つれづれ読書日記

SENとLINN、二人で更新中の書評ブログです。小説、漫画、新書などの感想を独断と偏見でつれづれと書いていきます。

扉を開いた先には……

2005-05-11 18:26:05 | ホラー
さて、何だかんだ言ってホラー好きかも知れない第162回は、

タイトル:七つの怖い扉
著者:阿刀田高 宮部みゆき 高橋克彦 乃南アサ 鈴木光司 夢枕獏 小池真理子
文庫名:新潮文庫

であります。

七名の作家のホラー短編を収録したアンソロジーです。
私のような拾い読み人間にとって、こういう本は非常に有り難い。
例によって一つずつ作品を紹介していきます。

迷路(阿刀田高)……ある古井戸にまつわる話。怪奇でもスプラッタでもない。無論、よく解らないものが出てくるわけでもない。でも思わずきゃ~、となってしまう、ある意味ホラーの見本。現実を直視せず、すべてを自分の血筋と不思議な出来事で済ませてしまう主人公の歪み方が凄い。

布団部屋(宮部みゆき)……急死した姉に代わり、おゆうは兼子屋の奉公人となる。そこには奇妙な風習が――(以下略)。
非常に素直な話で、イマイチ面白くなかった。前半はちょっと怖いかな、と思わせるところはあったが、オチが悪い意味で予想通りだった。

母の死んだ家(高橋克彦)……作家の〈私〉と編集者の山崎は深い山道を歩いているうちに、とある別荘地にたどり着いた。そこは実は――(以下略)。
夢か現(うつつ)か定かでない後半が秀逸。私が母を呼んだのか、それとも母が私を呼んだのか?

夕がすみ(乃南アサ)……両親を事故でなくした従姉妹のかすみが〈私〉の家に来ることになった。〈私〉は素直に喜ぶが、大学生の兄は小さな従姉妹に心を開こうとしない。そしてある日――(以下略)。
布団部屋に輪をかけて素直過ぎる話。オチもまったくヒネリがない。

空に浮かぶ棺(鈴木光司)……『らせん』の外伝。正直、単独ではまったく面白くない。

安義橋の鬼、人をくらふ語(夢枕獏)……安義橋には鬼が出るという。ひょんなことから、源貞盛はそれを確かめにいくことになるが――(以下略)。
一押し。話の運びが非常に上手く、すらすらっと最後まで来て、おやっというラストを見せてくれる。ただし、ホラーではない。(笑)

康平の背中(小池真理子)……〈私〉がかつて愛した男、康平。彼には妻と気味の悪い子供が一人いた――。
どうにも説明しにくい作品。怖いことは怖いのだが、だから結局この息子は何だったの? と言いたくなる。もっとも、作品内で詳しく解説すると興ざめしてしまうのだろうが。

どちらかと言えば不作。
好きな作品が三つあったので、全く駄目というわけではありませんが、私的にはハズレの作品があまりにもハズレ過ぎて……。

しかし、ホラー短編を書くのは本当に難しい。
何と言っても、分量の関係からじわじわと怖がらせる手法が使いにくい。
唐突にブラックなオチを見せてしめるのが一つのテクニックとなっているだけに、読者がある程度それを予測しているのも辛い。
だからこそ書く醍醐味もあるのでしょうけど。

空中戦を挑むわけではない

2005-05-10 13:31:50 | マンガ(少年漫画)
さて、三回に一回は漫画を入れるようにしている第161回は、

タイトル:チェンジング・ナウ
著者:UMA
出版社:講談社

であります。

最近はギャグマンガも絵が綺麗でないと売れないのかも知れない。
絵の汚い漫画は拒否反応が出るので、個人的には有り難い話である。

で、本作だが、内容を言うのは非常に簡単である。
三人の子持ちである冴えない係長――藤岡公平は悪の臭いを感じ取った時、正義の戦士ドッグファイター01に変身する!

