Sightsong

自縄自縛日記

ナツコ

2007-11-07 23:59:01 | 沖縄

『ナツコ 沖縄密貿易の女王』(奥野修司、文春文庫、2005年)を読んだ。あわせて、『けーし風』読者の集いで女傑(?)Uさんに頂いた、「ヒストリーチャンネル」で放送された同名のドキュメンタリー番組も観た。

戦後、1946年頃から1951年頃まで、多くの沖縄人たちが密貿易を行った。著者の奥野氏は、物資も食糧もない戦後の沖縄にとって、これは必要悪であったことを語る。そして、多くの人に畏れられ愛されたナツコが、商売だけでなく義侠心に溢れ、同時に家族愛という面では非常にアンバランスでもあったことを、魅せられたようにひもといていく。

密貿易の舞台は、糸満、本部半島、与那国島、伊江島、石垣、台湾、香港などだ。そして対象となったものは、海人草(回虫の駆除薬になる)、砂糖、小麦粉、鰹節、ペニシリンなど様々だった。また、米軍から物資を盗み出す「戦果」、戦争の落し物である薬莢の真鍮などが、リスクと引き換えにオカネに化けていったという。

番組では、石原昌家氏(沖縄国際大学)は、伊江島で多く見つかる薬莢が香港ルートから中国の国共内戦に使われていくこと、そして身内を虐殺された沖縄人が「戦果」を利用することをしぶとさ、図太さを表しているのだと語っている。

こういった繁栄はすぐに過ぎ去ったものの、「アメリカ世」でも「大和世」でもない「ウチナー世」であったのだ、とする著者のノスタルジアには少し抵抗を感じなくもない。沖縄のマージナル性は、現在の問題でもあるのだから。沢木耕太郎『人の砂漠』(新潮文庫、1977年)では、まさに日本と中国お互いの淵に存在する与那国と台湾との関係について、鋭い視線を投げかけている。

「ぼくが与那国を訪れる以前、この島について知っていることは僅かだった。ハイ・ドナン伝説と花酒とヤミ景気時代。しかし、その僅か三つのエピソードが、全て<国家>とか<法>といったものに鋭く拮抗するエネルギーを秘めていることに気がつく時、与那国においてついに変容しなかったひとつのものの存在に思いは到る。 
(略) 
 与那国が、この「記憶」の休火山を秘めている限り、日本という国家にとって与那国島は同化できぬ「異物」でありつづける。与那国島自体が、日本という国家にとっての休火山でありつづけるのだ。」

沢木耕太郎『人の砂漠』より

ところで、番組では、沖縄密貿易を扱った映画『海流』(堀内真直、1959年)や、海人ならではの追い込み漁を記録した『海の民 沖縄島物語』(村田健二、1942年)が紹介されている。『海流』は、那覇の桜坂劇場で2005年に上映されたようだ。いつか機会があったら観てみたいと思う。


『ナツコ 沖縄密貿易の女王』(ヒストリーチャンネル)より