鼠喰いのひとりごと

DL系フリーゲームや本や映画などの感想を徒然に

「夏の庭」 湯本 香樹実

2006-08-31 14:54:27 | 本(小説)


「夏の庭」 湯本 香樹実
 新潮文庫 1994年


「死をテーマにしたちょっといい物語」第二弾(もういいって)

「中学生はこれを読め!」という書店の煽り文句につられて、
中学生でもないのに買ってしまいましたよ(笑)
(私の地元では、今夏、書店でこういうフェアがあったのだ!)

なんというか、人にはそれぞれ泣き所というか弱点というか、
無条件に吸い寄せられてしまう種類のものがあるモノですが、
私にとってそれは夏であり子供であったりする…のは、もう皆知ってるよね(汗)
その上、テーマに「死」など持ってこられるとねぇ、
もう気分は灯りに吸い寄せられる蛾の如し。
そんなわけで、私にとってはこれ、損の無い本でありました。

内容は、確かに中学生が読むのに相応しい、健全志向。
よく昔、小学生のとき、夏休みに読書感想文コンクールあったでしょ。
あれの推奨本にもなりそうな雰囲気って言ったらわかる?

===

死んだ人間を見てみたい。
そんな理由から、近所の老人を見張ることになった小学生の3人組。
しかし、物陰から眺め続けるうち、彼らは不思議な親近感を老人に感じ、
食べるものを心配し、何げなくごみを片付けていく中で、
老人もまた、子供たちをすこしづつ受け入れはじめる。

水を撒き、草をむしり、花の種を撒き、
一緒に縁側に座ってスイカを食べながら、
老人の昔話を聞き、また、老人も子供たちの話を黙って聞く。
家庭に問題を抱える3人の子供たちは、老人とのかかわりの中で、
それぞれに、何かを掴んでゆくのだった。

そして、その夏の終わりに、別れはやってくる。

===

どうやら1994年に映画化もしたらしいのですが、
小説のほうのレビューが多かったのにくらべ、映画の情報はいまひとつ。
出来が悪かったのか、話題がないですねぇ…レンタルビデオあるのかなぁ。
原作の雰囲気はいいんだけどな。
でも、映画よりは、NHK教育の道徳ドラマのほうが向いてる感じはするかな。

この本の何がいいって、最後の章にある一文がとっても爽快で好きです。
「オレ、もう一人でトイレ行けるんだ。こわくないんだ。
だってオレたち、あの世に知り合いがいるんだ。それってすごい心強くないか!」

きっと、この子供たちはこれから先、死を否定的なものとは捉えない。
人生で一番最初に出会う死の形が、こんな素敵なものであったなんて、
最高にラッキーなことだと思う。

というか、多分、もともと日本人の持っているお盆とか彼岸とかいう死生観は、
こんなイメージだったのだろうな、と感じます。
死者は決しておどろおどろしいものではなくて、自分を見守る、身近な誰かであるということ。
見えないところに、ちゃんと自分の味方がいる、という安心感。
んー、なんか、うまく表現できないな。
でも、迎え火も、キュウリやナスの牛馬も、そう考えるとなんか素敵な習慣だよね。


内心、彼らがちょっと羨ましい。



近況いろいろ。

2006-08-30 04:33:38 | 雑事

最近めっきり夜型というか早朝型というのか、
夜の9時に子供と一緒に寝てしまい、夜中の2時3時に起きるという
生活リズムです。
おかげで朝しかダンナの顔を見てません。一日一回(汗)

***

絶体絶命都市2、3回目を終えてもまだコンパスが全部埋まりません。
攻略本見てやったのにぃぃ(涙)
コンパス取った直後に死んで、そのまま再開したときに、
取ったつもりで進んじゃったみたいやね…うむ、悔しい。

***

今年のカブトムシですが、アトラスとメスが一匹☆になった他は、
いまだに生きてます…さすがに半死半生ですけどね。
一ヶ月が寿命だなんて、嘘だったんだなぁ。もう2ヶ月生きてるよ。
それとも、やっぱり自家養殖モノは、環境が甘いぶん長生きなんでしょうか。
そろそろ、あの土臭いケースをぜひとも片付けたい…。


「きものが欲しい!」 群ようこ

2006-08-30 04:12:25 | 本(その他)