これ以上の説明は不要。(笑)

藤岡ですよ、フジオカ!
藤岡といえば『せがた三四郎』のあの人じゃないですか!
見た瞬間に作者のおおよその年齢が解っちゃいますね。(笑)

このドッグファイター、とにかく苦労人。
普通のサラリーマンとして働きつつも、悪の怪人と戦い(戦わないこともよくあるが)、家族で唯一正体を知っている娘に格好悪いと馬鹿にされ、上司にはいびられ、変なヒーロー仲間に取り憑かれ、なんとなく情けない敵に泣きつかれ……と、ギャグマンガの王道を突っ走ります。

ま、敵の女性幹部にドキドキしたり、変身した自分を指差して「わんわん」と言う一歳の息子に感動したりと、オジサン的にいい目見ることもありますけど。
ちなみにモチーフは仮面ライダーなのに、ライダーキックは使わないし、そもそもバイクに乗れません。(笑)

サブキャラも非常に楽しい。
どう見ても宇×刑×で、とにかく強くて格好良いマシンナーVV。
設定がモロに怪×ズ×ッ×で、変身しても素顔のままな装甲刑事ビッグバン。
実は意外な人が正体だったりする魅惑の女幹部クリムゾン・バニー。
ゴツイ顔に眼帯、軍服、といかにもな悪役なのに、実は真顔でギャグをかます大佐。
等々……特撮好きな方々にはお馴染みの面々が出てきます。

ギャグマンガは突っ込んでナンボですが、本当に突っ込みどころ満載。
『定例怪人会議』って何だよ! つーか、秘密結社が出前頼むな!
『ドッグファイター01取扱説明書』……って、変身グッズですか?
必殺技が『目つぶしチョップ』『スネキック』なんてセコイぞ、ヒーロー!

憧れのヒーローを馬鹿にするな、という人でなければ楽しめる筈。
まだまだ連載中なので今後も期待してます。

ちなみに、絵が微妙に私のイチオシイラストレーター加藤龍勇(加藤洋之)&後藤啓介氏に似てるんだけど、気のせい?


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恋は遠い日の花火ではない

2005-05-09 12:29:34 | 文学
さて、スカーレットの続きは四日後な第160回は、

タイトル:エバ・ルーナのお話
著者:イサベル・アジェンデ
出版社:国書刊行会

であります。

まず最初に断っておくと、本書は同じ作者の『エバ・ルーナ』の姉妹編です。
登場人物、物語、場所等に共通点が存在する……らしい。(笑)
しかし、ひねくれ者の私はこっちを先に読みました。初めて読む作家はまず短編集から拾うというポリシーを守っただけですが、果たしてこれが当たっていたか間違っていたかは、『エバ・ルーナ』を読んでから考えることにします。

ベネズエラに生きる人々の様々な愛の物語を集めた短編集です。
全二十三編を収録。一編の密度がとんでもなく濃いのでかなりの強敵と言えます。
全部紹介するととんでもないことになるので、気に入った作品をいくつか紹介します。

『二つの言葉』……一番のお気に入り。言葉を売って生計を立てている暁のベリーサのキャラが素晴らしい。彼女は大統領になることを望む軍人に選挙用の演説を売るのだが、同時にある魔法をかけた。時間とともにそれは、軍人の心を支配していく。魔法と言ったが、ファンタジーにあるような超常現象を起こすようなものではなく、たった二つの言葉というのがいい。かける際の描写も秀逸。

『心に触れる音楽』……ヤクザのボスの息子アマデオはとある村で出会った少女オルテンシアとつかの間の逢瀬を楽しんだ後、すっかりそのことを忘れてしまった。その後、140キロの道を歩いて会いに来たオルテンシアの処遇に困ったアマデオは、彼女を地下に隠す。一見、アマデオの方が立場が上に見えるが、実はこの二人の関係はイーブンである。閉じこめられたのは少女か、それとも男の方か?

