鼠喰いのひとりごと

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緑の少女

2005-05-02 03:25:03 | 本(小説)

「緑の少女」上下巻 エイミー・トムスン
ハヤカワ文庫 1996年

***

SF小説です。
未開の惑星調査のために降り立ったクルーの中でただ一人、原住民に助けられ、身体を改造されることで生き残ったジュナ。
母船の帰還に間に合わず、再び再調査に帰ってくるまでの数年間を、見知らぬ緑の星で過ごすことになった彼女の、原住民テンドゥとの心の交流を描いた作品…かな。

読んで思ったのは…テンドゥって、少し、日本人をモデルにしてるんじゃないの?ということ。
礼儀を極端に重んじること、敬語があること…クアルビッリという、無言の伝統芸能は、なんとなく能とか狂言を思わせるし、作中に出てくる「ケンジャ」という順番決め(?)の方法はモロにじゃんけんだし。
もともと、作者本人が親日家であるというのもあとがきには書いてあったので、余計に思い込みが入ってるのかもしれませんけど…。

ここで、未開惑星の原住民のモデルが日本人? と思ったかたはご安心。
もちろん、何もかもが全て、風刺だということではありませんし、大体作中でのテンドゥは、物質よりも精神を重んじる高等種族として書かれています。

作品は、ジュナがテンドゥの中で暮らすことで異星人の文化に触れ、またテンドゥの側もジュナの考え方から新しい何かを学んでいく…という、単純で、でも希望に満ちた物語になっています。
人類とは何もかも違うエイリアンの文化を、読者はジュナの目線で一緒に発見していく形。
ジュナを憎みつつも、自分の仕事のために同行しているテンドゥ、アニトが、徐々に彼女に心を開いていき、親友と言ってもよい関係になるところは、最後の「二つの種族の相互理解」へ繋がる精神的な伏線としても感じられ、とても清々しい。

エイミー・トムスンの作品は、他に「バーチャルガール」(ハヤカワ文庫1994年)があります。
こちらの主人公は、あるコンピュータ学者が、自分の理想の女性を形にするために作り上げたロボット、マギー。人工知能の開発が規制されている社会で違法である彼女が、作り手である男と離れ、ひとりで人間の世界を彷徨いながら「自分」を探す物語。
二つの作品は共通して、主人公が「世界」と出会う物語である、といえるかもしれません。

緑の少女が面白かったので、物凄く次作にも期待したのですが…残念ながら、今現在、他の著作は出ていないようです。それとも、翻訳してないだけなのかなぁ?