「きものが欲しい!」 群ようこ
2006年 角川文庫

***

なんでこんな本読んでたかっていうと…4月の入学式できものを着たわけです。
私の持っているヤツはみんな、若いころに作ったものだから、
色華やかで柄行も派手。
姑の「今回着ないと、もう着られないわ」という言葉のもとに、
たまにはいいか~と思ったのですが。

感想:苦しい、動けない、歩けない

着慣れてる人には当然なんでしょうが、和装と洋装では身体の駆動部分
(この言い方/汗)が違うので、動きも全然違うんですよねー。
なので、いつも普通にやってる、歩く、座る、立つ、車に乗る、という動作が、
一瞬わからなくなる。
きものばかりに神経がいって、せっかくの息子の晴れ姿も、小学校の下駄箱の
位置や教室の様子のような、確かめておかねばならないことが全て頭に
入りません。
しかも帯は苦しいわ下駄は痛いわ。
きものといえばハレの日の正装ですが、着慣れていないとかえって
みっともないことになる、とよぉーくわかりましたですよ。

友人に、ヤケにきものの好きな女がいるのですが、彼女に言わせれば、
『普通そんなに締めないんだよ』とのこと。
でも、なにしろ、着付けなど知らない身。
一度着崩れたら、もう二度と直せないと思えばこそ、きつくても我慢しよう、
と思うのさー(汗)

こんなん書くと誤解されそうですが、きもの自体は、
もともと嫌いではないんですよ。
ただ、私の場合、興味の方向が「綺麗なきものを着たい」ではなく、
「綺麗なきものを見たい」…なのかもしれない。
天絹の滑らかさと独特の光沢、固く織り出した文様、
金糸・銀糸で縫い取られた、手の込んだ刺繍。
季節によって選ばれる柄や生地、鮮やかな小物の色あわせ。
そんなものを綺麗だなぁ、素敵だなぁと「見たい」のであって、
自分で身につけたいとは思わないって感じ。

きものに興味がある、というと、普通は着るほうでしょうから、
興味の方向としては、変わっているほうかも…
実際、それを言うと大抵のひとが『ハァ』という感じになって話続かない(笑)

あ、でも、紐と帯でぎゅうぎゅうの普通のきものと違って、浴衣は割と好き。
自宅で洗えるし、着付けもラクだし。値段も安くて惜しげが無いし。
訪問着では公園のベンチにすら座る気がしないけれど、
浴衣なら、その気になればハンカチ一枚で地べたにも座れそうな気安さがいい。
なんだ、要するにズボラだってことかな?

でも、きもの…「着物」という、全身全霊で
『我は衣服である!それ以外の何者でもない!』と主張してやまないシロモノが、
なんだって、こんなに勿体ぶっているのでしょうね。
手のかかった着物はもはや日用品ではなく、美術工芸品の扱いになっていて、
高ければ数千万の値段がついたりする。
で、なんか妙だなーと感じていたそれが、この本の中で形になっていました。

群ようこさん。
歯に衣着せぬ語り口の、このひとのエッセイは、以前から読んでいまして、
その内容から、彼女&彼女の母親ともに『やたらときものが好き』というのも
知ってはいました。
だから、この飾り気無い文章を書くひとが、一体どんなきものの着方をするの
だろうか、ということに興味惹かれたのですが…まずまず思ったとおり(笑)

『普段着としてのきもの』に焦点をあてて書かれた文章は、
それこそピンクブルーグリーンの華やか花模様~というよそ行きの訪問着より、
がっちりした生地の紬や大島、といった、堅実コース中心に書かれていて、
なんか納得。
呉服屋さんに特有のやわらか~な物腰で、暗にプレッシャーをかけてくる、
湿った藁半紙のようなネットリ感にも触れており、
そのへんは私も、過去に数度出合った呉服関係の店で感じていたので、
余計にうんうん、そうそう!という感じ。

そういえば、以前友人に
『きものは着物なのに、なんで普段着じゃ無いんだろう』
というようなことを言ったら、
『普段着ればいいじゃん』と、ハァ?何言ってんの?調で言われたことも
ありましたっけね(笑)
普段から、何もなくてもきものを着てたりする彼女にしてみれば
『普段着れない』という思い込みそのものが妙に感じるんだろうなぁ。
でもやっぱし、私のようにエンの無いひとから見たら、
きものはハレの日のもの、なんだよな~。

つか、いるのか? きもので普段着。

「絶体絶命都市2~凍てついた記憶たち~」

2006-08-29 05:48:38 | 商業ゲーム(コンシューマ)

