「夏の庭」 湯本 香樹実
新潮文庫 1994年
「死をテーマにしたちょっといい物語」第二弾(もういいって)
「中学生はこれを読め!」という書店の煽り文句につられて、
中学生でもないのに買ってしまいましたよ(笑)
(私の地元では、今夏、書店でこういうフェアがあったのだ!)
なんというか、人にはそれぞれ泣き所というか弱点というか、
無条件に吸い寄せられてしまう種類のものがあるモノですが、
私にとってそれは夏であり子供であったりする…のは、もう皆知ってるよね(汗)
その上、テーマに「死」など持ってこられるとねぇ、
もう気分は灯りに吸い寄せられる蛾の如し。
そんなわけで、私にとってはこれ、損の無い本でありました。
内容は、確かに中学生が読むのに相応しい、健全志向。
よく昔、小学生のとき、夏休みに読書感想文コンクールあったでしょ。
あれの推奨本にもなりそうな雰囲気って言ったらわかる?
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死んだ人間を見てみたい。
そんな理由から、近所の老人を見張ることになった小学生の3人組。
しかし、物陰から眺め続けるうち、彼らは不思議な親近感を老人に感じ、
食べるものを心配し、何げなくごみを片付けていく中で、
老人もまた、子供たちをすこしづつ受け入れはじめる。
水を撒き、草をむしり、花の種を撒き、
一緒に縁側に座ってスイカを食べながら、
老人の昔話を聞き、また、老人も子供たちの話を黙って聞く。
家庭に問題を抱える3人の子供たちは、老人とのかかわりの中で、
それぞれに、何かを掴んでゆくのだった。
そして、その夏の終わりに、別れはやってくる。
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どうやら1994年に映画化もしたらしいのですが、
小説のほうのレビューが多かったのにくらべ、映画の情報はいまひとつ。
出来が悪かったのか、話題がないですねぇ…レンタルビデオあるのかなぁ。
原作の雰囲気はいいんだけどな。
でも、映画よりは、NHK教育の道徳ドラマのほうが向いてる感じはするかな。
この本の何がいいって、最後の章にある一文がとっても爽快で好きです。
「オレ、もう一人でトイレ行けるんだ。こわくないんだ。
だってオレたち、あの世に知り合いがいるんだ。それってすごい心強くないか!」
きっと、この子供たちはこれから先、死を否定的なものとは捉えない。
人生で一番最初に出会う死の形が、こんな素敵なものであったなんて、
最高にラッキーなことだと思う。
というか、多分、もともと日本人の持っているお盆とか彼岸とかいう死生観は、
こんなイメージだったのだろうな、と感じます。
死者は決しておどろおどろしいものではなくて、自分を見守る、身近な誰かであるということ。
見えないところに、ちゃんと自分の味方がいる、という安心感。
んー、なんか、うまく表現できないな。
でも、迎え火も、キュウリやナスの牛馬も、そう考えるとなんか素敵な習慣だよね。
内心、彼らがちょっと羨ましい。