佐藤正典『海をよみがえらせる 諫早湾の再生から考える』(岩波ブックレット、2014年)を読む。
有明海・諫早湾の奥に建設された堤防が完成した1997年から、もうすぐ14年が経つ。必要性や環境破壊の観点から異議が申し立てられようとも、日本型公共事業の典型として、止まることがなかった。
干拓地は農地化され、堤防と干拓地との間の調整池は、予想された通り、水質が悪化した。そのために、調整池の水は、農地には使われていない(調整池に注ぐ川の河口から取水されている)。調整池の外側でも水質が急激に悪化した。これも予想されたことである。
漁業者が裁判を起こし、佐賀地裁および福岡高裁は、漁業被害の原因との因果関係を認め、国に対し、堤防の5年間の開門を命じた(国は上告しなかったため判決確定)。その期限は2013年12月20日であったにも関わらず、2014年2月2日現在、いまだ国は開門調査を実施していない。
一方、干拓地の営農者は、国に対する開門差し止めの訴えを起こし、長崎地裁は、差し止めを命じる決定を下した(2013年11月)。長崎県も開門に反対の立場である。これに対し農水省は異議を申し立てた。もはや泥仕合そのものだ。
本書に書かれているように、漁業汚染が発生することが予想されていたにも関わらず事業が強行された結果、漁業者も営農者も被害者になってしまったのだろう。
営農者は、いまでも調整池から取水していないとは言え、開門されれば、河口部からの取水も不可能になるという。本書にも、営農者にとっての新たな被害対策をどうすべきかについては述べられていない。おそらく、答えとなるべき手段は国による補償か。
本書によれば、開門して海水を調整池に流入させ、水の行き来をつくりだせば、かなりの環境復元を見込むことができる。既に、三重県英虞湾において、遊休地となった干拓地を干潟に戻す再生が、良い結果を出しているという。カチカチの堤防がなくても、自然再生によりあらわれる干潟やヨシ原が「緩衝地帯」となり、防災対策にもなる。そのような形の再生事業をすすめていくべきだとする主張には、説得力がある。
●参照
○『科学』の有明海特集
○『有明海の干潟漁』(有明海の驚異的な漁法)
○下村兼史『或日の干潟』(有明海や三番瀬の映像)