そして、
「絶体絶命都市2~凍てついた記憶たち~」
公式ページ(絶体絶命川柳は最高面白いです)
香華園@絶体絶命都市2攻略!(管理人さんのキャラ紹介が秀逸なのでリンク)

買っちゃったもんね(笑)
そして、現在既に一度エンディングを迎え、2周目に突入しています。
いやあ、やっぱり迫力あるわー。コレ。
これをやるために、わざわざコントローラも新調したのですが、
それすらもまた壊してしまいそうなほど、やってて力入る~
最後の塔上りも健在。ただ、アクションの難易度はちょっと下がったかな。

前回は、主人公が気付いた時は既に被災済の「絶体絶命『無人』都市」
であったのですが、
今回は、まさしく人が生活している日常から壊していくやり方で、
そこに巻き込まれる人々の、それぞれの姿を複数の主人公の目線から
追っていく…てカンジ。
もちろん、町には人影が大勢います。そこにいきなり災害が…

惜しむらくは、破壊の魅力満載の迫力映像や、アクションの愉しさに比べて
シナリオが今ひとつだってこと。
ちょっと選ぶの躊躇うくらい、多くの選択肢が選べるくせに、
ストーリー分岐まるで無しってあんまりじゃない(笑)
真実はひとつ! …とはいえ、何を選んでも、結果が一緒じゃつまんないよ。
選択肢は多くなくてもいいから、選び方次第で、最後に到達する「真実」が
複数あったら面白かったな。

確かに、操作するキャラクターの性格を極悪にしてみたり、変態にしてみたり、
そういう意味のタノしさはあるんだけどさ、それに対する他のキャラの
反応の幅が無いんだもん。
7つくらい選択肢あっても、やって楽しい反応が返ってくるのは一つか二つ。
相手のキャラの反応が無表情で、こちらが何をやってもその後の反応に
影響しないから、いくら熱いセリフを言っても、極悪なセリフを吐いても
どこか唐突で不自然。
一人で何やってんの?ってムードが漂ってしまう…なんかギクシャクした感じ。
これではほとんど自己妄想系のプレイに近い。

最後のエンディングに使われる「手記」もねー…
単純にここはこの選択肢を選びました、みたいな箇条書きじゃなくて、
もっと洗練された文章だったら良かったのに。
エンディングをセーブできるようにもなってるけど、
この「手記」をわざわざ残して、見直す気にはなれないよ。背景黒一色だし。
せめて、それぞれの場面を静止画でいくつか出してくれればまだ良かったのにな。
こういうゲームだと、登場人物の綺麗な顔を見られる機会もそう無いし。

絶体絶命都市の開発者は、そこんとこがどうも弱いような気がする。
前回も、ヒロインを選べて好感度があるわりには、相手の反応が悪かった。
とおりいっぺんの、プログラム的な処理で分岐するだけで、
それ以上の『キャラクターの魅力』がなかった。
今回は、前回よりもずっとマシになった…とはいえ、
やっぱり満足度はいまひとつ。

ああ、でも、いぢめられっこの女の子が主人公のシナリオで、
いぢめていた子を罵る部分だけは、なんかすごく極悪で良かったぞ!(笑)
あと、無実の罪を着せられた主人公が、ずっと騙されていた相手との会話で、
『私の愛を受け入れないなんてどういうつもり?!』
『だ、だって僕にも好みというものが…』というのも、ちょっと笑えたかな。

ゲームそのものはとても魅力があるのだから、シナリオ部分にもっとドラマ性を
もたせて広がりを出し、人間っぽい魅力をキャラクターに持たせられれば、
プレイヤーの幅も広がると思うんだけどな。
今回も、ダムが壊れて、その下に昔の村が現れたときの『ああ、ここが…』って
いう感慨があったし。
ああ、なんていうのかなぁ…ものすごく惜しい! もう少しだけガンバレ! 

