しろくま日記

読んだ本の感想を記録してみたいと思います。
なんだか忘れてしまうので。

クリプトノミコン 1-4 ニール・スティーヴンスン著 中原尚哉訳 ハヤカワ文庫

2017-02-11 | 海外SF
再びSFに戻って…といいたいのですが、後述しますが本作「SFなのか?」という疑問を読んでいて非常に感じる作品でした。

1999年刊 ‘12年ローカス誌SFオールタイムベスト49位、2000年ローカス賞受賞作。

これまた現在絶版ですがブックオフで1冊ずつ買って揃えていました。

比較的流通している作品なんでしょうね。

作者のニール・スティーヴンスンは「スノウ・クラッシュ」の作者でSFのジャンル的には「サイバー・パンク作家」に位置付けられているような感がありましたが…。
本作でもネットやコンピューターは重要な位置づけになっていますが非現実的な仮想空間的な話はなく、いわゆる「サイバー・パンク」とは違う色合いでした。

自分の「スノウ・クラッシュ」の感想を読み返したらかなり酷評していましたが、本作読んでの感想としても私的にはちょっと「苦手」な作家かもしれないなぁと感じました。

本作かなり凝ったストーリー展開と人物構成の作品で「ものすごい才能のある作家なんだろうなぁ...」とは思ったのですが、どうも面白く感じられない….。
「頭」では「面白いしできた作品」と思うのですが感情がついてこない…。

相性なんでしょうねぇ、全4冊と長大なこともあり読了に2ケ月かかりました。

内容紹介(裏表紙記載)
1チュ-リング
第二次大戦前夜、プリンストン大学に学ぶ青年ローレンスは、数学への興味を同じくする英国人留学生チューリングと出会う。やがて彼らは、戦争の帰趨を左右する暗号戦の最前線で戦うことに…それから半世紀、ローレンスの孫ランディもネット技術者として暗号に関わっていた。彼は大戦との因縁深いある策謀に巻きこまれていくが!?暗号をめぐり、二つの時代―第二次大戦中と現代で展開される情報戦を描く冒険SF大作

2エニグマ
解読困難な暗号エニグマで通信を秘匿するUボートと戦う連合軍支援のため、英国のクフルム島に派遣されたローレンス。彼はこの島の沖で座礁したUボートを調査中、エニグマよりはるかに高度な新型暗号と金塊を発見する。時は移り現代、ランディはネット事業のためフィリピン沖で海底電線敷設中、沈没した大戦中の潜水艦を発見する。半世紀の時をへだてたこの二隻の関係は?そして、交錯する事件の裏に隠された秘密とは・・・・・・

3アレトゥサ
ローレンスがその存在を発見した新型暗号アレトゥサ。日独間の一部の通信文にしか出現しないこの特殊な暗号に歯がたたない情報部を尻目に、ローレンスは自ら考案した電子計算機を用いて解読に取りかかる。その半世紀後、親族会議出席のため帰郷したランディは、たまたま目にした祖父の遺品の中にアレトゥサの調査記録を発見する。謎めいた祖父ローレンスの業績を追い、ランディは歴史の闇に消えた事実を探りはじめたが・・・・・・

4データヘブン
アレトゥサ暗号の謎を追うローレンスは進撃する米軍に同行、暗号電文の発信地フィリピンへ向かった。彼は、その地で日本軍が隠した莫大な金塊とアレトゥサの意外な関係を知ることに・・・・・・半世紀後、ランディもアレトゥサに挑んでいた。彼は資金難のデータヘブン事業を救うため、祖父の遺した記録をたどり、日本軍の金塊探索に赴くが・・・・・・!? 半世紀の時をへだて、幾重にも交錯してきた謎と冒険の物語は、今ここに大団円を迎える。


冒頭にも書きましたが、本作「SF」に分類されているようですが宇宙人が出てくるわけでもなく、コンピューターやネット社会はかなり重要なパーツとなっていますが、なにやらとんでもない科学技術が関与しているわけでもないので「SF」というのには非常に違和感を感じました。

構造のよく似た村上春樹の「ねじまき鳥クロニクル」の方が本作と比べればより「SF」といえるかもしれません…。

そういう意味では「純文学」とも言えそうですが…、一応エンターテインメントなつくりですし(特にラスト)「冒険小説」か第二次大戦パートは「戦争小説」という感じです。
カッチリ分類するなら題名通りの「暗号小説」なる分野をつくらばければいけないのかもしれません。

第二次世界大戦と本作執筆時点での現代を「暗号」を軸に交互に描いていくわけですが、序盤はお互いの時代で本筋と関係のなさそうな話が延々と繰り広げられるので「この作品どうなっちゃうんだろ?」という疑問を抱かされます。

ただ話が中盤・終盤と展開していくうちに二つの時代の「謎」が徐々に近づいていく様が破綻なく書かれていてその技は感心するしかありません。
快感ともいえるかなぁ。

また思い返してみると本作の主要登場人物、とても個性的かつ魅力的です。

私的にはなんとも「オタク」的かつシャイながら「女好き」で意外ともてる主人公の(多分?)ローレンスとランデイ両ウォーターハウスがお気に入りですが…。(ローレンスの方が...好きかなぁ)

いかにも海兵隊下士官な麻薬中毒者ボビー・シャフトー、「典型的」な「日本軍人」より少し冷静な後藤伝吉などなど魅力的でした。
ローレンスの奥さん=ランディのおばあちゃんはほんの少ししか出ていませんが強烈なキャラっぽく印象に残りました。
とくにローレンス時代の描写がいい...。

解説にも書いてあり、流れ的に物語の主旋律は現代側にあるのでしょうが、戦時中ということでドラマティックなためか第二次大戦側パートの登場人物の方が魅力的に感じました。
(後藤伝吉の漂流なども魅力的)

大戦中パートと現代パートでこれ見よがしに血縁者が出てきたり、最後の方では同一人物が時代を超え生き延びた姿で出てきたりとそれもまたかなりお遊びもある感じで楽しんで書いている感じが伝わりました。

実在の人物であるアラン・チューリング(暗号の世界では有名な人らしい)ととても脚色された(?)ダグラス・マッカーサー、チョイとしか出ませんがなんとも印象的な山本五十六なども日本人にとっては嬉しいかと思います。

こんな魅力的な人物が波乱万丈ストーリーを繰り広げられ楽しくないはずはないのですが...。

前段描いたように私にはなにか引っかかる感じがあり、手放しには楽しく読めませんでした。

原因が私の作者と相性の悪さなのか、純粋なエンターテインメント作品でなく「純文学」的に心にザラザラするものが残ったのかは「?」です。

後半の第二次大戦パートのボビー・シャフトー、後藤伝吉の動きが「怪人」ダグラス・マッカーサーがらみでなんとも不可解というか「夢」のようなところと最後のランディのビジネスパートナー アビ・ハラビーの激白の由来が理解できなかったことを除けばすべての謎を回収したきれいなラストになっていますが、その分「尻すぼみ感のあるラスト」と感じたのが頭で考えた欠点くらいで、本作好き嫌いはともかく作者の「才能」を感じられる傑作だと思います。

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