上原正三『金城哲夫 ウルトラマン島唄』(筑摩書房、1999年)を読む。
脚本家・上原正三の名作といえば、『帰ってきたウルトラマン』第33話の「怪獣使いと少年」である。貧しい共同生活をするアイヌの孤児と、在日コリアンの老人。かれらを一般市民は容赦なく差別し、嘲笑し、暴力さえも加える。わたしがそれを再放送で何度も観た幼少時、登場人物たちの出自に関する設定については理解していなかったが、一般市民がいとも簡単に加害の側に立つことにショックを覚えた。そのような体験をした40-50代の人たちはおそらくかなり多くて、是枝裕和もテレビドキュメンタリー『シリーズ憲法 〜第9条・戦争放棄「忘却」〜』(2006年)においてそのことを語っている。
しかし、本書には「怪獣使いと少年」への言及はない。上原氏にとって、時代を切り開いた作品は、『ウルトラQ』であり、『ウルトラマン』であり、『ウルトラセブン』なのだった。そのパイオニアが、金城哲夫や円谷英二であった。金城哲夫はこんこんと湧き出るアイデアとヴァイタリティによって、円谷英二は厳しすぎるほどの特撮への情熱をもって、日本に特撮物・怪獣物を定着させた。そのことが本書を読むと実感できる。
その金城哲夫も、上原正三も、沖縄を心の中に抱えもつ「ウチナーンチュ」であった。それはかれらの手掛けた回において見え隠れするものであり、特に金城にとっては「対馬丸」を『怪奇大作戦』のドラマに入れられなかった悔しさがあったようだ。やがて金城は疲弊して沖縄に帰り、郷里でも自らを精神的に追い詰め、自宅の2階から落下して亡くなってしまう。(なお、金城哲夫の実家「松風苑」はいまも南風原町で営業しており、離れの金城の部屋も保存されている。いちど見せていただいたのだが、本棚には確かに沖縄の歴史や社会に関する本が多く、また安部公房『箱男』なんかもあった記憶がある。)
ところで、本書には、沖縄に住んでドキュメンタリーを撮っていた時代の森口豁さんについても書いてある(1963年の『乾いた沖縄』についても)。わたしも、以前に、森口さんが金城哲夫のことを話すのを少しだけ訊いたことがあった。機会があればもっとお話を伺ってみたい。
●参照
怪獣は反体制のシンボルだった
『OHの肖像 大伴昌司とその時代』
『怪獣と美術』 貴重な成田亨の作品
佐野眞一『僕の島は戦場だった 封印された沖縄戦の記憶』
『大怪獣バトル ウルトラ銀河伝説』 これはもう宗教(2009年)
ウルトラマンの新しい映画(2008年)