…うん、まぁ…結局のところは、容量の問題なのかもしれないけどね。

処理落ちは、私の感じでは前作よりはずっとマシになってます。
ていうか、処理の重い部分ではわざと画面をスローにしてみたり、
気にならないような工夫をしてるのかな。多分。
少なくとも、前のように、急いで走りたい緊迫した状況で、
いくらスティック倒しても動かなーい!といったストレスは感じなかったよ。

システム的な不満としては、ロード・セーブの時間が長すぎること。
セーブしようと思うと読み込み&書き込みで一分近くかかる。
やっててすごいストレス。
ウザいからセーブしないで進んでると即死、最初からやり直しって…悲しすぎる。

あと、セーブをやめますか?なんていちいち聞かず、
Bキャンセルで戻れるようにしてってカンジ。
せめてデフォルトでカーソルの位置を「やめる」の場所に置いてくれぇ。
ボタン早押ししてると、いつまでたってもセーブ画面から抜けられないっす(涙)
よく見てないお前が間抜けだと言われればそうなんだけどさー、
Bキャンセルって、ゲーマーにとってはもう本能みたいなもんでしょ(笑)

ああ、なんか結局、レビューというよりダメ出しになってしまったよ(笑)

うん、でもね、好きなものだからこそ、もう少しここが!て気分になるのさ。
単純に銃を乱射するサバイバルゲームに比べて、
都市の大型災害から生き延びるっていうのは、従来無かった発想だし。

もともとシナリオ中心のロープレなら、同じようなシステムで
どんどん違う話を作れるし、回を重ねれば、その分開発側もスキルアップ
していくわけでしょう。
でも、こういうタイプのゲームは、無限にネタがあるわけじゃないだけに、
一作一作が大切だと思うわけよ。
どれだけ面白くても3作4作5作と続けば「またこれか」て気分になるだろうし。
それでも続けていけるなら、その見込みは、やはり魅力あるシナリオにしか
無いと思うんだ。

すでに、絶体絶命都市3の計画は出ているそうなんだけど…
期待半分。心配半分。

***

それにしても、昨今の携帯ゲーム機ブームのせいか、
ご家庭用の高画質(笑)ゲーム機が伸び悩んでいるね。
プレステ3もXbox360も、Wiiも、とにかく高価になっちゃって、
到底まだ「汎用機」と言える段階じゃないと思う。
特にプレステ3は廉価版で6万円…。

ここまで価格差がついてしまうと、開発側にも影響ありそうでなんか嫌ー。
高額ゲーム機ではビッグタイトルで売れ行きの見込める大作しか出せず、
残りは容量的にも画像的にも制限される携帯ゲーム機で作るしかなくなるのでは。
中間規模のいいゲームが出なくなりそう。

特に、今回の絶体絶命都市みたいなゲームは、
大きい画面でやって欲しいんだよね。
というか、作る側も、それを想定して作ってると思う。
容量が入るからって、なんでも縮小すりゃいいってものじゃない。
向き不向きや、画面の大きさに見合った構成ってものがあるでしょ。
携帯ゲームで昔のドラクエやったら、キャラクターなんか豆じゃんかぁ(駄々)

「屍鬼」 小野不由美

2006-08-29 03:40:32 | 本(小説)

「屍鬼」 小野不由美
新潮社 1998年
2002年 文庫化

***

前回のブログの後、改めて読み込んで、なんと人物相関図まで
作ってしまいましたとですよ(笑)
舞台が田舎の村ということで、同じ苗字の親族が一杯出てくるものだからー。
同じ人間が、屋号やら職業やら誰の息子だとやら、
全然違う呼び名で繰り返し登場したりするので、
今回二周目を読んではじめて
「おお、ここのコイツとこっちのコイツは同一人物か」なんて
新たな発見があったりするわけです。
(どっちにしてもマニアな読み方ではあるかもしれない)

書き抜いた登場人物名は、なんと総勢165名。
もちろん、村人の噂話で出てくるチョイ役もあるんですが、
これだけの人数に固有名詞をわりふって、それぞれの生活を作り出した
実力はさすが。
冒頭の、村の立地状況の描写に始まり、日本の田舎の閉塞感というか
怖いくらいの団結っぷりをとてもリアルに描いています。
つか、この人『世界』を立ち上げるのが本当にうまいなー。

===

11月8日、溝辺町北西部の集落で火災が発生した。
折からの乾燥と、初期動作の遅れのため、被害は拡大。
火元である集落…外場村は、周囲の山林を巻き込み、完全に焼け落ちる。
だが、それはひとつの結果にすぎなかった。
その数ヶ月前…7月の終わりに、すでに悲劇の幕はあがっていたのだ。

外からやってきた『余所者』の一家、原因不明の死の病、広がる不安と違和感。
人口1300に満たない、小さくも平和な寒村に、少しづつ何かが入り混じり、
その姿を変容させていく。
「起き上がり」と呼ばれる、蘇る死者たちの背後にいるものは、神か、悪魔か。
果たして、最後に残るのは人間か、屍鬼か。

