怪人デイヴィッド・モスの作品を適当に集めてもいたのだけど、『Dense Band Live in Europe』(Ear-Rational、1987年)にいちばんの愛着がある。最近ふとアナログ盤が目について、CDを持っているのについ入手してしまった。この過激なる手作業感あふれる音楽にはヴァイナルがふさわしいような気がして。
David Moss (ds, vo)
Wayne Horvitz (DX7, DX100, harmonica)
Christian Marclay (turntables, records)
Jon Rose (19-string cello, vln)
Jean Chaine (b)
メンバーの顔ぶれは一時代前の前衛オヤジばかりのようだが、もちろん今聴いても面白い。手作業的なものは古びることがないのだ。
何しろモスのスキゾ(笑)的な、他者の物語にのせられることを拒絶するようなドラムスと、アナーキーな声。そしてクリスチャン・マークレイはいつもカッコいい。ターンテーブル使いとしては、このあとモスは大友良英とも共演している(モス、大友、ジョン・キングのトリオ『All At Once At Any Time』、1994年)。モスはふたりの違いをどう見ただろう。
1996年11月25日に(なぜ正確に覚えているのかといえば、巻上公一さんのサイトに細かな年譜があったからだ)、六本木にかつてあったロマーニッシェス・カフェで、モス、大友、ハイナー・ゲッベルス、巻上、ジャンニ・ジェビアというメンバーでのライヴを観たことがある。大友さんはまだターンテーブルのみを演奏していて、それを傾けていくのを皆が注視、針が滑った途端にどしゃめしゃと演奏を始めたりしていた。ゲッベルスはピアノから張ったロープを弄んでいた。モスはといえば、途中でドラムセットを前に居眠りしていたりして、ひたすらアナーキーだった。
副島輝人『現代ジャズの潮流』には、モスが出てきたころの即興シーンについて書かれている。マイルス・デイヴィスがいなくなって、なんでもできるようになったのだといったモスの言葉もあって、スタイルがまるで違うのに何じゃらほいとしか最初は思えなかった。しかし、それは権力であったのだ。そしてヒエラルキーやスタイルや曲や構成や紳士的なるものといった権力を過剰に無化するモスの音楽があったわけである。