『恋人への贈り物』……母に捨てられたトラウマのため本気で女性を愛せない男が、人妻に本気で惚れてしまうというコメディタッチの話。悩む主人公に祖父が与えたアドバイスが素晴らしい。つーか、お爺さんいくつになってもいい男ですな。

『トスカ』……夢見る女性マウリツィアの一生。ピアノ奏者を捨てて歌手を目指すも、途中で断念して平凡な主婦を選び、同じように夢見る学生と恋に落ちて旅に出てしまう。彼女の一生は夢と演技であったが、クライマックスでその二つに背を向け、現実を見ることを知る。ギリギリの瞬間まで夢を捨て切れていないところはいかにも彼女らしいが、最後に取った行動は見事だった。

『小さなハイデルベルグ』……ダンス・ホールで四十年間ペアを組んで踊ってきたにも関わらず、互いに一度も口を聞いたことのない船長とラ・ニーニャ・エロイーサ。船長の母国から来た親切な観光客が小さなハイデルベルグの扉を叩いた時、事態は大きく動き始める。傲慢に見えて、深い優しさを内に秘めたメキシコ女のキャラが良い。

『判事の妻』……いずれ女のために命を落とすと言われた荒くれ者ニコラス・ビダルと慎ましき判事の妻カシルダのロマンス。冒頭で予言が成就することが示されており、ラストまで破綻なく読ませてくれる。ところで産婆さん、いくらニコラスの運命が見えたからって、生まれた瞬間にそれを口にするのはひどくないですか?

『ある復讐』……復讐者ドゥルセ・ローサと彼女の家族を皆殺しにしたタデオ・セスペーデスの物語。憎悪と愛が表裏一体であることを示す、本書中、最も激しい話。プロット自体は目新しいものではないが、ラストの締め方が完璧なので気にならない。

とりあえず、ここでストップ。
基本的に大人の愛の物語なので、苦手な人は苦手かも。
物語の構成、描写の上手さは特筆に値します。
問題があるとすれば、手に入りにくいことか。(笑)

後は『エバ・ルーナ』が手に入るかどうかだな……。

ちょっとコーヒーブレイク

2005-05-08 13:46:34 | SF(国内)
さて、比較的おとなしめになっているの第159回は、

タイトル:スカーレット・ウィザード 3
著者:茅田砂胡
出版社:中央公論新社 C★NOVELS FANTASIA

であります。

しみじみ、ジャスミンには世間一般で使われている言葉と言うのが似合わないキャラだなぁ、と思う。

この巻はほとんどケリーひとりの話と言ってもいいくらいだが、その理由がすごい。……いや、世間的にはすごくはない。

ジャスミンが妊娠を理由に遠ざけたわけだけど、その理由が「マタニティ・ブルーの間はあまり夫と一緒にいないほうがいいそうだ」とのこと。

マタニティ・ブルー!?

……これほどこの言葉が似合わないヒロインも珍しい。
だいたい過度な運動はダメで歩くのは大いに結構と言われて30キロを歩き、ゆっくりできる運動にしろと言われれば1万メートルを泳ぐ。
これだけぴんぴんして、夫の暗殺計画をどう防ぐかと思案する妊婦にマタニティ・ブルーはないだろ。
いや、おもしろいけど(爆)

さておき、ストーリーそのものは1巻や2巻に較べておとなしめ。
ジャスミンが引っ込んでしまったので必然的に重役たちの標的はケリーに向かう。
「偶然」事故が重なったり、総帥専用車が故障して海へダイブしたりと災難が続いたり。

さらにラー一族の住む幽霊星へ行ってみたりと、基本的には伏線のほうが多い。

ただし、後半はケリーの見せ場。
とりあえず、飄々と、気怠げな、物事に拘らない、罵られても気にしないような役を演じてきたケリーの本領発揮……と言いたいところではるけれど、いいところで終わっているので4巻を待て、状態。

発売されたときには、「をい、まてこら」と思ったひとは多いでしょう(笑)

さて、もうひとつ、本編とは別に短編として「十一番目のダイアナ」という、いまはケリーの船であるダイアナの話が収録されている。

これはダイアナがなぜ製造されたのかや、そのもととなったある研究者のことなど、まだケリーと出会う前の過去の話。

この作家さんは、どうも長編癖のある感覚派の書き手だと思っていただけに、こういう短編も書けるのか、と感心してしまったとこはある。

ほんとうにコーヒーブレイク、ではないけれど、それくらいに軽く読める短編。

ただし、これを入れるためにいいところを4巻に回したのであれば、ちと……いや、多いに困りもの、ではある。

これまたシリーズにするのは間違いかも

2005-05-07 14:47:40 | SF(国内)
さて、早くも後悔先に立たずを地でいきそうなの第158回は、

タイトル:スカーレット・ウィザード 2
著者:茅田砂胡
出版社:中央公論新社 C★NOVELS FANTASIA

であります。

1巻の最後で、襲ってきた連邦軍を自分たちで撃退したにもかかわらず、「中尉たちを遣わしてくれた連邦軍に心から感謝したいと思います」といけしゃぁしゃあとのたまわったケリーとジャスミンの夫婦は、今度は原因不明の事故で遭難した財閥の宇宙船を探すことになる。