===

冒頭に、『ジェルサレム・ロットに捧げる』の一文があるとおり、
これはスティーブン・キングの「呪われた町」のオマージュかと思われます。
それにちょっと、アン・ライスの「インタビュー・ウィズ・ヴァンパイア」
入ってるカンジ。
呪われた町も、吸血鬼がある田舎村に引っ越してきて、
どんどん村人を襲っていく話ですし、ラストも似てると思った。
呪われた町を事前に読んでいるひとは、ああこれは…と思うんじゃないかな。
ただこの作品は『わぁ似てる』で済まないだけの重みというか、
ボリュームというか、とにかく迫力がありました。
単に設定貰ったよってだけじゃない、本当に、それを芯にして
自分だけの世界…『外場村』という場を作り上げてしまっているのです。

もうね、異常なくらいの過設定ですよ(笑)
絶対、作品にしていないところまで、一人一人の性格とかエピソードを
全部作ってると思う。
小説を読み慣れない人だと、多分、次々出てくる名前の渦に混乱してしまうかも。
閉鎖的な村だけあって、同じような苗字多いし。

そんな調子で、ハードカバー上下巻のうち上巻は、
かなり和製スティーブン・キング風なんですが、
下巻になるとガラリと感じが変わります。
何故なら…そこから今度は、メインの視点が吸血鬼…「屍鬼」側に傾くから。
この辺りから、物語はホラーというより悲哀の色を濃くしていきます。

同じ作者の「黒祠の島」でも思ったのですけど、このひと…
「人間以外のものの常識」からものを見る話が好きなんですね。
考えてみれば、十二国記シリーズも、既存の常識のあてはまらない世界ですし。
その『場』に漂う、見えない空気のような常識感をつくりだすのが上手いから、
作り出す世界にも説得力があるのかな。たぶん。

ちなみに「黒祠の島」は、やはり離島の閉鎖的な村を舞台に起こる惨劇の話です。
殺し方はグロいんだけど、そこがメインの話じゃないんで(笑)
横溝正史が読めれば多分大丈夫。推理小説なのかと思えばそうでもないような。
これもジャンル分けし難い作品でした。

さて、話を屍鬼に戻して。
物語の中で、重要な位置を占めている…主人公格の一人、
人間と屍鬼どちらにもつけない男、寺の若き副住職、静信の迷いは、
正直、途中でちょっとダレ気味。
小説家でもある彼の、執筆途中の作品を通じて、
隠された心理を解き明かすという試みはとても面白かったのだけど…

特に後半部分、私には、彼のその悩みに共感できなかったので。
『何いつまでも悩んでんの? 自分に酔ってるの?』て感じになっちゃって(笑)
『結局お前は見た目13歳の少女に惹かれているんだな? ロリコンめ』
とかさ(笑)

この物語、映画とかアニメにしても、けっこう面白そうなんだけどなー。
ただ、テーマが吸血鬼。そういうのって、メディア側の扱いが雑なんだよね。
キワもの扱いっていうか。
物語のボリュームも凄いし、映画だと入りきらない…
さりとて、連ドラは一般向け用に薄っぺらい話にされるだろうし、
やるとしたら、結局若いアイドルに声優やらせて、そこを一本ピンに立て、
後の人物は添え物として適当に、なんて、原型留めないようなトンデモナイ
ものにされてしまうかも。
着信アリだって、ドラマになったら『なんちゃってホラー』にされたし。
そう思うと…やっぱり小説のままがいいのかな。

この胸いっぱいの愛を

2006-08-13 03:12:29 | 映画(邦画)

「この胸いっぱいの愛を」 2005年
監督:塩田明彦
出演:伊藤英明、ミムラ、勝地涼、宮藤官九郎

公式ページ

***

一大ブームを巻き起こした「黄泉がえり」の原作を書いた
カジシンこと梶尾真治の作品の映画化です。

柳の下の2匹めのドジョウは…やっぱりいないかも。
多分こうかな?と先が見えちゃうぶん、感動ウスめなんだな。
黄泉がえりに比べて、話がメロドラマすぎるのもちょっとね。
関係ないけど、ミムラがどうしても管野美穂に見えるのは私だけ?(汗)

===

出張で、自分が子供時代を過ごした北九州の門司を訪れた鈴谷比呂志。
昔と変わらぬ風景を懐かしみ、その頃住んでいた祖母の旅館を尋ねた彼は、
そこで一人の少年に出会う。
見覚えのあるその姿は、20年前の自分自身だった。

