拝啓 夏目漱石先生

自称「漱石先生の門下生(ただのファン)」による日記

残念な幸せ

2007-04-18 15:33:25 | 音楽
こうなることはある程度予測できたけど、アヴリル・ラヴィーンの音楽は激変した。彼女は頭のてっぺんから爪先まで一分の隙も無いポップアイドルに変貌した。「てゆーかアヴリルはデビュー当時からポップアイドルじゃん」という声が聞こえてきそうだが、まぁ、それはそうなのだが、少なくとも前作まではロックっぽい音で自身を武装し、内省的な歌詞を乗せて欲求不満気味に熱唱していた。その佇まいを単なる「アイドル」として片付けるには軽率だし、2ndアルバムの一曲目「TAKE ME AWAY」でヒリヒリするような世界との摩擦を真正面から歌い上げる様はロックのそれだったと思う。
でも新作では、もうロック的な音すら捨て去り、「私、幸せ!超最高!」とひたすら歌い叫ぶ相当テンションの高いポップな曲がずらりと並んでいる。前作で鳴っていた「混乱を止められない、どうしたら良いの!?」という葛藤は、どうやら結婚したことで綺麗さっぱり消え去ったらしい。人間としては幸福かつ素晴らしい変化だが、ミュージシャンとしてこれほど退屈で残念な変化もない。誰もが踊れる軽快なリズムとひたすら耳に心地良いバンドサウンドと楽しそうなボーカルで埋め尽くされた新作。多分この程度の音楽ならアヴリル以外のミュージシャンでも余裕でやれるだろう。下手したら高校のイケイケな軽音部員ですら鳴らしちゃうかもしれない。もの凄い武器を手に入れたがために、大事だったはずの宝物を惜し気も無く捨てちゃった感じ?
というわけで一大変化を遂げたアヴリルの新作『ベスト・ダム・シング』。これは彼女を待ち望む世界中のファン達にどのように受け入れられるのだろう。神経質で不安定な時期を脱却し、ハッピーなポップを手に入れてしまったアヴリルにどれぐらいの文化的価値が残っているのだろう。…まぁ、なんだかんだで売れまくるだろうな。仮に過去のファンが離れたとしても音自体は過去最高にキャッチーだし、ヴィジュアルも過去最高に可愛いから新しいファンが食いつくだろう。特に1曲目と5曲目と7曲目は彼女が忌み嫌うブリトニー・スピアーズが歌ってもハマりそうな王道のアメリカンアイドルポップだが、なんだかんだで沢山の人を魅了するだろう(PVでダンスまで披露してるぞ…)。マイケミカルロマンスが大ヒットしたアメリカでこういう音楽がウケないはずがない。日本しかり。
もし本人に「こんなにポップなアルバム作っちゃって大丈夫?」と突っ込んだら「良いのよ!私は笑顔で歌って踊れるような音楽がやりたいのよ!ていうか私が最高だと思ってんだからみんな喜んでついてくるわよ!」という強気な答えが返ってきそうだ。「I don't have to try」という曲ではステレオタイプ的な「自己中なアメリカ人」像を演じ(あ、彼女カナダ人だっけ)「いいからあたしに従いなさい!」と高らかに宣言しているが、多分アヴリルのファン達はどこかMだから、喜んでついていくだろう。
それにしても世界中にいるアヴリル・ラヴィーンのフォロワー達はこれからどうするのだろう。アヴリルのブレイク後、例によって似たようなアーティストがわんさか出て来たが、本家があんなに陽気な作品を作った今、世界にちらばる「アヴリル風シンガー」達は彼女の変化にどう対応していくのだろう。日本のYUIとかはどうするのかな。世界中がまたもやアヴリルに倣い、強気なガールポップで埋め尽くされるとしたら…恐ろしいねぇ(笑)。