今夜、観たのは、新聞で褒められていたのを読んだような気がする、晩年のルノアールを描いたフランス映画の「ルノアール 陽だまりの裸婦」(日本の
公式サイト)です。日本の映画について語る掲示板では、映像は綺麗、音響も秀逸、でも話は退屈という意見が多かったので、仕事をしながら観る「ながら映画」にいいかなと思ったのですが、息子を思う父の気持ち、兄と弟の関係が、実に美しく描かれており、すっかりのめり込んでしまいました。私はフランス語が全くわからないので、ちゃんと画面を見て字幕を読まねばならなかったせいもありますがw
数多くの名作を残した巨匠ピエール=オーギュスト・ルノワールの子孫ジャック・ルノワールの原作を基に、偉大な画家の晩年を描く人間ドラマ。光あふれる南仏を舞台に、不自由な体にむち打ちながらも意欲的に創作を続けた老画家と、美貌のモデルにまつわる知られざる物語を紡ぎ出す。心優しい芸術家を演じるのは『トト・ザ・ヒーロー』などの名優ミシェル・ブーケ。後にフランス映画界で監督として名をはせる次男との逸話や、世界を魅了する傑作誕生の瞬間に目がくぎ付け。
あらすじ: 1915年、コートダジュールにある大画家ルノワール(ミシェル・ブーケ)の邸宅に、絵画モデル志望のアンドレ(クリスタ・テレ)がやって来る。老いた芸術家は、先日亡くなった妻に頼まれてここに来たという彼女を喜んで迎え入れる。アンドレは翌朝から裸婦像のモデルとして働き始めるが、ルノワールは持病のリウマチ性関節炎に悩まされており……。
シネマトゥデイ
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本当に綺麗な画面。光が溢れて、輝いています。そして、小鳥のさえずりや波の音といった効果音も心地よく、音楽も出しゃばり過ぎず、ルノアールの絵が動いているよう。ですが、内容は時にシビアで、胸が締め付けられることがあり、音と映像のホンワリした気分とのメリハリも、「ながら映画」に適しなかった(いいことなんだけど)。特に印象深いのは、怪我をして帰ってきた次男のジャンが、リウマチに苦しんでいる父が女中たちに助けられながら風呂に入るのを見てしまったシーンです。ノアの裸を観たハムを、更に覗き見ているような背徳的な気分にさせる、ジャンが父の入浴を見るシーン。もちろん、ジャンはハムのように、面白いと思ったのではなく、女達に囲まれた老いて痛みに苦しむ父の姿を見て居た堪れなく目を背けるのですが、そのシーンを見ている側にも、ジャンの心の痛みだけではなく、そして自分自身(観客)がその場面そのもの、そしてジャンの痛みを感じる。暗い背景に浮かび上がる人物と風呂桶の場面はまるで宗教画のようで、静かながらも鬼気迫るものがあります。
ルノアールの周りには、かつて彼のモデルを務めた女性たちが女中として献身的に彼の面倒を見ているのですが、彼女たちは普通の女中ではなく、かつての画家とモデル(そして愛人?)であったという秘めやかな絆が有り、女中たち自身の間にも互いに彼女たちだけが共有する不思議な絆があるようです。その微妙な空気を匂わせる雰囲気も上手い!そして、私はモデルだけど、女中にはならないわ!と言い切っていたアンデレ(デデ)もまた、いつの間にか、そのサークルの一員となっているような。ただ、そこから追い出されたガブリエルという女性の存在がよく判らなかったのですが、後から調べると、ジャンを育てた女性だったそうです。作中で説明がなかったのは、フランス人ならだれでも知ってる事実だからかな?
晩年のルノワールが作品を生み出すミューズであり、後にアメリカに渡り映画黎明期の巨匠となったジャン・ルノワールを映画製作の道に進ませることとなる女性なのですが、演ずるクリスタ・テレのヌードはハリウッドの女優さんたちのシャープなボディーとは異なり、柔らかそうで、とても肉感的。コケティッシュで自由で、でもどこか洗練されていない彼女は、日の巨匠たちのにファム・ファタールにはなりきれなかったけど、美を生み出す「道具」であり「きっかけ」であった女性には適役だと思いました。
ジャンとデデの恋愛、作品が生み出される日常、画家の晩年はあくまでもお膳立てで、しかも、最後の最後に、ルノワールの永遠のミューズがはっきりします。ここに至るまで伏線は有りますが、結局、この映画のテーマは「家族」なのね、と、思わずにはいられませんでした。切れ長の目が印象的な三男のココ、最後にだけ登場する長男のピエールの兄弟の絆、ジャンとガブリエル、そして映画には登場しないけど、全てを繋げる一本の縦糸、ルノアールの亡き妻であり、息子たちの母親、アリーヌ。
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「母と子」(アリーヌとピエール)と、「子守をするガブリエル・ルノーと幼いジャン・ルノワール」
同じ印象派を代表する画家のクロード・モネも、妻と息子には先立たれているものの、妻の連れ子に実の子の計8人に恵まれた。セザンヌも明るい絵を描くようになったのは、父親が死んで晴れて隠し妻と結婚してからのよう。ゴッホの悲劇は弟には深く愛されたけど自分の家族を持つことは出来なかったことかなぁ、と、思ったりして。ルノアールは黒を使わない。楽しい色で絵がねばならない、という台詞がありましたが、そんな絵を描くには自身が暖かな環境にいないと無理なのかも。
私は特にルノアールの絵が好きというわけではないのですが、今度、ルノアールの絵に接することがあれば、もっと注意深く、その筆使いや色を見てみたいと思いました。彼の絵は肉感や髪の毛の柔らかそうな感じが魅力的で、お触りしたくなっちゃうのが、私的にモンダイなんですけど。さわ、さわ…