Sightsong

自縄自縛日記

具志堅隆松『ぼくが遺骨を掘る人「ガマフヤー」になったわけ。』

2013-03-27 16:50:21 | 沖縄

編集者のSさんにいただいた、具志堅隆松『ぼくが遺骨を掘る人「ガマフヤー」になったわけ。 サトウキビの島は戦場だった』(合同出版、2012年)を読む。(ありがとうございます。)

著者は、沖縄戦の遺骨を丁寧に掘り出し、その死に至る経緯を探り、特定する作業を、30年近くも続けておられる。

何故か。それは、政府による遺骨の収集が、重機によって土を塊ごと掘り出し、その中からまとめて遺骨を取り出すような水準のものだったからだ。そのような杜撰なやり方では、仮に死者を特定できるような持ち物や手がかりがあったとしても、失われてしまう。それ以前の問題として、死者への追悼の念が乏しいのではないかという著者の指摘は、確かに的を射ている。 

まるで遺跡を発掘するように、丁寧に、死者が亡くなったときの状況を再現する。その推測のプロセスには、本当に驚かされてしまう。

たとえば、ガマの中の遺骨は、入り口付近と奥とに固まっていた。奥の遺体は、下半身のみが残されていることが多かった。じっくりと検証した結果、それは、手榴弾による「集団自決」が行われた結果だというのだった。

また、首里城の下に設置された日本軍の拠点を守るための場所から出てきた銃弾の数は、日本軍1に対し、米軍100であったという。語り伝えられたように、実際に、日本軍が1撃つと米軍は100撃ったのである。

このような検証のため、著者は、当時の武器の種類や特性、兵士の持ち物などに関する詳細な知識を活用している。それにより、沖縄戦の実状や、民間人・兵士がどのように死に至ったかが浮き彫りになってくる。

これは大変な仕事である。  

●参照
比嘉豊光『骨の戦世』(那覇新都心での遺骨収集)


小菅桂子『カレーライスの誕生』

2013-03-27 10:23:35 | 食べ物飲み物

小菅桂子『カレーライスの誕生』(講談社学術文庫、原著2002年)を読む。

日本独自の食べ物、カレーライス。ラーメンと同様に、他国をそのルーツとしながらも、日本で独自の進化を遂げ、バラエティに富んだ食べ方、作り方が普及している。また、ラーメンほどではないが(たぶん)、海外に店舗を持つチェーン店もある。

本書は、カレーライスが、どのような経路から日本に上陸し、どのように受容されていったかを追うものである。こと食べ物の話になると、やむにやまれぬ民族的本能のようなものが垣間見えて面白い。

大航海時代以来、多くのヨーロッパ人がスパイスを求めてアジアに渡航した。やがて、18世紀、英国のベンガル総督・ヘイスティングなる人物が、インドのスパイスや、それを調合したガラムマサラを母国に持ち帰る。これを、C&B社が調合しなおし、ヴィクトリア女王にも献上したという。すなわち、これが、『美味しんぼ』によれば「あらゆるものがカレー」であるインドの料理体系を、ひとつのレパートリーに単純化する歴史的な事件であったということができる。

英国では、カレーは、上流階級のものとなった。そして、百年を経て、江戸末期から明治初期にかけて、英国からもうひとつの島国・日本に上陸する。もちろん、「西洋料理」という触れ込みであり、最初は、西洋かぶれの上流階級の人びとが知るだけのものだった。

本書には、来日当初のレシピがいろいろと紹介されている。珍妙なものもあって面白い(作る気にはならないが)。

そして、ここから、日本独自の進化がみられる。玉葱、人参、ジャガイモという外来野菜の「カレー三種の神器」が入る。ラッキョウや福神漬けが添えられる。上野精養軒など西洋料理の老舗が情熱的にカレーを洗練させる。阪急などの資本が大衆料理としての普及に一役買う。既に、カレーは、和洋折衷の料理となってしまった。

興味深いことに、大阪と東京のカレーのちがいまでもが分析されている。それによれば、大阪では、牛肉が8割近く用いられ(東京は3割)、逆に東京では、豚肉が4割以上用いられている(大阪は1割)。明治の肉食は、とにかく牛であった。しかし、日清・日露戦争が起こり、牛肉の缶詰が戦地に送られた結果、牛肉の産地を控える関西と市場に流通する牛肉が減った関東では、人びとの嗜好までが違ったものになってしまったのだ、という。

なお、カレーに生卵をかける習慣も関西のものだということだ。東京丸の内に進出した、大阪の「インデアンカレー」も、生卵を載せるオプションを提供している。店名からして、カレー受容の奇妙なルートを示しているようだ。もちろん、インドのカレーとは似ても似つかないが、甘くて同時に辛いという変った味である。カレーひと皿にも、歴史の名残を垣間見ることができるというわけだ。

もっとも、インド料理がポピュラーなものになり、地方の差さえも多様化によって希薄化してくるのかもしれない。


インデアンカレー

■自分の「いま食べたいカレー」ベスト5(順不同、思いつき)
・「キッチン南海」(神保町)のカツカレー
・「ボンディ」(神保町)のチーズカレー
・「水主亭」(広島市)の豪快なるカレー(>> リンク
・「ニューキャッスル」(銀座)の「蒲田」(>> リンク
・「デリー」(湯島)のコルマカレー(もう15年以上食べていない)

●参照
中国の麺世界 『誰も知らない中国拉麺之路』