむしろ美しい…とか、
悲しい、儚いイメージで作ってありました。

とりあえず、あらすじから。

ある日、アパートに引っ越してきた母親と息子の二人連れが、大家に挨拶に来た。
父親は海外赴任中で、息子と二人暮し、うちの息子にもそろそろ英語でも習わせようかと…
等と語る親子、実は5人家族。
父親はおらず、4人の子供たちは出生届すら出ておらず、学校にも行っていない。
母子家庭で4人の子供、という家庭環境では、借りる家は限られてしまうため、
事実を隠して引っ越してきたのだ。
そのため、長男を除く3人は外へ出ることを固く禁じられ、騒ぐことすらままならない。
狭い家の中で日々過ごす兄弟たちを、買い物に行き、食事を作り世話をするのは長男の役目だった。
ある日、母親は長男に言う。「好きなひとがいるの」
そのひとが自分と結婚してくれたら、みんなでもっと広い家で暮らし、学校にも行ける、と。

そうして、やがて母親は20万円の現金と「しばらく留守にします。子供たちをよろしくね」
と書いたメモを残して姿を消した。

母が戻る日まで、と必死に頑張る長男。
しかし、わずか12歳の子供にその責任は重すぎ、次第に生活は破綻してゆく。


一時期、主人公の柳楽くんが賞をとって話題になりましたが、私はむしろ
YOUが最高にハマり役!と感動しました。
四人の子供を産みながら、それに対して全く責任を持てない母親。
子供たちに愛情が無いわけではない。完全に捨てようと思ったわけでもない。
ただひたすら子供で、無責任で、無知。
きっと映画の中の母親は、相手の男との幸せな生活に溺れて、それを壊したくないあまり
子供たちのことを忘れた…というか、後回しにしたんでしょうね。
いつ言おう?いつ打ち明けよう? 別に今じゃなくてもいいじゃない? まだなんとかなるわ、と。
…実際たくさんいそうだよー。こういう人ー。
いや、だって、自分の幸せって、やっぱりなかなか捨てがたいものだと思うしさ。
子供がいても浮気する心理だって多分そうでしょう?
母親としての責任より、女としての幸せが勝つんだよね。

ま、多少は…作中の母親にも、同情できる部分はありますが…(だって子供四人は大変だよ/汗)
しかし、そもそもその環境で四人の子供を作る、産む、というあたりが既に考えなしな証拠でも
ありますしね。
作らないこともできるのに、なんで作るかなー。産まないこともできるのに、なんで産むかなー。
そして、その無責任さの煽りをモロにくらった形の長男、明。
彼の、普通の子がするような遊びや生活に憧れる様子や、淡い恋心、徐々に荒んでいく気持ち、
その全てがリアルに、また綺麗に描かれています。
そもそも、12歳の少年に大人のような分別を期待するほうが間違っているのだし、
そういう意味では、作中の長男は実によくやったほうだと思う。それを助ける長女もね。

どんどん生活は荒れ、追い詰められていくのに、それでも彼らにはあまり危機感は感じられず、
時には子供らしい楽しみや遊びの合間に笑顔が見えたりして、それがまた不憫です。
私たちから見れば不幸な境遇と言っていいのに、彼らはそれを不幸とすら感じられない。
なぜなら、きっとそれは…幸福な状態を知らないから。
きっと最後まで、植えられた草が無言で枯れていくように、運命に従って黙って衰えてゆくだけ
なのでしょう。

作中、少し意外だったのは、一度は出るかと思った「子供同士の苛め」や「容姿への差別」は
一切なかったということ。
子供は子供らしい無邪気さで彼らを遊び仲間とみなし、また「臭い」という簡単な理由で無視
しますが、そこには陰湿さはありません。
空気のように、また路傍の石のように、時には気に留め、時には無視する。
考えてみれば、苛める、とか差別、とかは、良くも悪くも相手に関心を持ち、
注目していなければ起こらない感情かもしれません。
そして、世間に気にも留められないまま暮らす彼らは、ここでもまた幽霊のように扱われている。
徹底してます。見事に隔絶されてます。
そこらへんも「誰も知らない」というテーマに沿っていて、凄いです。

この物語の実話とは違いますが、以前…多分幼児虐待か何かで事件が起きた時、
死んだ子供の存在を、近所の人間はまるっきり知らなかった、というのがありました。
「いつも姉(だか兄だか)を連れて歩いているのは見てたけど、もう一人いるなんて
知らなかった」と近所のひとのインタビューがあったような。
案外、私たちが「知らない」だけで、こういう事例は思ったより多いのかもしれません。

うちの近所にしたところで、近所づきあいがそれほどない昨今、
どこの家にいくつの子供が何人いるのか、正確に把握できていませんし。
監禁もされてない普通の家でもそれだからな…家から出ないんじゃ尚更…(汗)

こ、怖い考えになってしまった。
とにかく、こういった形で犠牲になる子供たちが、少しでも減ることを祈ります。


誰も知らない 公式サイト

参考実話:「MURDER IN THE FAMILY」「巣鴨子供置き去り事件」の項
注意:↑このサイト「MONSTERS」は猟奇事件の紹介・考察サイトですので、納得の上でご覧くだされ。