混乱して町を彷徨ううち、比呂志は、九州までの飛行機で一緒だった
二人の乗客と出会い、自分たちが確かに、過去の世界にいると確信する。
なんのために、自分たちはここに来たのか。
乗客の一人、臼井は、自分が出会ったもう一人の乗客の、盲目の婦人の例を出し、
何か自分たちがこの時代でやり残したことを、もう一度やりなおすために
来たのではないかという。
そして、比呂志には確かに一つだけ、心残りな思い出があった。

いつも、比呂志を可愛がってくれた「和美姉ちゃん」。
バイオリニストを目指していた彼女は、この頃、難病にかかっており、
絶望のため手術を拒否してこの世を去ってしまうのだ。

今度こそ、和美姉ちゃんを助ける。
比呂志はそのために、実家である旅館に住み込み、昔の自分と共同生活を始める。

===

うーん、黄泉がえりがすごく好きだったひとは、一度見てもいいかもしれない
…て程度かな。
悪くはないんだけど…別にすごく良くもない、ていうか2番煎じの域を超えない。
どうせならもっと原作に近く、SF色を強くすれば良かったのに。
5段階評価で常に真ん中? って感じで心に残らないなぁ。

ただ、黄泉がえりを見なかった人&純愛モノが好きなひとには、
案外ウケるかもしらん。

夢の話

2006-08-12 02:22:03 | 雑事

薄暗い、コンクリート打ちっぱなしの、半地下の部屋。
そこに、カーキ色の制服を着た数人の男性が、思いつめた顔で座っている。
そのうち一人の顔はまだ若い…まだ、18にもならない、私の息子。

彼らは、これからここで、自決するのだ。
いまや失われつつある…いや、既に失われたであろう、故国の誇りのために。 

息子にかける言葉は無い。口を開けば、奇麗事しか出ないことはわかっていた。
立派に勤めを果たしなさい、そんな言葉が、今、一体なんになるだろう。

つかの間の、最後の別れのあと、鉄製の重い扉が閉められる。
薄明かりの中、最後に浮かび上がった息子の手には、
毒物で満たされたコップがすでに握られていた。

その場を離れると、遠くから、鈍い振動が地面を伝わってきた。
また爆撃が始まったのだ。
頭を抱えるように逃げ、奥の部屋に逃げ込む。
この建物は、とても頑強にできているし、狙われるような需要な設備も無い。
何より、私はそれ以上避難する気にはなれなかったのだ。
私の一人息子が、あの暗い場所で自ら命を絶とうとしているこの時に、
自らの命など到底惜しむ気にはなれなかった。

振動は収まらない。爆撃はまだ続いている。
いや、むしろ爆音は近づいているようだ。

私は、堪えきれなくなって立ち上がった。
もしかしたら次の瞬間にも死ぬかもしれない、こんなときに、
何を好き好んで自分で命を捨てなければならないのか。
これは違う。こんなことが、許されるはずはない。

廊下を祈るような気持ちで駆け戻り、さきほど閉じられた扉の前に立つ。
どうか、間に合って。生きていて。
そう願いながら扉を開けると、うずくまった男が、
涙にくれてくしゃくしゃになった顔で振り返った。

…生きていてくれた。

ほっとする傍らで、息子は泣きながら謝った。
見事に死ぬはずだった、死のうと思った、
しかし、怖くてどうしてもできなかったと。

顔を歪めて、感じる必要も無い恥辱に耳を赤くして。
それを見て、親としてなんて残酷なことを私は息子に課したのか、という後悔の念が湧く。、
私はいつしか涙しながら、ただただ、いいんだ、生きていていいんだ、と呟いて、
その身体を抱きしめていた。
例え、周囲が息子を裏切り者扱いしようとも、
自分は一緒に歩いていくのだ、と心に決めながら。


***

先日見た夢の内容です。多分、終戦記念日かお盆が近いせいでしょうかねぇ。
何にせよ、こんな内容は夢のままであってほしい。未来永劫。


マシニスト

2006-08-12 01:56:34 | 映画(ホラー)

「マシニスト」 2004年
監督:ブラッド・アンダーソン
出演:クリスチャン・ベイル、ジェニファー・ジェイソン・リー、
アイタナ・サンチェス・ギョン、ジョン・シャリアン

