Sightsong

自縄自縛日記

キース・ティペット@新宿ピットイン

2013-03-17 23:22:54 | アヴァンギャルド・ジャズ

新宿ピットインで、キース・ティペットのソロピアノを聴く。

定刻の20時きっかりに開始した。最初は、抑えめの抒情的なブルース。やがて、得意の低音の繰り返しを基調とした盛り上がりがあったり、まるで童歌のようなメロディーがあったり。

やはり、トレードマークのようなプリペアド・ピアノが効果的で、木のブロックや、でんでん太鼓のようなものや、オルゴールといったものを、弦の上に置き、すばやく移動させていた。ヒンドゥー寺院や曼荼羅が空間の埋め尽くしなのだとすれば、このプリパレーションによるノイズは、時間と意識の埋め尽くしのように思えた。

たいへんな緊張感が続き、きっかり1時間ののち、鍵盤を撫でるようにして演奏を終えた。そして、アンコールに応えて短い曲。素晴らしいパフォーマンスだった。

ツイードのジャケットをスタイリッシュに着こなし、観客とのコミュニケーションについて感謝のことばを述べるティペットは、やはり、英国紳士なのだった。声をかけてサインをいただくとき、1997年に観たことを云うと、「妻(ジュリー・ティペット)との共演か?」と訊かれた。いや、ソロだったのだが、別公演では一緒のステージだったのかどうか、まったく覚えていない。


演奏後、ティペットにサインをいただいた

●参照
キース・ティペットのソロピアノ
キース・ティペット『Ovary Lodge』


キース・ティペットのソロピアノ

2013-03-17 11:29:25 | アヴァンギャルド・ジャズ

今晩、キース・ティペットのソロピアノを聴きに行く。何しろ1997年以来である。

1997年。法政大学でのパフォーマンスは素晴らしく、観客は皆興奮してアンコールの拍手を繰り返した。いちどは応えて短いソロを弾いたティペットだったが、二度目には、「ありがとう。しかしわたしはこのように老いた男だ」と誠実に言って、挨拶だけにとどめた。

しかし、そのとき、まだ50歳なのだった。いまは65歳。新宿ピットインで、どのような演奏を見せてくれるのか、楽しみである。

そんなわけで、期待しながら、手持ちのソロピアノを棚から出して聴く。

『Une Croix Dans L'Ocean』(Victo、1994年)は、非常に内省的なソロである。静かに、音と音との間をとり、考えながら即興を繰り出してくる。勿論、そのまま眠くなるようなソロではない。46分、休みはない。

『Friday the 13th』(NRL、1997年)は、その初来日時の仙台における記録である。法政大学より前だったか後だったか覚えていない。ここでは、打って変わって激しい轟音のようなソロを見せる。やはり1本勝負。

『Mujician I』(FMP、1981年)と『Mujician II』(FMP、1986年)との2 in 1盤は少し遡るが、10-20分の演奏それぞれがバラエティに富んだ大傑作だと思う(C.W.ニコル氏が、ティペットの音楽のことを「音楽曼荼羅」だと表現しており、言い得て妙である)。特に冒頭曲の「All Time, All Time」の迫力たるや凄まじいものがあり、絶え間ない低音の基調をベースに、その表情が次第に変っていく過程が素晴らしい。

今日はどのような演奏だろう。やはりプリペアドなのだろうか。

●参照
キース・ティペット『Ovary Lodge』