女房は友達と鎌倉旅行に出かけた。
北鎌倉駅から鎌倉駅まで歩いて、寺巡りをするそうだ。
俺は朝早く、女房をクルマで駅まで運んだ。
今日は昼も夜も、俺一人で食べなければならないのだ。
しかし、俺は女房がいないから、寂しいどころか、うれしいのだ。
こんなときは、女房に干渉されることなく、思いっきり料理の練習ができるからだ。
さて、スーパーへ買い物に出かけようとしたが、昨日から痛みだした腰がまだ痛む。
安静が必要だ。外出をひかえなければならない。
俺はお昼を食べようと冷蔵庫を探したが、ろくなものがない。
仕方がないから、残りご飯で、おかゆを作ることにした。
材料は、ご飯と水とダシと卵が一つあればよい。
土鍋でおかゆを作ろうとしたが、土鍋がどこにあるか分からない。
やっと一番上の戸棚の奥で見つけた。
めったに使うことがないから、奥にしまったのだろう。
腰が痛いときは探すのも容易なことではない。
土鍋にご飯を少し入れてから、水をたっぷり入れた。
ぐずぐずと煮たってきてから、粉末のダシを入れてかき混ぜて蓋をした。
それから卵をといて入れた。
火を止めて、むらして出来上がりだ。
おかゆを、お茶碗へよそり、赤いイクラをトッピング。
いろどりが良いので俺は満足。
食べてみた。以外にも美味しい。
女房がいなくたって、俺は一人で食べていけるぞと、おさじで、おかゆを口へ運ぶ。
そしてほほえんだ。俺は満足だ。
しかし、ふたくち、みくちまでは良かったが、さらに食べていくと、何だか変な気持ちになった。
柔らかいおかゆだ。これは介護食ではないか。
歯がなくなっても、食べられそうだ。
噛む力が弱っても、口から胃袋の中に流すことができそうだ。
いつか俺は、こんなどろどろのおかゆしか食べられなくなる日がくるかも知れないのだ。
俺は気持ちが沈んできた。
食べ終わってから、ガスレンジを見た。
土鍋から吹きこぼれたおかゆの汁が、レンジの周りにたまっている。
俺はぼろきれで拭き取ったが、まだ汚れが目立つ。
女房が帰ってくるまでに洗っておかなければならない。
気持ちが沈むなあ。
女房は今頃、鎌倉のレストランで、めったに食べられない美味しいランチを、友達とにこやかに食べているだろうなあ。