と、2巻の大部分を占めるのはこの話だけど、相も変わらず、この夫婦はぶっ飛びまくりであります(笑)

キャラクターはメインキャラがひとり……と、ちっこいのが増える。
ひとりは宇宙一有名な女優でジャスミンの友人であるジンジャー・ブレッド。
もうひとりはなんとケリーとジャスミンの子供。

ジャスミン曰く「生物学的に立派な女」だそうだが、読んだひとの中にきっと、ほんとうか!? と思ったひとがいるに違いない(笑)

……のだが、しっかりと妊娠しているところを見ると女性らしい(笑)
いや、ヒロインなのだから女性キャラに決まっているのだが、どうも剛胆さといい、腕っ節の強さといい、戦闘能力といい、戦闘機の操縦技術といい、男性とか女性とかではなく、人間か? と言いたくなるようなキャラなので……。

だいたい遭難した宇宙船を探すと言って妊婦の身体で、ケリーを追っかけ回した戦闘機に乗って出て行くなよ、ヒロイン。

さらに夫のほうは夫のほうで、通行不能のはずの「門(ゲート)」を、クーア財閥のどでかい豪華船で跳躍していってしまうし。

デルフィニアの王様夫婦も非常識街道まっしぐらだったけど、この夫婦も負けず劣らず非常識街道を突っ走って、突き抜けております。

夫婦の、豪快で、非常識で、けれど痛快な行動を楽しむもよし、周囲の人間を気の毒がりながら笑うもよし。

何も考えずに、楽しみましょう(笑)

ジャンルはいちおうSFなのかも

2005-05-06 21:41:31 | SF(国内)
さて、個人的にはどう考えてもライトノベルの第157回は、

タイトル:スカーレット・ウィザード 1
著者:茅田砂胡
出版社:中央公論新社 C★NOVELS FANTASIA

であります。

一匹狼にして、「海賊たちの王」……キング・オブ・パイレーツと呼ばれる海賊のケリー。

そこへ仕事の依頼だと言って、結婚届を突きつける共和宇宙一の財閥の総帥ジャスミン・クーア。

裏表紙の煽り文句には「かなり異色な宇宙恋愛物語(スペース・ラブ・ストーリー)」とあります。

……どこがだ……?(笑)

……さておき、この作品、舞台が宇宙で未来物と言うことで「SF」にしているけど、中身は最初の文章にあるとおり、ライトノベル以外の何物でもない。

とにかく、深く考えてはいけません(笑)

完全核融合炉のエンジンや、いわゆるワープの役割を果たす「門(ゲート)」など、言いたいことがあるひとは言いたくなるだろうが、突っ込んではいけない。

ストーリーはまぁまぁだけど、相変わらずこの作家さんの描くキャラクターと言うのは、極めて個性的で、存在感があって、そして笑えるのが特徴。

さすがに契約夫婦だけあって、夫婦のクセにまったく色気も惚気もない。
ジャスミンは、ケリー曰く「女の突然変異」と言うだけあって、かなり考え方はドライだし、何より男らしい。

ケリーのほうは、ジャスミン曰く「変態」
超一流の宇宙船乗りだが、誰も自殺行為としか思えないことをやらかす。
もっとも、ジャスミンのほうもどっこいどっこいで、人工知能が発達して宇宙船の運航の大部分を担うようになった時代に計器だけで飛ぶ戦闘機でケリーを追いかけ回す始末。

どう考えても、どっちもどっちだ(笑)

