Sightsong

自縄自縛日記

佐藤正典『海をよみがえらせる』

2014-02-02 20:46:55 | 環境・自然

佐藤正典『海をよみがえらせる 諫早湾の再生から考える』(岩波ブックレット、2014年)を読む。

有明海・諫早湾の奥に建設された堤防が完成した1997年から、もうすぐ14年が経つ。必要性や環境破壊の観点から異議が申し立てられようとも、日本型公共事業の典型として、止まることがなかった。

干拓地は農地化され、堤防と干拓地との間の調整池は、予想された通り、水質が悪化した。そのために、調整池の水は、農地には使われていない(調整池に注ぐ川の河口から取水されている)。調整池の外側でも水質が急激に悪化した。これも予想されたことである。

漁業者が裁判を起こし、佐賀地裁および福岡高裁は、漁業被害の原因との因果関係を認め、国に対し、堤防の5年間の開門を命じた(国は上告しなかったため判決確定)。その期限は2013年12月20日であったにも関わらず、2014年2月2日現在、いまだ国は開門調査を実施していない。

一方、干拓地の営農者は、国に対する開門差し止めの訴えを起こし、長崎地裁は、差し止めを命じる決定を下した(2013年11月)。長崎県も開門に反対の立場である。これに対し農水省は異議を申し立てた。もはや泥仕合そのものだ。

本書に書かれているように、漁業汚染が発生することが予想されていたにも関わらず事業が強行された結果、漁業者も営農者も被害者になってしまったのだろう。

営農者は、いまでも調整池から取水していないとは言え、開門されれば、河口部からの取水も不可能になるという。本書にも、営農者にとっての新たな被害対策をどうすべきかについては述べられていない。おそらく、答えとなるべき手段は国による補償か。

本書によれば、開門して海水を調整池に流入させ、水の行き来をつくりだせば、かなりの環境復元を見込むことができる。既に、三重県英虞湾において、遊休地となった干拓地を干潟に戻す再生が、良い結果を出しているという。カチカチの堤防がなくても、自然再生によりあらわれる干潟やヨシ原が「緩衝地帯」となり、防災対策にもなる。そのような形の再生事業をすすめていくべきだとする主張には、説得力がある。

●参照
『科学』の有明海特集
『有明海の干潟漁』(有明海の驚異的な漁法)
下村兼史『或日の干潟』(有明海や三番瀬の映像)


『けーし風』読者の集い(22) 軍用地の返還と地域の自立を考える

2014-02-02 20:08:27 | 沖縄

『けーし風』第81号(2013.12、新沖縄フォーラム刊行会議)の読者会に参加した(2014/2/1、あんさんぶる荻窪)。参加者は10人、プラス、飲み会に2人。

 

本号の特集は「軍用地の返還と地域の自立を考える」と題されている。

明らかに自治と自律的な経済・社会がなりたつことを疎外している基地に関して、いかにして返還を要求し、その際の汚染除去を求め、さらに返還後の利用を想定していくか。(いまでは基地への経済依存はかなり小さいものとなり、逆に、マイナス面ばかりが拡大再生産されている。)

以下のような視点、論点。

○沖縄の批評誌『N27』。かつての『EDGE』のように多彩な文化を取り入れた雑誌で読み応えがある。
沖縄タイムス『基地で働く』。昔から沖縄では米軍に関する実証的な検討結果が出されている。来間泰男『沖縄の米軍基地と軍用地料』もみるべき成果。それらに比べ、佐野眞一『沖縄 誰にも書かれたくなかった戦後史』における記述には疑問があるとのこと。
辺野古の新基地の建設費はおそろしいほど高い。維持費も普天間に比べ劇的に高くなる。アメリカ会計検査院(GAO)の公表によれば、洗機場(辺野古の環境アセスにおいて「後出しジャンケン」のように登場)では真水を使い、また使用後の水処理も必要であり、これがコストアップの一因であるという。また、駐留米軍のコストの7割を日本政府が負担しているという数字がある(「思いやり予算」だけではない)。こういったことが知られなければならない。NHKの特集番組でも、コストについては言及されない。
○伊波洋一さん(元宜野湾市長)が、宜野湾市大山の名産の田いも(ターンム)について話した記事。換金性が高い作物ゆえ地域経済にとっての意義が大きい。かつては、伊佐浜(「銃剣とブルドーザー」によって住民が追い出された地域)や名護市にも美田があったが、米軍基地によって消滅させられた歴史があるという。
○普天間の地下が琉球石灰岩によって涵養された地下水脈であり、そのために大山の田いも栽培が出来ている。それゆえ、返還後も、基地による汚染を視ていかなければならない。
日米地位協定においては、基地返還時に、汚染浄化の責務は米国にはないこととされている。しかし、それを明らかにしてはならないとは書かれていないし、米国がその作業をしてはならないとも書かれていない。(ソウル・ブルームさん)
○沖縄の米軍基地問題について、海外有識者(ノーム・チョムスキー、ジョン・ダワー、ガバン・マコーマックら)が出した声明。沖縄では大きく報道されているが、「本土」ではさほどでもない。報道を嫌がる向きもあるのだろう。
○東京都知事選のゆくえ。
○沖縄県知事選のゆくえ。
○沖縄が「オール沖縄」となりえていることは、民主運動の到達点だとする評価。
○辺野古近くの大浦湾で、防衛省はジュゴンの目視を31回もしており、海草の食み跡さえ見つけていた。しかし、この事実は情報開示請求によってはじめて明らかになり、当然、環境アセスには反映されていない。
○辺野古の環境アセスが適切な方法を取らなかったことについては、控訴審が始まっている。また、公有水面埋立法の第4条には、環境保全上適切でない事業には埋立許可が出されないことがうたわれており、ここにも抵触する。
○軍民共用の那覇空港における第二滑走路計画の問題。辺野古と同じく、米軍と自衛隊の強化という観点。すなわち、沖縄の負担軽減を掲げつつ、実は軍備強化という結果となっている。
オスプレイの低空飛行には法的根拠がないという指摘。現在は米軍機ゆえ、日本の航空法の対象外となっているが、自衛隊が購入する分についてはどうなるのか(オートローテーション機能がないため、現行法では飛べない筈)。