近所の幼稚園の空高く
鯉のぼりが気持ちよさそうに泳いでいます。
これほど平和で邪気のない風景は
ないのではないでしょうか。
子供たちの健やかな成長を願って掲げる鯉のぼり。
私も旧家の長男坊でしたから
別染めの立派な鯉のぼりをあつらえて貰い
子供の日には庭の真ん中に高々とした幟を立てて
家族に祝ってもらった記憶があります。
昔気質の祖父は惣領息子の誕生を心から喜んでいました。
鯉のぼりは家族の幸せと分かちがたい
まさに喜びのシンボルのようなものでしたが・・・
五年前、被災地・石巻で見た鯉のぼりは
訪れる人もない縹渺たる更地で
冷たい風に寂しく吹きさらされていました。
門脇小学校。大川小学校・・・
あの日の津波でいったい何人の子供たちが犠牲になったことか。
健やかな成長を願うはずの鯉のぼりは
一瞬にして「鎮魂の鯉のぼり」になってしまったのでした。
こんなに悲しく切ない鯉のぼりの風景を
私は見たことがありません。
見渡す限りの更地が続く大地には
やがて地元の人が「山背」と呼ぶ海霧が立ち込めて来て
五月とは思えぬ肌寒でした。
先日、東北旅行をした息子がやはり石巻を訪ねましたが
私が五年前に見た風景がそのままま
寸分違わず広がっていたことが本当にショックでした。
何も変わっていないんですねえ。
風景だけでなく我が子を失った親の悲しみも
何も変わっていないんですねえ。