さらにケリーの船であり相棒の人工知能ダイアナ。
とても人工知能とは思えないほど人間らしいのは、まぁお約束の一種としても、スクリーンに映る自分や背景をコーディネイトしたり、男性相手にはダイアナ、女性相手にはアポロンと使い分けて管制官を籠絡したり、ケリーと漫才をしたり……。

どうしても個人的にはストーリーを楽しむと言うより、キャラクターの個性や行動を楽しむ、と言った感じになってしまう。

とは言うものの、見所がまったくないわけではない。
1巻は、結婚届にサインをする条件として出した鬼ごっこ、それから終盤の高級ホテルを舞台にした銃撃戦が見所かな。

しかし、相変わらずテンポはいいし、流れはスムーズだし、読みやすいし、軽く読むには最適の作家さんだと思うんだけど、このひと、クセなのか、ただ単に好きなのか何なのか、とにかく世界をつなげたがる。

1巻の後半に出てくる人類以外の知的生命体ラー一族。
「デルフィニア戦記」にも出てきた種族だし、この次のシリーズ「暁の天使たち」に至ってはデルフィニアの主人公のひとりであるリィを中心に、デルフィニアキャラの話だし。

どうもここが引っかかるので、これさえなければなぁ、と思ってしまうのである。

へヴィメタルではなくてモーターヘッド

2005-05-05 10:35:46 | 木曜漫画劇場(白組)
さて、少年漫画というとちょっと語弊がある第156回は、

タイトル:ファイブスター物語
著者:永野護
出版社:ニュータイプ100%コミックス

であります。

扇:ナマクラでも切れ味鋭いと言い張るSENです。
正しい書評は好きな作家も真っ二つ!

鈴:カマクラより奈良京都あたりのほうが好きなLINNです。

扇:誰が観光の話をしとるかっ!
というわけで、好きな人にとっては説明するまでもない『五星物語』(笑)です。
元の世界観は『重戦機エルガイム』というアニメから来てるんだけど、メインデザイナーだったこの作者が、独自の世界に作り替えて描いた漫画がコレ。

鈴:作り替えた割には、エルガイムのときのロボットがばんばん出てくるなぁ。
ちなみに、どう見てもロボットマンガなのに、作者は「おとぎ話」だと言い張っているらしい。

扇:ある意味おとぎ話というか……ファンタジーだな。
一番強いのは神だし、魔法使いや忍者出てくるし、どーみても立ちそうにないロボットが二本足で立つし。ま、ロボット戦ではビーム兵器撃つより殴って転ばした方がてっとり早い、というのはある意味リアリティがあるが。(笑)

鈴:形や構造の欠陥を指摘しても始まるまいて。ロボットものだから、多かれ少なかれそういうとこはあるし。
ビーム兵器はなぁ。1分間に何万発も撃てる戦車が何台いても1発も当たらないから、まったく意味がないだけだろうとは思うけど。

扇:構造上の欠点云々を抜いても、結局のところメカなんだから、倒れたら自重でアウトだと思う。ま、割り切って人間みたいなアクションさせた方が楽しいんだろうけどね。
内容をかいつまんで言うと、五つの居住可能な惑星が存在する星系で、MH(モーターヘッド)というロボットを中心戦力とした国家同士が争う話。で、合ってるかな?

鈴:もうひとつ。
マクロでは国家間の戦争だけど、ミクロではモーターヘッドを操る騎士(ヘッドライナー)と人造人間のファティマとのドラマ、ってとこかな。

扇:ファティマは思考制御を受けてるので、皆一様に男に都合のいい女です。だからというわけではないが、たまーに出てくる変わり種がなかなか良い味出してるけど。

鈴:都合がいいねぇ。ある意味、男性読者が理想としてるんではないかい?
献身的だし、従順だし、絶対に裏切らないし、年取らないし。
……と、さてそろそろメインキャラ紹介にいきますかね。

扇:んじゃ、主役、もとい最大の悪役アマテラスのミコト。
両性具有のミュータント、未来において絶対神アマテラスオオミカミになることが確定しており、そのパワーは軽く時空を越える。無茶苦茶傍迷惑な性格で、正直言って存在自体が害毒。ある意味パタリロの美形バージョンだが、善意も悪意も所詮飾り物なのでこっちの方が遥かにタチが悪い。