公式サイト

***

んん~、あの不気味くさいジャケットにワクワクして借りたんですが…
期待、外れ、だった、かも。
もっとこう、意外すぎる展開なのかと思ったんだよね…
ホラーの棚にあったから、分類をホラーにしたんだけど、
どちらかというとサイコ・サスペンスな内容かも。

===
機械工場に勤めるトレバーは、一年以上続く不眠症に悩んでいた。
死人のような顔色、がりがりに痩せた異様な風体。
周囲の人間が彼の異常な姿に、心配半分、不気味さ半分で接する中、
アイバンという同僚が工場にやってくる。
そして、彼の姿に気をとられた隙に起こった、同僚ミラーの片腕切断事故…
周囲の人間は、アイバンという男は存在せず、全てはトレバーのせいなのだという。
その頃からトレバーの周囲には、様々な不可解な出来事が起こり始めていた。

自宅に張られたハングドマン・ゲーム(特定の単語を当てる、言葉遊び)のメモは、
一体誰の仕業か。また、どんなメッセージをトレバーに伝えようとしているのか。
悪魔のように神出鬼没な『アイバン』の正体がわかった時、全ての謎は解き明かされる。
===

故意に色調を落とした画面は現実感が無く、
どこまでが現実で、どこまでが妄想なのか境界を甘くする効果抜群。
ただ、ジャケットの奇妙なポーズでインパクト十分だった痩せ細った身体は、
内容を見ると、思ったより不気味でもなんでもなく、
見て10分くらいで『…普通の映画じゃん』って気分になった。
うん、まぁ、つまり…私がジャケットから期待していたモノと違ったんですね(笑)

ネットでレビューを見ると、大抵の人が『途中で全部わかったよ』って書いてるんだけど、
私はけっこうギリギリまでわからなかったっす(鈍)

一番怖いと思ったのは、遊園地の乗り物のシーンですね。
がくんと後ろにのけぞった子供が白目で泡吹いてたら、悲鳴モノでしょう!
わが子が熱性ケイレンでガクガクいってるのを見て救急車を呼んだことがある身としては、
これ怖い。最高に怖い(涙)

「オカメインコに雨坊主」

2006-08-12 01:30:54 | 本(小説)

「オカメインコに雨坊主」 芦原すなお
文藝春秋 2000年

***

薄暗くてすずしい図書館の棚の間からこの本を引き抜いたのは、
別に何か動機があったわけじゃない。
強いて言えば、鳥スキーな私の目に「オカメインコ」の6文字が
飛び込んできたというだけだ。
でも、家に帰ってそのページを開いて、夕方ころに背表紙を閉じた時、
私はこの物語が、とても好きになっていた。

…なぁんてね。
「死をテーマにしたちょっといい物語」第一弾(笑)
内容はね、一人の男が田舎暮らしをする、というただそれだけのモノなんだけど。
なんか雰囲気が良くてねー。
だって、私にとってのどうにもヨワいキーワード、子供、夏、田舎が
揃い踏みなんだもんね。

ひとつ難を言えば、時代背景が古すぎること。
絶対これ50年代とか60年代とか…そのくらいの日本だと思うナァ。
しかも、いつの物語だと作中では書かれていないので、余計に読みながら
「アレ? なんか違うね」と躓くような気分になるのがちょっとね。

乗る列車が手動ドアだったり、旅館に芸者が来て騒いだり、
あと、通学する女の子の格好が凄い。オカッパ頭にランドセル、
片手に絵の具箱、片手に画板…
画板なんて、今、持って歩かないでしょ。
読んでから思わず「…古い本なの?」と奥付を見てしまった(笑)
図書館って、時々おっそろしく昔の本が並んでるから、それかなと。
そしたら出版は2000年。これは多分、著者自身がかなり年齢いってるんだな~

===
妻を亡くした画家の男が、電車に乗り間違ってたどり着いた田舎町。
帰りの電車もなく、宿もなく呆然としている時、
偶然チサノという小学生の少女に出会った彼は、その家に招かれることになる。
一晩過ごすだけのつもりだったその町は妙に居心地がよく、
なんとなしに彼は、間借りしていたチサノの家にそのまま居ついて
しまうのだった。

ゆったりと流れる時間、鷹揚として善良な人々、不思議な猫ミーコ、
昔溺れ死んだ少年である雨坊主、道に迷った主人公を助けに来るねえや。
この町では、人間とそうでないものとが、当然のように互いの存在を
認め合っていた。
===

