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第328回 プロの「ツカミ」に学ぶ

2019-07-19 | エッセイ

 当ブログのタイトルは、看板みたいなものなので、関心を持っていただけるよう「気を持たせる」ものにするなど工夫はしています。加えて、冒頭の部分ーお笑いの世界でいう「ツカミ」も本文を読んでいただくための大事な導入部ですので、知恵を絞ります。とはいえ、「ツカミはオッケー(ちょっと古いギャグですが)」みたいに会心のものはなかなか出来ません。

 先日、見事な「ツカミ」だなぁと感心する一文に出会いました。たまたま目にした7月2日付朝日新聞の天声人語の書き出しに、思わず引き付けられました。お読みになった方もいらっしゃると思いますが、こう始まります。

「谷川俊太郎さんに「ごあいさつ」という詩があり、フォーク歌手の高田渡さんが曲にして歌っていた。<どうもどうも/やあどうも/いつぞや/いろいろ/このたびはまた・・・>。中身のないあいさつの連続は、そらぞらしい人間関係への皮肉だろうか」

 いかがですか?まずもって、この詩が、ユルクて、愉快です。しかも、私と同じ団塊世代の高田渡さん(故人)が曲にしてたなんて、全く知りませんでした。よくぞまあ、こんなニッチで懐かしさを誘うネタを引っ張ってきたものです。この詩の続きは?アトの話の展開は?などいろんな疑問が浮かんで、早く先を読みたくなりませんか。

 「そらぞらしい人間関係への皮肉だろうか」と不穏な文章で一区切り付けています。楽しいだけじゃなく、なにか仕掛けがありそう、まともな展開にはならないだろうことを予感させます。

 と、だいぶ長めの「ツカミ」になりましたが、天声人語の本題は、エラソー度で世界の一、二を争う米朝首脳が、DMZ(非武装地帯)で会ったというニュースです。
 以前の韓国旅行でDMZツアーを体験しました。不気味で、独特のピリピリした緊張感に包まれていました。




 DMZの中の南北境界線(DMZとはいえ、境界線があるんですね)を、お互いが数歩ずつ入り込んで、握手、立ち話を交わした、というものです。日本での扱いは、さほど大きくなかったようですが、アメリカではさすがに大きく取り上げられていました。

 天声人語子もテレビで見たようで、こう続けています。
 「「歴史的だ」「ものすごい前進だ」「並々ならぬ勇断だ」。大げさな形容詞が、二人の口から出てくる。(中略)戦いの当事者だった米国の大統領が、敵国の領土にひょいっと入ったのだから、歴史的であるのは間違いない。それでも素直に拍手できないのは、空疎さゆえだろう」

 所詮、世界に向けたパフォーマンス、立ち話、と片付けてしまえば身も蓋もないですが、冒頭で引用した詩が効いていて、痛烈な批評、皮肉、揶揄となっています。
 終わりの方で、「首脳間の話し合いは歓迎すべきことだ」とバランスを取るのも忘れていませんが、締めくくりが、これまた秀逸です。

 「谷川さんの詩は続く。<そんなわけで/なにぶんよろしく/なにのほうは/いずれなにして/そのせつゆっくり/いやどうも>。「いずれなにして」の中身を固めていく。そんな作業を今度こそ。」

 谷川さんの詩で「ツカミ」をし、その詩の後半をうまく利用して、「空疎」な言葉のやりとりだけでなく、じっくり、きっちり話し合うべき課題があるはずと、しっかり、きっちり「粋に」釘をさして終わる・・・う~ん、プロの技が光ります。

 私も未熟さを自覚しつつ、一歩でも向上するよう気持ちを新たにしました。引き続きご愛読下さい。それでは次回をお楽しみに。

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