鈴:じゃ、アマテラスのパートナーのファティマ ラキシス。
人造人間なのに神で、何故かふたつの姿を持っている。アマテラスと一緒になると、余計に最悪コンビになる。

扇:では、星団最高のファティマ・マイト――クローム・バランシェ。
いわゆるマッド・サイエンティストで、やたらと能力が高いくせに情緒不安定なファティマを四十五体も作った。ちなみにラキシスもこの人の作品。
人間の中で最もアマテラスを理解していた人物……だった。ある意味永遠の恋人。

鈴:ただのエロ親父とどっかの大統領を兼ねるボード・ヴュラード(ミッション・ルース)。
主人公のソープ(アマテラス)を押し倒そうとするわ、自分のファティマを下着姿にさせてヒッチハイクさせようとするわ、光源氏計画でバランシェのファティマをゲットするわ、この物語の中でもっとも味のあるひと。

扇:ちっ、一番イイキャラ取られた。(爆)
あー、あと誰紹介しよう。ロッカーもどきのログナーは大っ嫌いだし、やっぱデコース君もらおうかな。
狂乱の貴公子デコース・ワイズメル。
一巻から登場している騎士で、普段は変な顔したネジ一本飛んでる人だけど、マジになるとアマテラス直属の騎士を小指でのすぐらい強い人。アマテラスを変態騎士と呼んでみたり、ノリで黒騎士と呼ばれる強力な騎士を倒してみたり、暇つぶしに大魔道師と手組んで星団を荒らして回ったりと、楽しいことばかりしてくれる素敵なお方。つか、こいつとヴュラードいなかったらこの漫画読んでない。

鈴:それは言えている。あとは1巻でアマテラスの影武者をやっていたアイシャ・コーダンテがいいかな。
なんかぜんぜんストーリーの話をしてないな。
ストーリーは……細切れ(爆)
いちおう1巻ずつで、メインとなる話はあるんだけど、途中で違う世界の話は入るわ、時代は違うわ、入り組んでいてかなり説明しづらい。

扇:私はアイシャは嫌いだ。
無理矢理一本通すとすると、性別もなしに生まれたミュータントが母を失い、妻を失い、友を失い、友が残してくれたラキシスに愛を求めつつも自分でそれが信じられず、気付いた瞬間に彼女までも失ってしまって最後は時空を越えて追っかけていく話……の予定。

鈴:予定、だな(笑)
ホントにきちんとまとめられるのかはかなり疑問。
まぁでもファンはたくさんいるから、作者が生きている限りは続けさせてもらえるとは思うけどね。

扇:実はこの作品、毎回巻末に年表なるものが付いていまして、最終的なラストもそこに書いてあります。だから予定。(笑)
というわけで特に設定の矛盾とかにこだわらない、ノリで読める作品が好きな人に。
って――結局のところ少年漫画かっ。

鈴:いちおう少年マンガのジャンルに入るのかな、これ。
全体として、と言うより結構エピソードにおもしろいものがあるのでいいかも。
ただ、1冊の値段が高いのだけが玉に瑕……。

扇:ファンは苦にしないみたいだから、後はハマるかハマらないかだね。
というわけで今日の木曜漫画劇場はしまいでございます。
また、来週をお楽しみに。

鈴:まぁ、苦にしないからファンなんだろうけど。
と言うわけで、本日はいつもどおりに開館した木曜劇場はこれにて。
また来週にお会いしましょう

羅生門へGO!

2005-05-04 21:27:17 | 文学
さて、特務作業と未読の本の間で揺れる第155回は、

タイトル:芥川龍之介集(日本文学全集16)
著者:芥川龍之介
出版社:河出書房

であります。

私は日本文学が苦手です、人に勧めることもしません。
鴎外と一葉は個人的に好き。あれは何というか……素敵なのです。でも他はいいや。
山嵐と一緒に喧嘩しかける奴も下田の海で美少女に惚れる奴もカップルに写真撮ってくれと言われて空撮る奴もいりません。ましてや書生に片思いして布団に顔突っ込んで泣く奴など蹴り倒したくなります。

ただし、これだけは言っておこう。

芥川は凄ェ!