全体にほのぼのした話が中心で、妙に婆さん臭い口をきくチサノをはじめとして、
登場人物たちが、それぞれいい味出してるんですよ~

特にアイルランド人の英語教師、ノートン・ホワイラーの、
カタコトの日本語で語られる言葉の数々は、とても堅実でまっとうで、
当たり前すぎて誰も口にしない言葉であるがゆえに、なんとなく心を打つものが。

雨坊主が昔、溺れ死んだ子供の幽霊だという話を聞いて、
『それはいけません。それは正しいことではありません』
(本がもう手元に無いのでウロ覚え)
と顔を顰めて言うシーンとか、
自分の親戚が亡くなったことを、虫の知らせで感じ取り、
死は決して無駄なものでは無いのだと自分の考えを説いた後で、
『でも、それでも私は、もう彼がいないということが、本当に悲しいのです』
と感情をポロリと漏らしてみたり、
当たり前のことを、わざわざ真面目に口にできるというまっすぐさが好感持てる。

これにハマって、芦原すなおさんの本を数冊読んでみたのですが、
他のものもそれぞれ時代が古く、あんまりピンときませんでした。
(大学の内ゲバ時代や、60年代ロックの話じゃねぇ)
この本も、時代設定が古いので若い世代のひとにはちょっと
奇異に感じる部分があるかも。

「優しい密室」

2006-08-07 13:10:07 | 本(小説)

「優しい密室」 栗本薫
講談社文庫 1983年

***

最近ブログを渡り歩いていて、ふと目にとまったひとつのブログ。
ネット上ではありふれた、ごく普通の女子高生…なんだけど、
なんとなく気になって、ちょくちょく覗いておりまする。

地元の進学校に通い、絵を描くのが好きで、
できればそれで将来身を立てたいと願っていて、
同じクラスのヲタクたちと同類に見られるのを嫌がり、
彼氏は無く、親や教師に対して反感と嫌悪のないまぜになった感情を抱き、
自分の容姿に自信が無く、それなのに周囲からは可愛いと言われることに
妙な警戒感を持っていて、すごく理にかなった言葉をつむぐ一方で、
自分を認めてくれない周囲に公然と不満を漏らし、
なりたい自分と、現実の自分のギャップに混乱し続けている…彼女。

なんか読んでて、あーー、わかるわ! という気分になる(笑)
そうそう! この年頃ってこんな感じ! みたいな…
一生懸命頑張っているんだけど、やはりどこかがイマイチ甘くて、
でも、それを自分でどうしていいのかわかんないー、て感じがね。

少し前に、古本屋でみつけた「優しい密室」(栗本薫、講談社文庫)
は、まさしくこんな感じの女子高生が主人公。
私がこれを読んだのは高校時代で、しかも同じような女子高紛いの環境であったので、
この本には本当に共感を覚え…そして、作中の伊集院大介の言葉に救われた。

最近の栗本薫氏は、ジェンダーの絡んだ愛憎関係の物語中心だけど、
昔はもちょっとサワヤカ系なお話も書いてたんだわ(笑)

===
名門女子高に通うカオルは、小説家志望の女の子。
退屈な日常をもてあます彼女の前に、ある日、
教育実習でやってきた不思議な教師、伊集院大介があらわれる。
女ばかりの場所に突然やってきた「異性」の存在に、生徒たちが浮き足立つ中、
校内にある体育用具室で、チンピラの他殺死体が発見される。
カオルは、それを自分の力で解決しようと決心するが…
===

なにしろ古いですからねぇ。
今では死後になっちゃった言葉も多いですよ。
妊娠をD、中絶をIと言ったり、スケバン、なんて言葉は今でも使うのでしょうか?(汗)
多分、私と同じくらいの世代の人なら、多分わかると思うんだけど(笑)
で、推理やトリック自体は、さほど凄いものじゃない。
この話の魅力は、まさに伊集院大介が、森カオルに語る言葉の数々だと思う。

「あなたは、何だか、かわいそうですね。
あなたは、あなたのいまいる年齢とぜんぜんあっていないんだね。
でも、そういうのって一時的なものだから…そんな気がするな。
いまに、あなた自身と、あなたのまわりが、ピントがあうからね。
きっとそうなるよ」

作中のこの言葉を心の中でつぶやきつつ、私は今日も彼女のブログを訪れる。

なんか全然レビューじゃないな… やっぱり不調(汗)