わにの日々-中西部編

在米30年大阪産の普通のおばさんが、アメリカ中西部の街に暮らす日記

共和党の保険制度改革案:ルーザーは誰?

2017-03-11 | アメリカのニュース
 共和党の提示した、オバマケア(Affordable Care Act:ACA)に対し、さっそくニューヨーク・タイムズとワシントン・ポスト紙が火を吹いていました。

 炭鉱業が廃れ、職を失った貧困層向けに医療サービスを提供するクリニックに取材したのが、ワシントン・ポスト紙の「In a place of need, an unhealthy contradiction(需要がある場所の不健康な矛盾)」で、統計から、オバマケア撤廃・新法案によって損害を受ける人々を分析したのが、「Trump voters would be among the biggest losers in Republicans' Obamacare replacement plan(共和党のオバマケア代替案で、最も損害を被るのはトランプに投票した人々かも)」です。

 WPが取材したのは、かつて炭鉱で栄えた、全米で最も貧しい州、ウエスト・バージニア州の街のクリニックです。内容は、サブタイトルが示す通り、「オバマケアなしには、貧しく病気でトランプに投票した人々に何が起こるのか(They are poor, sick and voted for Trump. What will happen to them without Obamacare?)」です。アメリカでは、貧困層ほど肥満傾向が強く、慢性病に罹っている割合が大きいことは、日本でも知られ始めていますが、住民の多くが貧困層のウェスト・バージニア州マクドウェル郡で働くナース・プラクティショナー(臨床医と看護師の間の、ある程度まで診断や治療、処方箋を書く資格のある看護師)のケイシャさんの患者も、そんな人ばかり。

 このマクドウェル郡(写真左、WPの基記事からお借りしました)は、糖尿病、鬱病、心臓病に加えて、元炭鉱夫達の黒肺塵症等、慢性病罹患率型が高く、全米で最も寿命の短い地域です。この群の住民の74%がトランプに投票しました。トランプの「鉱業を盛り返す、この地に雇用を取り戻す」という言葉を信じて、トランプに投票しました。仕事ができれば、雇用主が保険代を助けてくれて、メディケイドなんか必要なくなる、と… 

 一方で、雇用者から保険補助を受けている勤め人たちは、オバマケアのせいで自分の保険料が上がったと不満です。働いてない怠け者に保険提供するために、自分たちが高い保険金支払いを強いられていると。まさに田舎で保守的な街に住む私の回りにも、そんな人が多いのです。でも、彼らが気付いていないのは、よほどの高所得者でもない限り、自分たちもオバマケアの恩恵を受けており、代替案によって医療費が上がること。

 一方で多くの高齢者や失業者は、オバマケアの恩恵で医療サービスを受けることが可能となりました。以前は、糖尿病患者や障害者は、所得の一定基準を超えればメディケイド(連邦と州の補助金による低所得者向け保険制度)の対象になりませんでしたが、オバマケアによって保険加入できるようになったのです。

 このクリニックには、年間で約8700人が訪れます。昨年のサービスの6割以上がメディケアによるもので、オバマケア以前に比べて2倍以上になったそうです。彼らは、新法案によって保険を失うかもしれない… ケイシャさんは、自身の兄が、保険が無いので病院に行けず、結果、手遅れなまでにガンが進行して、25歳の若さで亡くなってしまったので、自分の患者たちの将来が心配です。牧師の娘のケイシャさんは、トランプが当選したのも神の意志であり、神様には何か計画があるに違いないのだからと望みを繋いでいます。

 
 全米中に、その公約を信じてトランプに投票した人々がいました。医療費が高い、保守的な農村部に住む低所得の高齢者、具体的には、年収3万ドルの60歳以上は、トランプ当選を支えた人々であり、今回の新法案で最も打撃を被る人々でもあります。

 以下は、NYTが分析した、群別の投票結果と税額控除の図です。全米1500以上の郡で、保険により税控除を6千ドル以上失う人々がいる群の9割以上がトランプに投票した、そして、オバマケアを失うと最も大きな打撃を受ける70郡のうち68郡がトランプ支持だったことが示されています。



 オバマケアでは、個人で20万ドル以上、夫婦で25万ドル以上の年収がある富裕層は、貧しい国民の保険料を相殺するために、高い保険料を支払わねばなりませんでした。それでも、都市部の若い高所得層は、圧倒的にヒラリーを支持しました。でも、共和党の新法案でえらく得することになっちゃった。なんで、そうなるのー?

 この新法案によって、多くのアメリカ人が保険を失い、これまで通りの医療サービスを受けることが出来なくなります。製造業や鉱業を盛り返し、ミドルクラスの雇用を増大するというトランプの公約は、冷静に分析すれば、実現不可能であることも明白です。トランプに期待し、そして裏切られた人々も行動を起こし、事態は反転するでしょうか?それとも、後の祭りで、食いつぶされていくのでしょうか…?私には予想できません。嫌な予感しかしませんが、間違っていることを願うだけです。

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