私の中で彼は別格なのです。
その短編の切れといったらもう……文学論なんて戯言にしか聞こえなくなりますね。

本書はそんな芥川の作品を集めたハードカバーの強敵です。
全四十三編、かなり手強いので図書館で借りてきてじっくり読むのが吉。
全部書くと凄いことになるので、好きな作品をちょこっとだけ紹介します。

『戯作三昧』……南総里見八犬伝の作者である曲亭馬琴を主人公にした話。物書きにとってはなかなか耳の痛い話がぽろぽろと出てくる。最後に姑のお百がもらす台詞が強烈。

『蜘蛛の糸』……とっても有名な話。子供時分、偉そうな御釈迦様に対して怒りを覚えた。後にこれのパロディ版を読んで御釈迦様が地獄に堕ちる様を見て大笑いしたのは秘密である。ちなみに、この話自体もドストエフスキーの話の書き換えだったりする。

『地獄変』……映画にもなったこれまた有名な話。個人的には語り口調ではなく、三人称で書いて欲しかったところだが、ま、それは私の我が儘か。底が見えない大殿様のキャラが良い。

『老いたる素戔嗚尊』……素戔嗚は櫛名田姫の面影を残す娘――須世理姫をそれは大層愛していた。しかし彼女も成長し、ついに父の元から旅立とうとする。素戔嗚は何とかして相手の男を始末しようとするが(以下略)。一番好きな話。親父イズム全開の素戔嗚が素敵である。最後の台詞の迫力が凄まじい。

『アグニの神』……童話(?)。香港の日本領事の娘である妙子が何者かにさらわれた。書生の遠藤は彼女を捜して上海に赴き、ある占い師と対峙する。ちょっと深読みすると、実は妙子が一番恐いんじゃないか、と思える話。

『侏儒の言葉』……世の様々な物事に関する芥川のおしゃべり。とにかく皮肉満載で、拾い読みするだけでも楽しい。接吻するときに目を閉じるべきか開けるべきかと問う女学生と、教課の中に恋愛の礼法がないのは遺憾だと述べる芥川が可愛い。

まだまだ書き足りないけど、今日はこのへんで終わります。
芥川評はまたやるかも……。(笑)


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タイム・シーフでGO!

2005-05-03 21:17:23 | ファンタジー(現世界)
さて、軽く読み返すつもりが本気で読んでしまった第154回は、

タイトル:モモ
著者:ミヒャエル・エンデ
出版社:岩波書店

であります。

ふと思いました。
嫌いな作品の評を書く時は筆がすらすら進むのに、好きな作品だと上手くいかない。
うーむ……下手に書いて、変な先入観を持たれるのが嫌だからかなぁ。

というわけで、モモです。
作者は『はてしない物語』、『ジム・ボタンの冒険』で知られるミヒャエル・エンデ。
そして彼の最高傑作です――少なくとも私の中ではそう。
(『鏡の中の鏡』もいいが、あれは嫌いな話も多いので……)



大きな都会にある小さな円形劇場。
ある日、忘れられたその廃墟に誰かが住みついた。
くしゃくしゃの髪と大きな黒い目を持ち、だぶだぶの上着を着た少女。
彼女の名はモモ。

周囲に住む、貧しいけど親切な人々がやってきて言う。
施設に入ってはどうか、誰かに面倒みてもらうべきだ、一緒に住まないか。
彼女はそれらすべてを否定し、廃墟に住むことを認めてもらえないかと問う。
人々はそれを認め、彼女のために一つずつ小さな親切を置いていく。

モモは人の話を聞くのが好きで、得意だった。
老若男女、様々な人々が彼女に話をするために円形劇場にやってくる。
他愛のない世間話、喧嘩の話、仕事の話、夢のような物語。
モモはどんな話だろうと、真剣に耳を傾ける。

貧しくとも幸せな日々は、じわじわと、しかし急速に消えていった。
時間貯蓄銀行に所属する怪しい男達が、町の人々に接触し始めたからだ。
人は余裕を忘れ、効率のみを求めて疾駆する、それが幸せだと信じて。
孤立したモモは、時間を奪った男達――時間泥棒と対峙することになる。



童話です。
ファンタジーです。
でも……子供だましの夢物語、ではありません。
ひじょーーーーーに恐いお話です。

時間泥棒は貴方の近くにも潜んでいます。
彼らの魔の手から逃れるにはどうすればよいか?
私も……その答えを知りません。

うーむ、やっぱり上手くいかないな。
これ以上書くと、内容全部書くことになっちゃうし。
読んで、楽しんで、考えて下さいとしか言えない。(無責任)

余談ですがこの作品、映画化されてます。DVDも出てる。

すごくいい出来です。

ほぼ完璧に原作を再現しています、しかもモモがハマリ役。
原作者エンデのお墨付きで、本人自身が出演している(!)のも魅力。
ビジュアル面では文句なしだけど、オチで原作を完璧に破壊した『ネバーエンディング・ストーリー』とはえらい違いです。まー、あれはあれで好きですけど。

(つーか……書評で映画のDVDをオススメしてどうするんだ?)

人の未来に干渉するな

2005-05-02 18:42:22 | マンガ(少女漫画)
さて、久々に引いた大ハズレな第153回は、

タイトル:目隠しの国(全九巻)
著者:筑波さくら
出版社:白泉社

であります。

表紙買い……かもしれない。
問題は、八巻まで読んでこの笑顔が大嫌いになった。
あまり多く語りたくないのだけど、とりあえず粗筋を述べておきます。

主人公、大塚かなでは誰かに触れるとその人の未来が視えてしまうことがある。
問題はこの未来を、彼女が変えることができるということ。
つまり正確に言えば、『未来に起こり得る可能性』を視る能力となる。

内藤あろうは誰か(何か)に触れるとそれの過去を視ることができる。
たとえば、木なんかだとその周囲で起こったことのビジョンが視える。
ストーリーの都合によって能力が広がるので確かなことは言えない。

ある日、お節介を地で行くかなでと、積極的に干渉しないあろうは出会う――。
能力のベクトルは全く違えど、同じ痛みを知る二人は互いに惹かれ合い恋に落ちた。
そんな二人の前にかなでと同じく未来を視ることができる並木が現れる。
彼は二人の甘さを指摘するが、やがて感化され、かなでに惚れてしまう。

かなではしょっちゅう他人の不幸な未来を視て、何とか助けようとします。
他の二人はその姿を見てハラハラするのだけど、結局最後は協力してしまう。

あ~もういいや、何が嫌いか言ってしまおう。
大コケしないんですよ、この子。特に後の巻にいくに従って。
彼女のやったことは結果的にいいことになるのです、挫折がありません。
おまけにサブキャラ達は癖はあっても本質的には善人ばかり……。
もちろん拒否反応を示す人はいるんですが、それは能力に対してであって、悪い結果になったからではない。

そりゃま、キャラクターは作者の可愛い子供です、贔屓したくなるのも解ります。
でもすべてが主人公達のために動いている世界なんて、おぞましいにも程がある。
かなでとあろうを拒絶する人々が皆一様に狭量な記号キャラでしかないのも劣悪。

正しい行動なんてありますか?
純粋に相手を助けたいと思えば、常にいい結果になりますか?
未来を決定するのは本人自身です、かなでの持つ能力ではありません。
しかし、事件のたびに彼女は自分の望んだ未来になったことに満足して微笑むのです。

虫酸が走りましたね。

つまりこの子、他人のことを考えてますってツラして、実は全く理解しようと努力してないのです。その意味では一番冷めてます。
周囲の人々が彼女に感化されて優しく(鼻で笑っちゃいますね)なっていく過程は見ていて気味が悪かったですよ、本気で。

かなでとあろうが寄り添うのは自然であり、そのままそうして二人の世界にいてくれれば特に文句はありません。だけどね、幸せの一環に他人をかき乱すことを入れるのはよして下さい。自分達が我が儘な人間だって自覚がちょっとでもあるのなら。

後日、相方にこの話をしたら。

「あ~、俺はともかくお前には合わないと思った(笑)」

と言われました。
そういうことは早く言ってくれ……。



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